福袋エレジー
- カテゴリ:日記
- 2014/01/15 21:02:10
「なあナベ」
悟は自分の前に立つ男に、そう話しかけた。
「ん? どした?」
ナベと呼ばれたメガネの男は振り返らずに答えた。
「今日は大晦日だよな?」
「そうだな」
「やっぱり勘違いではなく、そうだったか」
悟は少し落胆した面持ちをみせた。
ナベはその表情を汲み取ることなく言葉を返した。
「それがどうかしたのか?」
「いや、紅白見たかったなって……」
「いやいや悟さん! 今の紅白なんてAKB位しか用はないでしょ?」
「いや、あると思うが…」
「ナイナイ」
ナベは鼻で笑っていた。
大晦日の夜ともなるとほとんどの店は閉まり
各々が粛々と新年までの時を刻む。
それなのに何故、歩道で立ったまま新年を迎えなければならないのだ?
そんな思いが悟を、我に返らせた。
「ナベ、やっぱ俺帰るわ」
「おいおい待てよ! 俺を置いていく気か?
ウサギはな、寂しいと死んでしまうんだぞ! 俺をコロスキか!」
「いやいや列にたくさんのお仲間がいるでしょ?」
悟は少々おどけて返して見せた。
「お仲間……ねぇ……」
ナベは、ゆっくりと悟の方へ振り返った。
「こいつらが仲間? とんでもない!
こいつらは敵だ! オオカミだ!
周りをよく見てみろ どいつもこいつもギラついた肉食獣の目をしていやがる
いいか福袋というのは、肉食獣の檻に放りこまれた一片の肉なんだよ?
仲間だなんて甘い考えをしていたら、お前最初に死ぬぜ」
一気にまくしたてるナベに悟は少し圧倒された。
まるで百戦錬磨の強者のような物言いだ。
ナベのターンは、なおも続いた。
「まさかとは思うが、たかが福袋…。なんて思ってるんじゃないだろうな?
よくテレビでやってるだろ? 神社の中をダッシュする奴らを
あれと同じさ、ゲットできたものには1年間のラッキーは約束される。
いわば人生の特急券! お前も楽して1年過ごしたいだろ?」
「おっおう…」
「そうだろそうだろ悪いことは言わん、そこに並んどけ」
ナベの良くわからない迫力に負け、悟は列に戻った。
あと何時間この寒空の下でこうしていればいいのだろう?
最初のうちこそチラチラ時計を眺めていたが
やがて悟は考えるのを止めた。
「おう、お互い首尾よくゲット出来たようだな」
上機嫌のナベが福袋を2つ抱えて、待ち合わせ場所である駅へ現れた。
「おい遅刻だぞ」
悟は時計を指差して見せた。
「悪い悪い」
ナベは悪びれた素振りを見せたが、その実はどうだかわからない。
「さてそれじゃあ……」
そう言い掛けた時、目の前を一人の男が通り過ぎた。
「ん?」
ナベと悟は互いに顔を見合わせた。
なぜなら二人共、その人影に見覚えがあったからだ。
「レッキー!」
二人の呼びかけにその人物の足はピタリと止まった。
そしてそのまま180度回頭するとぼそりとつぶやいた。
「俺をレッキーと呼ぶな」
「あけおめことよろ~年末のエコ委員会以来じゃん 何してんの?」
レッキーと呼ばれた男は、少し怒りながら言った。
「渡辺ェ…。そんな日本語があるか!
明けましておめでとうございますと、なぜしっかり言えん!」
「まあまあ今日はめでたい日なんだから怒るな怒るな
で繰り返すがレッキーは何してるんだい?」
「ふん 服でも買おうと思ってな」
「元旦からか?」
「俺はお前らと違って年中忙しいからな、こんな時ぐらいしか時間が取れん」
「ふむふむ ってことはアレだな?」
即座にナベの口角は上がり、ニヤニヤした目でレッキーを見つめた。
「お前も福袋狙いというわけだな?」
だが暦村は、明後日の方向を見つめ
「違うな そんなものに興味はない」
と、言い捨てた。
「なぜだ?」
ナベは目を丸くして暦村に尋ねた。
「あのな福袋なんて謳っちゃいるが、中身はただの在庫処分だぞ
だれもが敬遠した服の詰め合わせがマトモなはずがないだろ」
暦村の言い分は至極的を射たものだった。
しかし、この発言でナベの何かに火がついたようだった。
「バカヤロウ! お前は誰だ? 三中のエースで生徒会長の暦村竹人だろう?
上に立つ人間に必要なものはなんだ?
それは指導力、カリスマ力
優秀な人間はもちろん、そうでないものにだって手を差し伸べる
それが上に立つ人間の責務だ!
だれも着ない服、それすらも着こなせる器だろう! 貴様は!」
「勿論だ渡辺!」
「行くか?」
「ああ!」
「いくぜ! 俺たちの聖地、秋葉原へ!」
「お前が先頭というのは気に入らんが行くか!」
二人並んで改札へ向かっている所へ
後ろから悟が声をかけた。
「あの~僕はこの辺で……」
「ああ、帰れ帰れこのリア充が! 女子を侍らして初詣にでも行って来い!
アキバはな、ボッチの聖地! リア充が足を踏み入れてトコじゃないんだよ!
俺はレッキーと痛絵馬眺めてくるからな!」
「左様ですか ではお気をつけて」
そうして2人は改札に飲み込まれて消えた。
悟は旧市街へ踵を返した。
「おい渡辺! 服はどこで買うんだ?」
水を得た魚と化したナベに釘を刺すように暦村は言った。
ナベが買っている福袋は、およそ自分が買おうとしているものとはかけ離れている。
そのことはナベ自身も理解しているようで真剣な顔をした。
「ん~そうだなガード下辺りどうだ? いろんな店がひしめき合っていてカオスだぜ」
「カオスってお前…。 俺は服を買いに来たんだが」
「大丈夫あるある。 御徒町方面へ行け!」
そういうと渡辺はいずれかへと去っていった。
「ガード下ねぇ…」
土地勘のない暦村は、しぶしぶそこへ向かうことにした。
暦村がガード下へ一歩踏み入れるとバチッと何か弾けるような音がした。
「うおっ!?」
その時、墨を流し込んだような奥深い闇の中に一瞬光が差した。
なにかがショートしているのだろうか?
焦げくさい匂いが辺りには立ち込めていた。
「……ここでいいのか?」
ガード下は昼間なのに何故か暗かった。
闇の中には、所々にモヤが掛かっていて、それが一層不気味さを引き立てていた。
少し歩き出すと闇の裾に溶け込むように街の断片が顔を覗かせている
銀行・コーヒーショップ・クリニング屋……
見え来るもので判断する限り、至って普通の町並みだがどこかおかしいとも感じた。
「まるでもやの底を流れる灰色の川だな」
暦村は薄暗い道路を慎重に辿って行った。
しばらく進んでいくと薄ぼんやりと明るい、日が差している場所を見つけた。
福袋販売中1つ1万円の文字も見える。
「ここか?」
まず暦村は店員の服装をチェックした。
(はっぴを着ているが、その下のネクタイ…。ブランドだな
漂う気品は隠し切れない。なるほどYシャツも上等なものを着ている
ここなら間違いはないか)
「おい店員! この福袋に服は入っているか?」
「はい?」
「服は入っているかと聞いている」
「あーはいはい勿論です。 福は入っております」
「そうか」
(後はどれを選ぶかだが……)
同じ1万円の福袋だが、その大きさには随分とばらつきがあった。
おなじみの紅白の紙袋から、巨大なダンボールまで
多種多様なのがココの売りらしい。
(さて、どうしたものか……。昔話的には小さいのを選ぶものだが
21世紀に昔話もないだろう
デカイ箱なら幾つも入っていて、その中には着れるものもあるだろうな
よし下手な鉄砲も数撃ちゃ当る作戦でいくか)
「おやじ、あの一番デカイのをくれ!」
「それには福がたんまり入ってるよ! まいどあり~」
巨大なダンボールを肩に担ぐと、ずっしりとした確かな重量感があった。
「あとはあの馬鹿を探して帰るだけだな」
暦村は薄暗いガード下を後にした。
尚、彼が服と福の間違いに気付いたのは家に着いた後であったという。
おぉ。。いつのまにスピンオフがΣ(・ω・ノ)ノ
ナベはなるほど。。そのキャラでしたか(´艸`)"笑
また、不定期で新作を楽しみにしてます。♪
ナベのキャラがついに明かされてしまいましたねw
とはいえ、もう出てこない気がしますw
福は、入ってましたね。 服ではなくw
まあレッキーは天然な気はします。
これは続きません。読みきりなのでね
楽しんでいただけましたか?
お正月に思いついたネタなので・・・。ズレは仕方ないでしょ!
ナベのキャラが少し立ってきたかなかな?
レッキーーーーーーぃww
ナベ~!!なぜか好きなキャラですw
暦村君、ちょっと天然ですね^^
福はちゃんと入っていたでしょうから大丈夫ですね(*≧m≦*)ププッ
続きあるんですよね~。
また、まとめて一気読みしたいな。
今後の展開が楽しみです。