振り向けば 【 前編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/12 20:55:26
振り向けば 【 前編/短編小説 】
振り向けば見えるのは俺が辿って来た人生。
それはあまりいいモノ、とは言えない。
特に5年前の…あの凍える冬の夜の事は今でも鮮明に覚えてる。
君のあの笑顔も鮮明に──。
──5年前
ギラギラと照る真夏の太陽の下、俺は日差しを浴びながら海水浴に来ていた。
連れは俺の妹の“華”と、幼馴染の“真太”そしてもう一人の幼馴染“梨乃”。
華は今日、大好きな真太に告白すると言って胸を躍らせている。
今日のいつもケバケバの華が今日から変わる、とナチュラルメイクにした。
水着もビキニだが、いつもより控えめの柄。華も女なんだなって改めて思う。
あんな小さかった華が同じように育った真太に恋して…なんか羨ましい。
俺はなんとなく、梨乃に告白されたから付き合ってなんとなく一緒に海来て…。
華みたいにキラキラしてるモンじゃない。
「 お兄ちゃんっ、海入らないの? 」
顔を覗き込むように尋ねてくる。
俺は眉を歪めながら華を見つめ、無愛想な顔で答える。
「 ああ、いいよ… 今日の主役は華だろ? 」
すると、華はニカッと八重歯を見せながら微笑む。
その姿を見て“ずっと見守ってきたかいがあったな”と笑みが零れる。
すると、海でずっと遊んでいた梨乃がこちらへ駆け寄ってきた。
「 涼太~、海入ろうよ! 」
甘ったるい女独特の声で腕を引っ張る。
俺は梨乃のこういうところが大嫌いだった……。
基本的に俺はぶりっ子が嫌いだ。見ててイライラする。
でも…、梨乃は昔からの馴染みだし、まあ美人だしなんとなく付き合ってる。
梨乃も十分満足してるみたいだし俺としてはまあこの距離で十分だと思う。
「 ねぇっ、涼太ぁ~ 」
「 あー、俺飲み物買ってくるわ 」
もういい加減この声を聞いてられなくなった。
急いで梨乃の掴んだ手を外し、自販機へと駆けて行った。
寂しそうな梨乃の目を見ても何も感じない自分が不思議で仕方ない。
こういう気持ちが生まれるたび、俺は改めて感じさせられる。
梨乃を愛していない。愛せないと。
なのに付き合うのは何故か…俺にはわからない。
自販機の前でボーッと考え込みながら、立ち竦む。
すると隣になんやら伸びる影。そこには茶髪のロングヘヤの女が。
まあまあ可愛らしい女。ビキニの上からパーカーを着ている。
小さな手には百円。この自販機は全て百五十円だと言うのにどうしてこの女は…。
「 …あっ 」
今やっと気づいたらしい。
俺はスッと五十円を自販機に入れた。
すると女はこちらを見上げ、慌てた顔で言った。
「 えっ、駄目ですよこんなの…! 」
初対面で会った第一声がコレだ。
細い指で“おつり”のボタンを押し、五十円を取り出した。
「 気持ちだけ受け取らせてもらいますね 」
眉を斜めに上げながらそう言う。
俺はそれを無視して華達のほうへと戻っていった。
取り残した女はその後どうしたのかは俺は知らない。
戻ると俺のシートには梨乃が寝そべっていた。
まるで誘うかのようだが、俺はまったく魅力を感じれなかった。
もう梨乃の元に戻るのは面倒だな…、そう思い、大事な華の元へと行った。
「 あっ、お兄ちゃん! 」
海で舞う妹は俺のほうへと駆け寄る。
一緒に泳いでいた真太も華のほうへと駆け寄ってきた。
すると真太は俺の前で突然華の肩を抱きだした。
「 涼太、俺達付き合う事になった! 」
とても嬉しそう。幼馴染だと言うのにこんな顔見たことない。
話を聞けば、実は真太も華が好きで片思いだと思っていたらしい。
こんな運命もあるんだなって感動に包まれる。
すると真太の口から爆弾発言が出た。
「 そういや梨乃とは結婚すんのかっ? 」
なんも考えてない、能天気な顔で尋ねる。
何も知らない華も加わって共に目を輝かせた。
もう梨乃の事は…好きじゃない。
もう…今は何も考えたくないな、うん。
「 わりぃ、真太 ちょっと先帰るわ 」
「 え?あ、うん… 」
「 お兄ちゃんバイバイッ 」
華の笑顔を見送り、俺はバスのほうへと歩いていった。
するとバス停にさっき会った五十円女が涙を流して泣いている。
あの時の焦り顔が蘇り、つい彼女の隣へ寄り添ってしまった。
俺に気づいた彼女は慌てて涙を拭き、無理矢理笑顔を作り始める。
その姿に久々に心をつかまれた気がした。
「 大丈夫? 」
初めて彼女に掛けた声。
彼女は不自然な笑顔で答える。
「 心配してくれてありがとうございます
…でも、私は大丈夫ですから 」
絶対大丈夫じゃないのに…。彼女は俺に気を遣ってるみたいだ。
この瞬間、彼女を守りたいと思った。彼女の手を握ってあげていたい。
二度とこんな涙を流さしたくないって思った──。でもまだこれは俺の片思い。
──俺の…初恋。
傍に居るしかできないこの時間を大事にする。
彼女が涙を落とす瞬間を何度も見つめ、そして胸を痛める。
こんな気持ち初めてだ。
どうすれば君を守ってあげられるだろうか───?
「 …バス来たから行きますね 」
そう言って乗り込もうとする彼女。
せめて名前だけでも聞きたい、彼女を手放したくない。
そんな俺の手はいつの間にか彼女の腕を掴んでいた。
振り向く彼女。戸惑う彼女の目は今でも忘れない。
そして名前を尋ねようとした瞬間…、背後から忍び寄る影を感じる。
「 ちょっ、涼太何してるの…!? 」
眉間にシワを寄せてどんどん近づいてくる梨乃。
これはそうとう怒ってるようだ。慌てて彼女の腕を放す。
だが梨乃の怒りは収まらず、彼女にまで及んでしまった。
「 うちの男に何するの!? 」
「 やめろよ!梨乃!こっち来い!!! 」
次は梨乃の腕を引っ張って連れて行く。
その隙に彼女に番号を渡して次会う機会を作っておいた。
戸惑う彼女の瞳を見送りながら、俺は梨乃を隅っこへと連れ込む。
そして俺のなんとなくに終わりを告げる瞬間が来たのだ。
梨乃の腕を掴みながら、謝る。
「 ごめん、梨乃… 」
「 分かってたけど…こんなのないよ… 」
梨乃の涙。でも…あの子には勝てない。
「 ごめんな、本当 」
「 何?これでアンタ幸せになんの? 」
あざ笑うかのように尋ねる。それでも俺はただ頷いた。
すると梨乃は俺に魂の平手打ちをして、走って帰っていった。
その時酷くできた手形を今でも忘れられない。
すると、ポケットでバイブが鳴り響く。
そこには知らない番号。一瞬で誰だか分かった。
汗をかいた手で彼女の連絡を出る。
「 もしもし? 」
『 あ…ありがとうございました 』
「 う、うん 」
『 もう一度…お会いしたいです 』
「 俺も… 」
こうして俺たちの物語が始まった。
後半へ続く。
早く続きが・・・笑