夕焼けへの誓い 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/10 23:50:21
夕焼けへ誓い 【 短編小説 】
降り積もる雪と共に落とす視線の先には凍てついた両手が。
真っ赤になってかじかんでしまっている。
それを温めようと必死に擦って、握ってくれる君はもう……いない。
あれは暑い真夏の日……。
照り行く浜辺で君と僕は歩いていた。
お互いの事まだよく知らなくて、初めてのデートの緊張していた。
それでも君は拒むことなく僕に微笑んでくれていた。
その日から僕は君の虜。
君に踊らされていても構わないと思うくらい釘付けになっていた。
夕焼け色に染まる海岸に伸びる僕等の影は、二人のムードを熱くさせる。
君はオレンジ色に顔を染めながら、僕にまた微笑んで言った。
「 今日はありがとう 」
そう言って帰り道を辿る君。僕はその時…心底帰したくないって思った。
君の笑顔をずっと見ていたい。君の傍でずっと微笑んでいたい。
思わず掴んだ細い手首を見て、君は不思議そうに首を傾げた。
「 どうしたの? 」
何も言えない。今はこの気持ちを言葉にするのは難しい。
いや…、言葉にしきれるとは到底思えない。
だから今はこうさせてほしい。
心の中で呟き、彼女を自分の胸の中へと引き込んだ。
戸惑う彼女の目は今でも覚えている。
そして、段々と受け入れてくれる彼女の目も体も全て──鮮明に。
その日以降、僕達は付き合う事に。
君の笑顔、そして僕の望みがどんどん叶っていく。
毎日のように聞ける君の温かい声。
毎日のように見れる君の美しい笑顔。
気持ちは薄れるどころかどんどん君色に染まっていく。
幸せに浸りながら、自分の家のソファに座る彼女を見つめる。
彼女はココアを啜りながらテレビを見ている。その横顔が愛おしい。
「 なあ、希… 」
テレビの音だけが流れるこの部屋で響く僕の声。
彼女はテレビに目をやったまま、返事をする。
「 なぁに? 」
ココアの湯気を浴びながら彼女の横顔はどんどんと冷たく見える。
実は最近妙に距離感を感じる。……手を繋いでも、唇を交わしても、心が遠く感じる。
彼女の心に迷いの芽が出ているように思えるんだ。
僕は彼女を見つめたまま、何も言えなかった。
この距離感が妙に寂しくて、冷たくて。まるで雪山にでも遭難したかのような想い。
笑顔はあの頃のままなのに君の心だけが離れていくような錯覚を覚えている。
やっぱり…、このままじゃ駄目だ。
僕はリモコンを手に取り、電源を落とした。
彼女は眉を斜めに上げ、目を丸めながら声を荒げる。
「 ちょ、何っ!?見てたのにっ… 」
僕達の温度差より、テレビの内容を気にする彼女を見て僕は確信した。
彼女は僕をもう愛していないんだ───と。それでも愛してるのは僕だけだと…。
静まるこの部屋で僕は口火を切った。
「 一度僕等話し合おう… 」
そう言うと、彼女は突然目を泳がし始めた。
ココアを握り締めている両手はガタガタと震え始める。
「 な、何…?いきなり 」
彼女の困り果てた顔を見て、罪悪感が生まれる。
しかし、これは僕のためでもあり彼女のためでも…ある。
「 最近、妙に温度差を感じるんだ 」
正直な思いをぶつける。すると彼女はココアをテーブルに置いた。
「 気のせいでしょ?私は隆弘を愛してる 」
そう言って手をあの頃と同じように握り締めた。でも…一つだけ違うモノがある。
あの頃君から聞いた「愛してる」に込められた想いと、瞳だ。
僕には分かる。君を見て来たから…大事に握り締めてきたつもりだから。
彼女の手はかじかんだ僕の手を優しく温かくしてくれるのに、心は温かくしてくれない。
たぶん……、いや。もう二度と君には温かくしてもらえないのだろう。
ならばいっそ僕達は君のためにも───、
PLLL......
「 …! 」
スマホが鳴り響いた瞬間、彼女は突然慌てだした。
スマホの電源を落とし、まるで隠すかのようにポケットに突っ込んだ。
一瞬で何か分かった。君の心の事もなんだか読めた気がした…。
今、君に言える言葉はこれだけだよ。
「 幸せにできなくてごめんね 」
「 …陸斗? 」
握り締めている彼女の手をそっと離し、微笑んだ。
真っ白な彼女の頬は涙で濡らされていく。そして口が開く。
「 ごめんっ、陸斗… 」
僕はあの日と変わらぬ手で、彼女の頭を撫でた。
あの頃と変わらぬ手で、彼女の頬を拭った。
あの頃と変わったのは一つ。君への想いがまた増えた事。
涙を流しながら去る君を追いかけることなく、僕は部屋で一人取り残される。
真冬の寒さのせいで曇るガラス。ベランダの外の景色がよく見えない。
彼女が誰かの元へと去っていく姿さえ見送れない。
でも、僕は祈ってる。
君がどこかで幸せであるようにと───。
──5年後
「 はい、ではそれはこちらで処理しておきますので… 」
あれから五年後。僕は転勤して自分に合った仕事を見つけた。
恋には振り回されることもなくなったし、今はバリバリ働いている。
でもやっぱりたまに思い出す彼女の笑顔と手の温もり。そして頬の感触。
取引先と電話していてもその思い出は消えること無い。一人で居る時でも消えない。
僕は今だに君を頭から消し去る方法を探してる。
いつまで続くか分からない迷宮に入ったようだ──。
コンコン。
「 はい? 」
「 あ、すみません…
新しく入社した粟野菫です… 」
「 どうぞー 」
扉が開くと共に入ってくる新人社員。
僕はお世話係だからこういう仕事はいつも回ってくる。
今回は男じゃなくって、女性社員のようだ。
「 し、失礼します! 」
震える声と共に彼女は入って来た。
ストレートの茶髪に緊張しきった瞳──。あの頃の僕のようだ。
「 えぇと、粟野菫さん…? 」
資料を拝見しながら、尋ねる。すると彼女は震えた声で返事する。
「 ハハッ、固くならなくていいよ
僕は西条陸斗っ 君の上司だよ 」
そう言って差し出した手。すると彼女はやっと安心したのか微笑みを浮かべながら
差し出した手をギュッと握り返してくれた──。
「 ……っ! 」
「 ? どうかしました? 」
その時の手の温もりを感じて驚いた。
忘れかけていたあの温もりが再び蘇っていく。
「 あぁ、いやなんでも… 」
彼女の不思議そうに首を傾げる姿。
あの頃の気持ちがまったく新しい形で芽生える予感がした。
「 じゃあ案内する 」
「 あ、はい! 」
迷宮のゴールは案外近かったのかもしれない。
そう心で呟きながら彼女と上司と部下の歳月を過ごす。そしてようやく距離を縮めた。
初めてのデートはやっぱり海岸。
するとあの頃とはまったく違う景色が広がった。
妖精のように浜辺を駆けていく君。跳ねる水しぶきが妖精の粉に見えた。
「 あんま走ると転ぶぞ~? 」
本当はずっと見ていたいくせに、そう言った。照れ隠しだ。
すると彼女は真っ白なカーディガンを靡かせながら振り返る。
そのカーディガンが妖精の羽のように見えて仕方がない。
そして彼女はニコッと微笑んで言った。
「 ありがとう、陸斗 」
「 ハハッ、やっと敬語なしで呼んでくれたね 」
思い出の場所、初めて人を愛する事を学んだ場所で僕はまた愛の芽生えをしる。
あの頃とはまったく違う形で…、芽生える愛を。
繋いだ手と手。隣に居る彼女の笑顔を見つめ、幸せに浸る。
そしてしっかりと繋がれた手と共に心の距離はしっかりと近づいていた。
もう離さない、離れることない。…君の瞳に吸い込まれながら夕日にそう誓った。
END
いいですね!今回の小説!!
今回の小説大好きです(*´ω`*)
いつも、書いてくれている小説も大好きですけど笑
やっぱ、復縁もいいですけど新しい恋もいいんですね。