恋の芽が出る頃に 【 第十三章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/10 16:46:38
第十三章 『 底が見えない想い 』
私はがむしゃらに廊下を走りぬける。
そして美由が涙を見せたあの場所へと辿りついた。
そこには、予想通り黄昏ながら私を待つかのように美由が座っていた。
後ろには様々な種類の花が風に揺らされている。
それはまるで私に「早くこっち来なよ」と手招きしているかのようだった。
誘われるように美由の隣に腰を落とす。
美由は寂しい目で私を見つめ、口を開いた。
「 夏芽ちゃん… 」
少し掠れたような声はさっき泣いたばかりと言う事を語っていた。
何もしてやれない私はただ俯き、「ごめん」と呟く。
すると美由は私の手を握って左右に首を振った。
「 謝るのは私のほう… 気を遣わせてごめん 」
再び頬を濡らしながら、そう呟く──。
長い睫毛を揺らしながら閉じる目から涙は止まらない。
「 どうして…美由が謝るの? 」
眉を歪めながら尋ねる。
すると美由は突然口を押さえ、涙を流しながら走り去っていった。
何も弁解できぬまま、何も和解しきれぬままで───。
美由の「ごめん」を理解できなかった私は、呆然と美由の背中を見つめる。
伸ばした手はもうすでに届かない距離に。
何もできない私は、そのまま瑠衣のほうへ戻っていった。
私の顔を見た瑠衣は察するかのように何も尋ねなかった。
ただ目を瞑って見逃すように明るい話題を私に提供してくれた。
その笑顔の裏にはきっと心配が隠れていたはずなのに、それを見せずに……。
放課後、バスケに集中できない私はベンチに座って先輩達を見ていた。
ひたすら汗をかく先輩達とは裏腹に、まったく汗を流していない私。
なんだか罪悪感が凄い…。胸も苦しい。
つい美術室のほうへ目をやってしまう。
美由は大丈夫なのかと不安の波が私を襲う。
そんな事を考えていると、肩を後ろからトントンと叩かれた。
振り返ると、そこには汗だくの坂谷君が立っていた。
「 大丈夫? 」
首を傾げながら尋ねる。
私は笑顔を作って、彼に「大丈夫」と返した。
すると、納得してないと言うかのように隣にちょこんと座った。
不思議そうに見つめると、彼は口を開き始める。
「 そういえば、今朝話してた事だけどさ… 」
両手の細い指を絡めさせながら口火を切る。
私は黙って彼を見つめるだけで、うんともすんとも言わない。
首に掛けたタオルを取り、太股に掛けて話し始めた。
「 俺、考えたんだけどさ… 」
目を泳がせながら、黙り込む私。でも彼は淡々と喋っていく。
「 ちゃんと本当の事確かめるのが一番じゃないか? 」
「 え…? 」
出した彼の答え。それは素直になると言う事なのだろうか。
「 礼太に聞くのが先決だと思うぞ 」
そう言って、ポケットに入れておいたスマホを取り出して電話を掛けた。
画面には『礼太』と名前が映っていた。知り合いなのだろうか…。
そして数秒後、彼は口を開く。
「 もしもし?礼太? 」
陽気に話す彼。やっぱり知り合いのようだ。
私は黙って隣でユニフォームを握り締め、ソワソワする。
真っ赤に染まったユニフォームの短パンは柔らかい風に吹かれる。
「 久々に話さない? 」
そう言って話題を切り出す。
やっぱり突然尋ねるのは不自然なんだろうなぁ…。
「 おう、じゃ部活終わったファミレスでー 」
そう言って彼は電話を切った。そしてポケットにスマホを直しながら
こちらを向き、微笑みを見せた。
「 俺が話つけるから、今野は安心していいよ 」
吸い込むような笑顔と優しさに私はもう虜だった。
頷くことさえ忘れ、私は彼を見てしまっていた。
「 おぉ~い、勇!何してんだよ! 」
「 あ、わりぃ じゃあ行くわ 」
ようやく私は我に戻り、コクリと頷いて手を振った。
彼の大きな背中を見つめながらつい微笑みが零れる。
すると私の隣にポツンと置き去りにされた青いタオルがあった。
「 これ… 」
さっき彼の首にあったタオルを思い出す。
記憶を蘇らせれば蘇らせる程顔が真っ赤に染まっていく。
両手でタオルを握り締め、試合中の彼を見つめる。もう私は釘付けだ。
「 夏芽ちゃ~ん、そろそろ試合入って! 」
「 あ、はい! 」
彼のタオルをベンチに置き、試合に戻る。
さっきの彼の言葉が利いたのか、試合には集中できた。
でもベンチのタオルを見るたび、気持ちが揺らぐ。
私はどこまで好きになってしまったんだろうか……?
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第十三章 『 底が見えない想い 』
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~あとがき~
遅くなってすみません!汗
テストが重なったり、受験が迫ったりで…。
次はもう少し早く更新できるよう頑張りたいと思います^^
短編はなんとか出せるので、皆さん是非そちらも宜しくお願いします。
きたコメントはできるだけお返しいたします。
ではまた更新日にノノ