Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


貴方に注ぐ愛 【 短編小説 】

貴方に注ぐ愛 【 短編小説 】


道端の隅っこで咲く一輪の花のように、私は目立たない。
足も止めてもらえず、行きかう人々を見つめるだけ。
こんな価値もない、愛してもらえない微かな命は…咲いてる意味があるのだろうか?


今日もそんな自問を繰り返す。答えは一切返って来ない。
そりゃそうだ。私には答えなんて見えてないんだから。


「 はぁ…はぁ… 」

綺麗で透明な水をひたすら眺め、口を漱ぐ。
最近ストレスのせいか、気持ち悪くなる事が多くなった。
これで蛇口を捻ったのが何度目かさえ見失っている。


透明なグラスに水を注ぎ、それを一気に全身に流し込む。
水道水とはいえ、枯れ切った体には痛いほど染みるのだ──。


そして、テーブルに置かれたリモコンのスイッチを押す。
テレビは色んな世界を私に見せてくれるが、どれもつまらない。
まったく私に刺激を与えてくれない。…私が求めてるモノはくれない。


笑い、悲しみ、怒り…。私が欲しいのはそんなんじゃない。


「 …ああぁっ 」

頭を掻き毟り、ボサボサの髪をより乱した。
目の前の小さな鏡に映った自分は見てられないくらい酷い格好だ。


──こんなんで愛される訳がない。


慌ててボサボサの髪を直し、巻きたての美しい巻き髪を作ってみせた。
髪の毛は機能染めたばかりの明るい茶色。そして耳には大量のピアスをつける。
ほぼ無い眉毛は、私の顔をより険しくさせる。


服は派手なワンピースに網タイツ、そして適当に手に取ったバッグ。
玄関に並べられた黒いブーツに無理矢理足を突っ込み、今日も家を飛び出した。


少し歩き、一歩踏み入ればそこはもう夜の街。
そこで私は行きつけのバーに入る。
そこにはカッコイイバーテンダーが居て、実は狙ってたりする。


カランカラン.....♪

「 いらっしゃいま… 
        ってまたアンタ? 」

呆れたような声でこちらを向き、グラスを並べる。
そんな彼を誘惑するかのように私はコートを脱いだ。


「 今日は何飲むの? 」

溜息混じりにそう尋ねた彼。
私は頬杖をつきながら、ニヤりと八重歯を見せながら言った。


「 カクテルちょ~だいっ 」

得意の上目遣い。カウンター席の前に立つ彼のハートに矢を放った。
…つもりだったのだが、彼は動じない。淡々とカクテルを準備し始めた。


そんな彼を見てつまらないと感じ、また退屈になる。
小さな鞄に仕舞ってあるスマホを手に取り弄り始める。


「 …また男? 」

カクテルを差し出すと共に尋ねた。
その質問に少し期待を寄せた私は笑顔で言った。


「 そんなとこっ? 」

男なんてもういないのに、変な嘘を吐く。
そう言った時の彼の反応を見たいがために───。


…でも、彼はやっぱり動じてくれやしない。
いつもと変わらないクールな表情で「へぇ」と言うだけ。
たまには真剣な顔して「なんでだよ!」とか怒ってくれたり…してもいいのに。


すねたように黙り込み、カクテルに触れずスマホを弄る。
すると彼は突然私のスマホを取り上げた。


「 えっ、何…? 」

突然の事に戸惑う私。しかし彼はいつも通りクールな表情で私を見ている。
いつもグラスを握っている右手には私のスマホがある。
そんな不思議な光景に包まれながら私は彼に尋ねる。


「 何?いきなり… 」

すると彼はスマホを上に上げたままこう答えた。


「 弄りすぎ、没収な 」

「 え、それだけ……? 」

何を期待してたのか自分でも分からないけど…。
なぜか裏切られたような気持ちになり、彼のポケットへ入れられるスマホを見つめる。
そして彼は何事も無かったかのように仕事を再開した。


唖然としてしまい、口が開いたまま。私は言葉も出なかった。
それを見計らった彼は磨いたグラスを置き、口を開いた。


「 お前さぁ、男変えすぎじゃない? 」

「 はぁ…? 」

純粋に輝くグラスに映る眉間にシワを寄せた私の顔。
そして彼はいつもと変わらない涼しげな表情で言った。


「 一ヶ月前くらいに男来てたけど…アイツはどうなったの? 」

今回ばかりはグラスを置いて話してる。
何を真剣に尋ねてるのか疑問に思ったが、私は素直に答えた。


「 別れた… 暴力が凄いから 」

まだ微かに残った腕のアザを隠しながら答える。
すると彼は溜息混じりにこう言った。


「 お前はいつもそういう男に捕まるだろ? 」

困り果てたような顔。まるで悪さした猫を捕まえて説教してるような。
ムッと来た私は眉を斜めに上げ、声を荒げた。


「 何!?アンタたかがバーテンダーでしょ!?
               …私の…何がわかんのよ!! 」

気に入ってたはずの彼に荒げる声は自分で聞いていても耳が痛い。
だが彼はそれにも一切動じず、しっかりと私と向き合いながら話した。


「 バーテンダーだから分かるんだよ 」

「 え? 」

「 お前が初めて来た時から気づいてたよ
              …………お前の孤独ってやつを 」

透き通った瞳に吸い込まれそうになる。


「 そん…な…、勝手に決め付けないで… 私は孤独じゃ… 」
「 なんでそうやっていつもバリア張るの? 」


言葉を被せるように尋ねる。
戸惑いを隠せず、何も言い返せなくなる。


その隙を見計らって彼は淡々と喋り始めた──。


「 疲れない?気張って生きるの
     …お前、いつも色んな男連れてくるけどあれ本命じゃないだろ? 」

「 なんで… 」

「 だってお前、いつも目笑ってない 」

どうして分かったのか…、どうしてそこまで分かるのか…。
私はどんどん裸にされていってるような気分になり、彼から一歩引いた。


「 なあ、そんな無理しなくていいんじゃね? 」

「 へ? 」

さっきの冷たい声とは裏腹に、突然春風のように温かい声となった。
逸らしていた目をもう一度向けると、彼は眉をゆがめていた。


それはまるで可哀想な小鹿を見るように。


「 …俺は飾ってるお前好きじゃない 」

静かで客の入らないこの時間に二人きり──。
私はバーテンダーと見つめあいながらカクテルにそっと涙を落とす。


「 俺はありのままのお前がいいと思うな 」

一粒、また一粒と落ちていく。
頬を伝う涙を拭うことなく、私はただ彼を見つめた。


そしてようやく自分が求めていたモノに気づく。
私が欲しかったのは笑顔でも、悲しみなんかじゃない。
…ただ、“愛”が欲しかっただけなんだと。


「 あの、私── 」
「 何も言わなくてもいいよ 」

冷たい頬に突然被せられた温もり。
彼の大きな手は私の枯れた涙をも飲み込んでくれた。


そして薄暗い小さなバーで、私は彼を唇を重ねると共に、本物の愛の花を咲かせた。
彼の愛を全身に感じながら、今まで流せなかった涙を流す。
私達のキスは少し、涙の味がした───。


そして過去の傷に優しく彼は触れる。
そのアザを隠すように入れた刺青が痛々しく輝く。


「 俺は絶対こんな事させないから、安心して 」

そう言って笑う彼の事を心底愛し、信じれた自分が驚きだ。
私は今まで本気で人を愛していなかった。
ただ求めることばかり考えて、愛なんて注ごうともしていなかった…。


でも今なら、注げる。
大事な貴方に…私の愛を注げる。


「 もう隠さなくてからね 」

「 うんっ、うんっ… 」

やっと素直に人前で泣き、自分を出すことができた。
彼の真っ白なシャツにしがみ付き、過去を全て洗い流すかのように泣きじゃくる。


それはまるで雲を振り切り、生まれ変わる花のようだった。


END









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2014/01/03 21:19
状況がイメージしやすくて読みやすいb
アバター
2014/01/03 02:17
機能→昨日
…私の…何がわかんのよ!!
→…私の…私の何がわかんのよ!!
一回…で切るならもう一回“私の”って付け加えたほうがリアル感でる
笑顔でも、悲しみなんかじゃない。
→笑顔でも悲しみでもない。
アバター
2014/01/02 22:47
やっぱり大切にしてくれる男性は素敵ですよね^^



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