遠距離 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/02 04:59:43
遠距離 【 短編小説 】
今日も冷たいドアノブを捻り、一人寂しく部屋に入る。
数ヶ月前まではいつもあった安心感も今となっては消えている。
今は不安の波に呑まれて毎日苦痛でしかなくなってしまっている。
唯一、安らぎを与えてくれる時間と言えば彼と電話してる時間くらいだ。
今日もコーヒーをカップに注ぎ、机に乗せる。
座椅子に腰を落とし、背もたれに靠れる。
「ふぅ~」と一息吐きながら、鞄に仕舞ったスマホを取り出す。
今日は彼から連絡が来てるかとワクワクしながらいつも見る。
スマホをジィッと見つめ、確認する。
「 …おっ 」
キタキタと言うように『着信アリ』の文章を見つめる。
折り返し彼に電話を掛ける。すると彼はまるで待ってたかのようにすぐに出た。
『 もしもし、紗枝? 』
彼の声は落ち着いており、いつも仕事の疲れを癒してくれる。
疲れきった私の顔をいつも笑みでいっぱいにしてくれるのは彼だけだ。
「 もしもし…、寝てた? 」
“寝てた”だなんてまったく予想してないクセにそう尋ねる。
そんな私の質問に彼は素直に答えた。
『 ううん、紗枝の電話待ってた
…どうせこのくらいの時間に来るだろうなって思ってたし 』
少しあどけない彼の声。まるで子供が母の帰りを待っていたかのようだ。
つい笑いが零れた。すると彼はすねたような声でこう言った。
『 笑ったな?紗枝
もう紗枝なんか知らな~い 』
そんな幼児のような彼が可愛くてたまらない。ここでまた癒されてしまう。
そして彼の優しさに包まれ、また頑張ろうって思えるのだ。
『 …そういえばさ 』
「 ん? 」
突然シリアス調な声になった。私の心も自然に締まる。
すると彼は吐息を零しながらこう呟いた。
『 もしかしたら今週末… 』
「 え… 」
わざと文節を切っていく彼。私の不安は募るばかり。
この後何言われるのか怖くて溜まらなくなった。
そしてまたあの吐息と共に聞える声。
しかしそれはさっきのシリアス調とは一転した陽気な声で、
『 帰れるかも! 』
そう今にもはしゃぎまわりそうな声で言った。
私も共に声を上げた。
「 やったぁ!
じゃあ隆平の好きなカレー作って待ってる! 」
スマホ越しに叫んだ言葉。その言葉に彼も飛び跳ねて喜んだ。
お互い、今週末を楽しみに尻尾を振って待つことにした。
「 じゃあまた…! 」
『 おう!おやすみ~ 』
隆平の癒しの声を聞き終わると同時に電話を切った。
そしてすぐに駆けつけたのは冷蔵庫。
週末までには3日もあるというのに慌ててカレーの素材を確かめた。
しかし冷蔵庫に常備されていたのは、ニンジンとジャガイモだけ。
「 買出し行かなきゃなぁ… 」
冷蔵庫の前で、明日買い物に行こうと決意したのであった。
そして週末、予定通り素材をしっかり集め、カレー作りを始めた。
台所に立つのは実は久々で、最近は残業三昧のインスタント三昧だったから…。
不器用な手を必死に動かしながら野菜を切り刻んでいく──。
そして彼が家に居た頃を思い出す。
いつも隣で笑って、泣いて、時には喧嘩して…色んな経験もした。
彼から学んだことも沢山あるし、学ばせたことだってたぁ~くさんある。
彼が転勤の都合で出て行っちゃうって聞いた時は驚いたけど……
私が笑顔で送り出したら彼も笑顔で行ってくれたし、別に絆にひびが入った訳じゃないし
仕事で疲れた時は必ず電話してくれる。
…やっぱり、私は支えられてる。彼が居なきゃ駄目なんだなぁ。
そんな事を再会の日に再び実感させられるなんて。
玉ねぎ切ってないのに涙が零れる。
これってやっぱり感情から滲み出てるモノなの…かな。
******
淡々と準備を進め、カレーは完成。
後は彼を待つだけだ。
プルルル.....
「 あっ… 」
ずっと待ち続けていた電話。
慌ててテーブルに置いたスマホを取り、電話に出た。
「 もしもし隆平?遅いよぉ… 」
『 …… 』
隆平はまったく応答しない。聞えるのは息を吐く音だけ。
様子がおかしいと思った私は、再び声を掛ける。
「 ねえ、隆平ってば… 」
『 …… 』
しかし、やっぱり応答はない。いつもの隆平と違う。
怖くなった私は声を荒げた。
「 なんか言ってよ!分かんないじゃん! 」
すると彼は少し震えた細い声で言った。
『 ごめん、帰れない 』
「 …へ? 」
なんと言えばいいか分からず、言葉を失う。
熱々で湯気立つカレーをただただ見つめながら呆然とする。
彼の言葉を受け入れられず、もう一度尋ねる。
『 ごめんな 』
──プツッ。
「 え? 」
まるでお互いの糸を切ったかのような音。
私の目の前にあるのは彼のために作ったカレーといつもの背景だけ。
あと数分後には彼が来て、昔みたいに笑い合って……
…何やってるんだろう、私。
「 …… 」
溜息さえ零せなくなった自分の身体を少し休めようとソファに寝そべる。
でも、見えるのはやっぱりいつもと変わらない風景。
仕事で疲れきった体で寝そべった時の風景と何も変わらない。
変わった、といえば愛情込めたカレーの匂いがするくらい。
何か変わらないかとスマホを見直すがやっぱり何も無い。
彼は帰ってこないんだ。
遠距離って……、やっぱり気持ち薄れちゃうんだ。
私はそんな事なかったけど、やっぱり彼は私の事を──…
ピィーンポーン.....
「 ……? 」
泣いて腫れた目で扉の前に立つ。
小さな穴から「まさか」と思いながら覗いてみるとそのまさかだった。
「 …嘘でしょっ 」
両手で口を押さえながらドアノブを捻る。
そこにはケーキと大好きな笑顔が待っていた。
「 サプライズ大~成~功!
紗枝ってば騙しやす過ぎる~ 」
そう言って少年のような陽気な声で笑った。
私はまだ信じれなくて、笑えなくて…。両手で口を押さえたまま涙を流す。
すると彼は本気で焦り始めた。
「 ご、ごめん紗枝やり過ぎた!
泣かすつもりはなかったんだ…でも特別な事がしたいなって… 」
両手を使って必死に物事を説明する。でも私の涙は止まる事なく流れる。
彼のサプライズで驚いたってのもそうだが、それだけではない。
もう一度会えた彼の大好きな笑顔と、そして直接聞える彼の癒しの声───。
それを全て全身で感じれて嬉しくて涙が溢れてしまった。
「 バカァ~!! 」
「 イッ…、イテェって! 」
彼の胸をポカポカと両手で叩き、反撃開始。
でも本気ではできないし、そんな事しようとさえ思ってない。
彼に会えただけで幸せ。
「 そうだ、今日紗枝の誕生日だったよな? 」
「 あ… 」
仕事が忙しすぎてすっかり忘れていた。
「 ほら、これ…ケーキ! 」
「 ありがと~!今準備するから! 」
そう言って振り返り、彼に背を向けた瞬間……、
首下にヒンヤリと冷たい金属製のモノが巻きつく感触がした。
ゆっくり首下に視線を落とすと、そこにはハート型のネックレスがあった。
「 …え? 」
もう一度彼のほうを振り返り、尋ねる。
「 誕生日おめでと、紗枝 」
またあの大好きな笑顔で…、いや今までより輝いた笑顔でそう言った。
また止まった涙が溢れる。私はネックレスを握り締めひたすらお礼を言った。
すると彼は私の両肩を掴み、目を見て言った。
「 紗枝に言いたい事があるんだ 」
「 …何? 」
「 迷惑とかいっぱい掛けるし、不安にもさせると思うけど
…でも、信じて俺についてきて欲しいんだ、一生 」
目が丸くなる。彼のいつも以上の真剣な顔。
吸い込むような瞳。私は笑顔でYESと答えた。
END
これからは、読んだらできるだけコメントさせていただきますねbb
aichaさんたら笑
彼が「帰れない」ってところで泣いちゃったじゃん笑笑
涙返せー!笑
もぉ、どうなるかと思ったじゃーん笑
2人があえてよかったあー!
遅くなったけど、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
この文がよく分からん
笑みでいっぱいにしてくれる→笑顔にしてくれる
また頑張ろうって思えるのだ→また頑張ろうと思えるのだ
この後何言われるのか→この後何を言われるのか
プロポーズがなんだか軽い