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■近代文藝之研究|講話|劇場問題(7)

■近代文藝之研究|講話|劇場問題 (7)

凡て日本の物事の行り方が昔のは此欠點を持つて居る、凡てを所謂ルール、オブ、サムでやつて滿足してゐる、知識的に或る程度までは譯もなく到達せられるものまでも、何だか秘傳でもあるかのやうにして、只漫然無秩序に行らなければならぬとするのは大きな間違ひで、踊、音樂などでも或る點までは新方法で容易に到達する事が出來よう、熟練は其以上にあるので、其手數は半分も省けて了ふ。序でにいふが右の油白粉は獨逸の發明であつて、今から二十年許り前頃から頗る行はれたものらしい。
◯終りに  これは私の往つた所ではないが、亞米利加の劇場の事を一ニ「スクリブナーズ、マガ」から引て見ると、紐育で入りのある劇場は一季節ニ三ヶ月位に達する。元來此所の劇場にはストックハウス即ち定劇場とコンビネーションハウス即ち寄合劇場とでもいふべきがあつて、定劇場は一季一座で打通し、寄合劇場は幾組かの俳優が入り代つて打つのである。亞米利加では人も知る如く倫敦巴里邊から盛んに一座を買ひ込んで行くのであるし、從つて歐羅巴の作者及び俳優は亞米利加を一の常得意として、如何なる名優名作者も皆亞米利加に其作や藝を出さないものはない。佛蘭西第一流の作者サルドゥウの如きは自身の事務所を此地に設けて自分の作を演じたいと思ふ者には其所で直接談判をさせる。けれども多數の作者は作の興行権を座主に賣渡し、または委托して置て自分では其衝に當らない。それでこれら亞米利加に於ける作者の所得は中々澤山になるのもあるが、時には甚だ少ない場合もある。普通には凡そ一週間の總上り高百分の五位を作者が得る。



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*註1:凡て日本の
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:所謂・往つた所・此所・事務所・其所・所得
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註3:知識的
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註4:程度
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註5:到達・達する
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:間違ひ
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註8:到達する事が出來よう
原本には「到達する事が出來やう」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註9:半分・自分・百分の五
「半」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han.jpg
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註10:獨逸
「逸」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註11:前頃
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註12:「スクリブナーズ、マガ」
『Scribner's Magazine』のこと。原本には「スクリブナース、マガ」とあるが誤植と思われるので改めた。『Scribner's Magazine』については下記 URL を参照されたい。
[参照1]⇒http://en.wikipedia.org/wiki/Scribner's_Magazine
[参照2]⇒https://archive.org/details/scribnersmagazi07logagoog

*註13:季節
「節」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_hushi.jpg

*註14:打通し
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註15:買ひ込んで
「込」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註16:作者・思ふ者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註17:サルドゥウ
ヴィクトリアン・サルドゥ(Victorien Sardou/1831年~1908年)のこと。フランスの劇作家。50年にわたる劇作家活動において約50作もの作品を書き、その多くが大当たりを取り、大衆の幅広い人気を得た。『ハエの脚』『祖国』『トスカ』等。

*註18:談判
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg

*註19:委托
現代では一般に「委託」と書くが原本のままとした。

*註20:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註21:一週間
「週」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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