Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


愛の脱出 【 短編小説 】

愛の脱出 【 短編小説 】

あの人に…会いたいの…。


今日も私は鉄格子から覗き、あの人を待つ。
鉄格子を握り締め、溢れた涙を堪えながら…、そっとあの人を信じる。
私が脱走できないように作られた鉄格子、そして数多くの門番達。
あの人が迎えに来る確率は低いって分かっているのに、私はまだ信じている。


…ねぇ、知ってる?
ここに居るって貴方に分かるようにいつも見える場所に居るの。
あの日貴方が偶然入ったあの場所で。あの場所でよ……?


******

──3年前の月が輝くあの夜。


この時はまだ窓に鉄格子はついていなくて、自由にお外の空気が吸えた。
深呼吸だって気持ちよく感じて、輝く月も邪魔されず観れていた。


この日は特別眠れなくて、私は空を見上げていた。
綺麗なレモンのように輝く月を見つめて両手を合わせていた。


「 お月様…、私最近良く眠れないの …いい事だってまったくないの
  もっとお外の世界に出て新しい出会いが欲しい…もっとお友達が欲しい… 」


毎晩のように言っている言葉。でもその願はまったく届かない。
窓の外を見ても居るのは門番だけだから…。


お父様が嫁げと言ってきて、お婿さんを連れてくるけど…皆、私を愛してない。
皆口揃えて言うの。「あなたのお家は経済が整っている」と。
皆私じゃなく、地位を狙っている…。私はそんな地位とかが大嫌い。


だからお父様が連れてくるお婿さんは全員嫌い……。
だからお月様、地位なんて関係なく愛してくれる人を私の元へ連れてきてください。
その人に私も精一杯愛を注いでみせます。


だから───っ


バリィィィィィィンッ…!!
「 ひゃぁっ! 」


突然鳴り響いた窓が割れる音。私はつい尻餅をついてしまった。
そして目を泳がせる。目の前には血だらけの倒れた男性が居た。
ぐったりとしていて意識はもう既に薄れてしまっているようだ。


私は慌てて脈を計り、生きてるか確かめる。
脈はもう薄い。私は必死にベッドに運んだ──。


そして、台所で食糧と看病に必要なモノを運んだ。
私は世間知らずだし、何もできないけど…看病の知識だけはあった。
昔よくお母様が熱出たとき看病してくれてたからそれで覚えた。


一睡も寝ずに看病し続けた結果、男性は薄っすら目を覚ました。


「 …あ、目覚めましたか? 」

看病してると言っても窓から突然入って来た男。
オマケに血だらけだったし…、世間知らずの私からすれば怖い生き物。
それに見知らぬ男性だなんてあまり見ないし……。


「 き…君は…? 」

薄っすら小声でそう尋ねた彼。
私は恐る恐る答えた。


「 え、えっと…この家の娘…です 」

微かながら手が震えてしまっている。
これでは怯えてると彼にバレれてしまう……。


すると彼は私の震えた頬に触れ、微笑んでこう言った。


「 ありがとう、助けてくれて… 」

必死に息しながら言葉を重ねる。顔は傷だらけのまま。
癒しを与えるべきは自分の体だと言うのに、手からは言葉では表す事できない温もりが。
この人は大丈夫だと安心した私は、思い切って手を重ねる。


すると彼はまた安心したかのように眠りに入った。
それと共に私も安心したかのように眠りについた──…。


これが、彼と私の出会い。
翌日お父様に頼んで彼を当分泊めることにした。
もちろん、客間という事になったのだが……、私は内緒で毎日通った。
お父様が出かけてる間はずっと楽しいお話を聞かせてもらっていた。


窓から飛び入って来た理由もちゃんと尋ねた。
すると彼は言いにくそうに言葉を詰まらせながら、眉を潜めながら言った。


「 …俺、実は盗賊なんだよね 」

言葉も出なかった。お父様にずっと聞いていた世にも恐ろしいあの盗賊とは…。
私はずっと口に手を当て、彼から一歩引いて距離を作った。
あの時の震えがまた出てしまう。…それを彼は気づいたみたいだった。


あの頃と同じ笑顔で両手で頬に触れて言った。


「 大丈夫、もう足は洗ったから …でもそれが原因でトラブルがさぁ 」

後半は苦笑いで言った。それでまた彼の温もりを感じ取った。
この人なら大丈夫だろうって…また信じれた。


この温もりを忘れたくない、離したくない、ずっと感じていたい……。
離れようとした彼の手を引きとめ、私はつい涙を流した。
まるで駄々をこねている三歳児のように。


「 ヤダ…、離さないで… 」

彼の力強い両手を、合わない小さな手で握り締める。
すると伸ばした彼の両手はより強く温もりが増した。
彼の純粋で綺麗なブルーの瞳は私をまっすぐ見つめていた。
私もブルーの瞳でまっすぐ彼を見つめた。…いや、彼の瞳に吸い込まれたのだ。


段々と近づいてくる彼の顔、そして口元に感じる温もりと吐息。
これが絵本で見た…キスなの…?


私は彼の吐息をひたすら感じ、そして目を閉じた。
次第に唇が重なり、吐息が体に流れ込む。とても優しい温もりを感じた。


「 …ごめん 」


「 謝らないで… 」

悲しげに謝った彼を抱きしめる。
今まで恐れてた彼はまるで少年のように思えた。


******


その日から私は彼と恋人同士になった。
かと言って今までとすることはあまり変わらない。
楽しいお話を聞かせてもらったり、お城の話を沢山したり…。


それが楽しくって、お父様がいるときでも私は通うようになった。
「看病だ」とか言っていればお父様は一切疑わない。…悪い子ね、私。


でも彼を愛してるから止めはしなかった。


「 ねえ、フランク… 今日は何を聞かせてくれるの? 」

寝そべる彼の隣に頬杖をつきながら、目を輝かせて見つめる。
いつも通り彼は楽しげに話してくれた。


「 そうだなぁ…じゃあ今日はマリアの好きな花の話を──… 」


──ガチャッ...


突然鳴り響いたドアの音。そこには怒り狂ったお父様の姿があった。
眉を斜めにあげて、眉間にシワを寄せている。私は震えが止まらない。


「 …お父様これはっ「 何やってるんだマリアッ! 」

私の言葉など聞こうとしない。


「 お前、看病なんていらん体のくせによくも…娘が目当てだったんだな!? 」


「 違うお父様、私が自分でここに来てたの!! 」


「 お前も丸め込められたんだな…、クソッ! 」


「 きゃ! 」

お父様は私の腕を掴み、外に出した。
そして私が入れないよう、ドアの細工を施した。


「 お父様! 」

何度扉を叩いても返事はない。
聞えてくるのは彼を殴る無残な鈍い音だけ──。
共に聞えるお父様の怒鳴り声は無性に私を悲しくさせた。


翌日彼は家から追い出された。私はずっと門番に見張られている。
外に出られないよう窓には鉄格子までされて…。
私は毎日彼に会えず涙を流している。愛おしさはどんどん増すばかり──。
両頬に感じられない温かみ。「温かい」という事以外全て忘れてしまいそう。


その時だった。
窓のほうからノックが聞えた。
窓のほうを見ると、そこには彼が居た──。


「 …貴方は! 」
「 シィ~ッ! 」


口元に人差し指を立て、合図を出す。
そして彼は鉄格子の向こう側から口を開き、こう言った。


「 必ず、迎えに行くから 」


「 …! 
      ……うんっ 」

つい涙が零れる。すると彼は換気扇から部屋に入って来た。
そして私の両頬に優しく触れた。
忘れかけていた温もりが蘇った瞬間、私は今までにないくらいの涙が溢れる。
その涙の意味は決して嫌なものではない。もっと優しいモノだ。


「 …また会えたな 」

そう微笑む。


「 遅いよ… 」

涙は彼の掌まで浸透していく。


そして私と彼は城から脱出し、二人で小さな家に向かった。
彼はしっかり真面目に働いている。私も共に働こうと決めた。


こうして私達は幸せに暮らした。


END

アバター
2014/01/03 21:18
素敵ですね^^
幸せな日々を送るには、やっぱり人の温かさが必要ですよね。
アバター
2014/01/01 08:59
お互いに協力し合って生きていくのが
良いですね。幸福な結末です。



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