最高の祝福 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/19 18:33:25
最高の祝福 【 短編小説 】
…今、私の片思いは儚く散っていった。
ずっと大事に握り締めてたつもりの温もりが手の隙間からするりと抜け出していく。
彼のためにしてきた事、積み上げてきた事、全てが崩れていった気がした──。
──そんな私の目の前に繰り広げられる光景は、
彼が彼女の隣で見せる最高の笑顔。…もちろん私には見せない。
隣に居る彼女より想う自信があっても、彼の幸せを願えても──……
そんなことは意味の無いこと。無意味だ。
そう、今思う。
今日もいつもと変わらぬ光景が私の前にある。
大好きな彼が大好きな人に笑いかけてる…、そんな光景。
でもその隣に居る彼女はその彼に特別な笑顔を見せてはいない。
彼女にはもう既に意中の男子が居るようだ。
それも知らずに彼は彼女に笑顔を向けている。
誰にも見せない…、私には決して見せないそんな笑顔。
教室に張り詰めた冷たい空気が私のまだ微かに残った恋心を突き刺す。
少し胸が張り裂けるような想いだが、これは耐えるしかないのだ。
──ただ笑って過ごすしか私には選択肢がないんだから。
「 ねぇ、何してるの? 」
何も知らずいつもと同じ太陽のような笑顔を向ける彼女。
…彼に向けてる笑顔とまったく同じだ。
何も知らなさ過ぎる顔───。
「 …少し受験勉強をねっ 」
恋だ何だと騒いでるうちに時は過ぎていくばかり。
『受験』というモノはいくら私が胸を痛めてたって決まった時間にやって来る。
私のやってることを確かめた彼女は、口を尖らせながら頷いた。
「 そっかぁ、偉いね 」
そしてまたあの笑顔を見せる。
誰にでもばら撒くあの笑顔を───。
またズキン、と心が痛んだ。ナイフのようなモノで刺された感覚だ。
今すぐにでも胸を押さえて保健室に駆け込みたいところだ。
…だが、そんな事してはいけない。
なぜなら私はこの二人の関係について決めた事があるから。
「 ありがと、莉乃はやらないの? 」
進めてるワークをペラペラと捲りながら顔に風を浴びせ、尋ねる。
すると莉乃はチラリ、と目を逸らして言った。
「 あぁ…やらなきゃね 」
そう言って莉乃は一向に動こうとせず、私の近くに居座る。
原因は聞かなくても見当がつく。彼女の目を逸らした方向でもわかる事。
彼女の目線の先にはクラスのムードメーカー、瀧上隆二がいる。
イケメンでモテるし、おちゃらけてる事はあってもやるときはやる奴。
笑いもくれるし、まさに本当のムードメーカー。
そんな瀧上は私の斜め後ろの席に居る。
恐らく近くにいたいっていう理由で私の所に来てるんだろう。
「 ワーク持ってこようかな… 」
そう言って彼女は小走りで自分の席にワークを取りに行った。
その彼女の近くの席には私の大好きな人が見える。
だが、私の目に映るのは少しでも近くに来てくれた彼女を嬉しそうに見る彼の目。
とてつもなく輝いており、それはまさにさっきの莉乃の目と同じだった。
──私はそれが悔しくて堪らなかった。
私はこんなに想ってるのにどうしてって思った。
だがそんな声は届くはずもない。
「 一緒にやろうか 」
彼女はまたあの笑顔で私にペンとワークを見せ付けた。
だから私もいつもと変わらない笑顔で返す。
彼女の事、彼の事、なんも思ってないと伝えるかのように───。
──時は何食わぬ顔で過ぎていく。
私の気さえ伺う暇もなくあっという間に……。
気づけば日付はクリスマス。
今年はクリスマスが終業式という残酷な状態だ。
だが私にとってはこの日が決断の日だった。
「 クリスマスだねぇ 」
そう莉乃は隣で呟いた。
私は黙って頷き、相槌を打つ。
今日もいつもと変わらない笑顔で私を迎えてくれる。
──しかし、一つ変わったことがある。
彼女が彼に注ぐ視線について…、だ。
今だに瀧上に注がれてるモノがあるが、しっかりと私は見た。
少しでも私の大好きだった人に注がれた視線を。
「 …そっかぁ 」
つい出てしまった一言。
「 えっ?何々? 」
また何も知らない笑顔で私に尋ねてくる。
今回ばっかしは何か私は絶対に言えないな……。
「 秘密 」
また私は何も思ってない、という笑顔を向けた。
そしてあの時決意した気持ちに再び火を付けた。
少し二人から離れた場所で私は見守る…、という決意。
『後悔しないために』と何度も考えたが私はどうしてもこの考えしか生まれなかった。
仲のいい友達、そして大好きだった…いや、大好きな彼のために出来ることは一つ。
──想いを心の箱に仕舞うという事。
この想いは私にとって大事ですぐに消すことは出来ない。
だから消せるまで私はこの箱に仕舞っておく。
あなた達を祝福しながら───。
これはあなた達のためでもあり、そして大好きな人への最後の思いやりだから。
この想いをくれてありがとう。大好きだよ。
あなたの優しさに少しでも触れれただけで十分。
ありがとう、今はあなたの幸せをここから見守る事にします──。