ある歌の物語 第五章 「夢からの帰り道」
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/15 13:46:39
幅のある階段を急いで下りた。
馬車が待っていた。
客室に乗り込み、御者に合図し出発した。
大広間での宴はまだ続いている。
そのざわめきが、車輪の音にかき消されながら、だんだん遠ざかっていく。
馬車は変な形をしていたけれど、気にならなかった。
自分だって、普通じゃない格好。
こんな刺繍だらけでキラキラ光るドレスなんて一生着ることがない、と思っていた。
家では、家事ばかりして灰だらけで汚れた格好しかできなかった。
そんな自分の姿を、継母や姉は笑った。
しかし、それは優越感や虚栄心で、本当は、それこそが笑われる心だということは感じていた。
自分の方が純粋。高貴。
そう思えた。
だから、耐えられた。
しかし、王宮での王子の嫁選びの舞踏会の話を聞いたとき、自分の心は負けた。
虚栄心に負けた。
「ああ、わたしも舞踏会に行きたいわ。王子さまに、お会いしたいわ」
そう、つぶやいてしまった。
耐えてきた。という想いも、虚栄心が奥底にあるからこその想いだった。
それに気づき悲しくなった。
老女が現れ、素敵な衣装とカボチャの馬車を準備し、夜中の12時までに帰ってくる約束をしたとき、その約束だけは守ろうと思った。
でも、舞踏会は本当に楽しかった。
あ、馬車がスピードを上げた。
12時が近い。家まで、もうすぐだ。
服も姿ももとに戻さなければならない。
彼に会えた。それだけで満足すべき。
王子の目を思い出す。
手を取りながら優雅に踊り、二言三言を交わした。
それだけ。
でも、分かった。
彼は私を深く深く理解してくれた。
彼は私の虚栄心さえ深く理解し、私もまた彼の孤独を完全に理解し、そして愛した。
愛すべき相手を見つけた。
見つめ合ったときにそれが分かった。
そうだ。こんな時は歌を歌うんだ。
本当の母から幼い頃に教えてもらった、本当に愛するものを見つけたときに歌う歌。
御者は気にするかしら?
・・・(歌)・・・・
家に到着し、馬車を降りる。
馬車はカボチャに、御者はハツカネズミに戻り四方に散っていった。
確かに非現実的だけど。
でも、あの人に会えた事。
それこそが夢。
私は、いつものみすぼらしい格好に戻り、家の掃除を始める。
姉や母が帰って来た。
ドレスを脱がししまわなければならない。
大丈夫。彼はいつか私を必ず見つける。
彼は私を理解している。
だから大丈夫。
虚栄心じゃない。
信じられるもの、信じ合える人がいる。
だから強く生きれる。
これが愛。
これが私達の愛。
その間、温めてくれますか?
と問うたら、自分で温めなさいと返してくれました。
家で二週間ほど温めたところ、温泉たまご風になってました。
美味しかったです。
憧れですね~^^