Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(97)

 冬至祭の前日。めっきり人が少なくなった学院の前に、あまり目にしない儀礼用の車が停まった。
 「…何であんなのを寄越すんだ?目立ちすぎないか?いくら早朝とはいえ…」
 学長の家の窓からそれを目にしたクリスが、うんざりしたような口調で言う。
 「でも、車を牽いているのは普通に馬だし、色も白くないから、あれでも譲歩してるんだと思うよ」
 公式行事で、王族を乗せるときには、幻獣が牽いているのだという。それこそ、めったにある事ではないが。三年ほど前の、戴冠式の時、ペガサスに牽かせていたのが一番最近だ、と思う。
 「通常だと、戴冠式の後、そう日をおかずに立太子式があるんだけどね」
 「まあ、ベッドで寝たきりの人を儀式に引っ張り出す訳にもいかないしね」
 ドアを敲く音がして、準備はできたか、とセシリアが顔を出す。
 「うわ……おにーちゃん、見違えた。どこの王子様かと思った」
 「それは言いすぎだ。窓の方を見てみろ」
 王宮に出向くのに着る服を指定されたりしなきゃ、普通に制服で、のつもりだったのに。
 「うわぁ……クリスちゃん……お揃い?おにーちゃんと」
 「セシリアの服とも、ね」
 「…え?あ、ほんとだ」
 上半身のデザインは、三人とも同じ。目の覚めるような青い光沢のある素材で作られた、ゆったりした――体のラインが表に出ないのにぶかぶか、という印象を与えないぎりぎりのゆとりのある――上着の合わせ目から、装飾的なブラウスの襟が覗く。下半身は、セシリアがひざ丈のシンプルなスカート。裾周りに金糸で縫い取りが入っている。同素材で作られている、俺とクリスのパンツの両脇にも、同じ縫い取りが入っている。
 車を降りて、用意された部屋に移動するだけのために、どうしてこんな趣向を。……まだ、祭りが始まってもいないのに。
 「…ああ、そうそう。準備ができたなら降りてきなさい、ってせんせぇが」
 …やっぱり降りて行かなきゃならないのか。直に車に移動するのは、いろいろと問題があるよな。
 「学長先生は、セシリアの格好見て、何か言ってた?」
 「えーと……「あの方にしては、おとなしいな」…だったかな」
 「…という事だから、そんな暗い顔しないで、行こう?」
 クリスに袖をひっぱられて――服の型崩れを懸念してか、引っ張り方がややおとなしい――しぶしぶ部屋を出る。
 そりゃ、今着てる服が、一番おとなしめなのは知ってるけど。
 アレに比べれば、何だっておとなしく思えるけど。
 「…なるほど。こういう趣向か」
 三人そろって階段を降りたところで、学長が感心したようなうなり声をあげた。
 「注目を集めながらも、誰か一人に注意がいかないようにするにはいいかもしれないな」
 できれば、注目を集めるのは避けたいんですが。殊に、王宮のようなところでは。
 「今日は、どこから入るにしろ、人目を避けるのは難しいようですから」
 …ああ、そうだったんですか。
 「…むろん、隠し通路でもあれば別ですが」
 「そういったものはあるでしょうが、そんなところから出入りする者は「客」とは呼べませんよ?」
 そう言ってクリスをたしなめた後、学長はセシリアと俺の肩に手を置き、こう言って送り出した。
 「じゃあ、楽しんでおいで、セシリア。それから、アレクも」
 …あまり「楽しむ」という気分にはなれないんですが。

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