恋の芽が出る頃に 【 第十章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/12 20:40:18
第十章 『 夏芽の魅力 』
重いのか軽いのか分からない足をファミレスへ向かわせる。
気候は春だと言うのに相変わらず冷たい風が吹いている。
体に当たる突風が妙に痛い。
早くファミレスに行かなくては。
そう思う反面、行きたくないという気持ちがあるのも事実。
やっぱり後ろめたい”何か”があるからなのだろうか。
「 …あ 」
明るく迎えてくれるファミレスで足を止め、見上げる。
そこには家族連れや、恋人達が揃っている。
まるで見せ付けるかのようだ。
拳をギュッと握り締め、決して楽しくはないだろう場所へ踏み入る。
ファミレスの陽気なベルの音を聞きながら、店員に案内される。
とりあえず部活帰りだから座りたい。
まずは座ってから落ち着いて考えたい──。
「 ご注文は何になさいますか? 」
ニコニコと笑顔で尋ねてくる店員。
その営業スマイルが妙に鼻につく。
「 アイスコーヒーで 」
少し素っ気無く注文をした。
「 かしこまりました 」
それでも営業スマイルは崩していない。
ベテランには見えない、アルバイトなのによくやるな。
そんな事を思いながらウォークマンを取り出した。
そしていつも心が参った時に聴くようにしている曲をセットする。
美由が来るまで時間はまだありそうだ。
曲を聴いて緊張を解しておこう。
そして、腕を組みながら曲を聴き始めた───。
──だが時間というものはあっという間に過ぎる。
「 お客様、お待たせいたしました~ 」
さっきと同じ店員がアイスコーヒーを運んでくる。
え、もう?と心の中で呟きながらも表情を変えず、受け取った。
だがやはり店員はずっとニコニコしている。
…鼻につく、というのも健在だ。
そしてチラリと横目で窓の外を眺める。
外には駐車場があり、そして入り口から入ってくる客が見える。
駐車場には家族連れの車ばかりが止まってある。
「 ……はあ 」
美由の件とは関係ない溜息。
私も父が生きていた頃はファミレスに来ていた。
もうあのファミレスは潰れてしまったけど……、いい思い出だ。
父が亡くなってすぐは母も気を落として家に閉じこもりっぱなしだった。
幼いながら私は私なりに母に気を遣っていたことを思い出す。
最近は母がなんだか私に気を遣ってくれている気がして……
「 …… 」
受験が終わったばかりだからかな。
カランカラーン.....
鳴り響いた陽気なベルの音。
何度も鳴っていたが今回のはなんだか違う。
嫌な予感の波がものすごい勢いで襲ってくるのだ──。
恐る恐る振り返ると、私の予感は当たっていた。
「 …美由 」
ポツリ、と姿を見て呟く。
美由は店員に一礼をし、こちらに向かってきた。
茶色い鞄を抱え、私の隣に立った。
「 ごめんね、待った? 」
ニコニコと微笑んでいるが、頬には泣いた跡がある。
十分隠したつもりなんだろうが、私には分かった。
ファンデーションを塗りたくっているようにも見える。
「 ううん、待ってない 」
と答えながら自分のアイスコーヒーを少し下げる。
美由は私の向かいに座り、メニューを開く。
そして五分程度で店員を呼んだ。
「 すみません、パフェ一つとココア一つ 」
軽い口調で注文した。
「 美由、夜ご飯なのに… 」
少し心配になり、つい言ってしまった。
「 かしこまりました 」
だがあの営業スマイル店員はそそくさと行ってしまった。
美由は自分の頼んだモノを楽しみにするかのように待ち構える。
鞄からスマホを取り出し、写真の準備までしている。
傍から見れば楽しい気分でファミレスに来たただの女子高生だ。
「 …美由 」
これはおかしいと感じ、発す。
だが美由はパフェが来るまで口を開こうとしない。
私のアイスコーヒーはどんどんと溶けていくばかりだ。
「 …お待たせしましたぁ 」
パフェとココアを抱え、テーブルに置く。
そして写真を撮り終えた美由はいよいよ本題に入る…、
かと思えばスプーンを手にしてパフェをバクバクと食べまくる。
「 ん~!幸せ! 」
目も合わせないし、私の事さえ見ていない。
まるで私が居ない者のように扱っているように見える。
「 …美由ってば! 」
つい大きな声を上げてしまった。
美由は驚いてスプーンを落とす。
目を大きく見開き、手を震わせている。
「 な、何?いきなり大きな声上げて…… 」
本当に分かっていないかのような顔。
「 何?じゃないでしょ!?何なのコレは! 」
精一杯の小声で怒鳴る。
「 ……怒らないでよ 」
少し寂しげに言った台詞。
私の怒りはグンッと下げられた。
「 本題に入りにくかったから…、緊張解そうと思っただけだよ 」
目を泳がせながらそう説明した。
「 私に…言いにくい話なんだ 」
勘付いた私は、美由の目を見れなくなった。
「 勘違いしないで 夏芽ちゃんは悪くないの 」
パフェのクリームを掬いながら、そう呟く。
そして説明し始めた。
「 夏芽ちゃんって、バスケ部でしょ? 」
「 うん… 」
「 前に話した私の好きな人の話、覚えてる? 」
美由は少し照れくさそうに言った。
「 ああ、うん 」
覚えてる限りの記憶を引き出し、思い出す。
「 その人が突然部活から抜け出して…、
で気になったから追いかけたらさ…… 」
すると突然美由が涙目になった。
「 …う、うん 」
「 バスケ部覗きに行っててっ…
ずっと夏芽ちゃんのほうチラチラ見てたの…… 」
手の甲で口を押さえ、涙を流す。
私はただただ目を丸くして「え」と言う。
というか唐突すぎてどんな反応すればいいかわからない。
「 え、待って…嘘でしょ? 」
とりあえず確認。
「 本当だよ… 」
頬に涙が伝う。
「 …えええぇ 」
頭の中が真っ白になった。
「 ごめん、ちょ、トイレ…… 」
とりあえず、この場を離れたい。
お互いのためにも。
「 うん、分かった 」
美由は理解したかのように言う。
そして私はこの場からはなれていった───
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第十章 『 夏芽の魅力 』
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続きになります
わぁあああ....
でもまだわかんないよね....??´・ω・`)
どんどん複雑になっていきますね;