雪の口実 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/07 22:11:38
雪の口実 『 短編小説 』
心地よい風を浴びながら目を閉じて深呼吸する。
夜空の涼しい気候は私の肌にヒヤリと通る。
風を浴びながら、髪を靡かせて少し笑みが零れる。
そんな事をしている今、私は大切な人を待っている瞬間。
スゥッと伸ばした睫毛揺れ、そしてまた深呼吸をしてみる──。
彼が来るのを、そっと待ちながら……。
……始まりは秋の風が吹き始めた九月。
私は失恋したばかりで、目を開けばいつも地面ばかり見ていた。
目に映る景色は秋の色になった並木じゃなくて、自分のしょ気た足元だけ。
コツコツとローファーの音が何故か寂しく感じる。
携帯を取り出し、大好きな人に送った今までのメールを読み返してみる。
その行為が自分に何を与えるのかは目に見えていると言うのに。
この片思いは儚く散ったというのに。
私は少し目に涙を浮かび上がらせながらメールを読む。
綺麗な携帯の画面がしっかり見えなくなる。
自分の打った文章、そして彼から来た言葉達……。
順調だとか、告白するだとか言っていた頃を思い出す。
そしてまた残酷な気持ちが浮かび上がるのだ。
「 ……… 」
何も言わずただ下を見る。
次第に自分という者が何か分からなくなってくる。
価値観、そして考え方───、それを含めて自分だという事さえも。
私は一体どうしてこの世に生まれたのか?
その疑問を抱えてこれからも生きていくのだろうか……。
そんな言葉にまた心を抉られ、溜息を零す。
……だが、そんな時に彼は私の前に現れた。
失恋だとか自分の価値観だとか、そんな物を考えさせないような笑顔で。
彼はただただ私に笑いかけてくれた。
「 ……アハッ 」
次第に私の口からは笑い声が零れるようになっていた。
それは決して彼の笑いに釣られてるからとかそんものではない。
君の温かさに今まで張っていた氷が溶かされたのだ。
……それはまるで、今まで自分を隠していた氷の女王のように。
その時、笑顔になった私を見て彼はこう言った。
「 やっと笑ったね 」
それは今までと比べ物にならないくらいの温かい笑顔で───。
例える事はできない。
でも、温かく優しい「何か」に包まれたような気分になった。
だが、それを例えることは決してできない……。
「 ……… 」
その瞬間、私の心は奪われた。
それは前の失恋した時とはまったく違う。
優しい奪われ方で……。
そして私なりに距離を縮め、頑張ってきたつもりだ。
アピール、アプローチ?そんな太祖な事はできなかったかもだけど……
でも、彼を必死に癒す事だけ考えてきた。
誰よりも誰よりも……、それだけは頑張ったと言える。
そんな過去を頭に巡らせ、目を閉じている十二月。
心地よい風を浴びながら目を閉じて深呼吸する。
夜空の涼しい気候は私の肌にヒヤリと通る。
風を浴びながら、髪を靡かせて少し笑みが零れる。
そんな事をしている今、私は大切な人を待っている瞬間。
スゥッと伸ばした睫毛揺れ、そしてまた深呼吸をしてみる──。
彼が来るのを、そっと待ちながら……。
そしてとうとうその時が来た。
「 ……! 」
密かに聞える足音を私は聞き取った。
少し照れくさそうに笑いながら近づく彼の笑顔。
私はそれと共に微笑み、立ち上がる。
彼は後頭部に手を回し、こう言った。
「 ごめん、待った? 」
私は首を横に振る。
すると彼は安心し、胸を撫で下ろした。
そして共に近くの花壇に腰を落とす。
肩と肩の距離が一cmくらいの所で彼は私に語りかけた。
「 ……で、話って? 」
何も知らないようなそんな表情だった。
私は唇を噛み締め、しっかり彼の目を見て言った。
「 あのね、実はさ…… 」
膝に置いてる拳をギュッと握り締め、勇気を注入する。
彼はキョトン、としたような表情で私を見つめている。
言うなら今しかないという事を分かってる。
「 ……山下って優しいよね! 」
つい出た言葉。
それは「好き」ではなく「優しい」という彼の印象。
言うなら今しかないと分かっていながらも、話を伸ばそうとする。
「 え、そんな事ないけどなぁ…… 」
照れくさそうに頬を人差し指で掻き、呟く。
そんな彼が可愛く見えて仕方が無い。
「 そんな事あるって 」
からかうように言う。
こんな事してる場合ではないというのに。
「 そんな事言ってる野田だって優しいと思うよ 」
そう微笑む彼。まるで倍返しするかのように見えた。
そんな事を繰り返している内に、もう時間は三十分も経っていた。
彼は携帯を見ながら、私の顔を見て言った。
「 時間大丈夫?もう九時回ってるけど…… 」
少し不安げな眉を歪めた表情。
私はそれを優しく返すかのように「大丈夫」と答えた。
だが、私が大丈夫でも彼が大丈夫じゃなきゃ意味がない。
時間を気にし始めたという事はタイムリミットは近づいて来てるという事だ。
「 ……あのさ 」
ついに本題に入ろうと話を切り出す。
「 ん? 」
首を傾げ、用を尋ねる。
「 私、山下に言いたいことあるんだ 」
目をしっかりと見て
「 何々? 」
何も知らない彼の純粋な瞳に吸い込まれながら
「 私さ…山下の事 」
あの頃の記憶を巡らせながら
「 うん 」
彼の覚悟した瞳を見つめながら
「 好きです 」
今、気持ちを伝えた───。
彼は顔を真っ赤にさせ、何度も「え?」と言っている。
言った後はなんだかもう開き直ってしまってる私。
握り締めていた拳もいつの間にか力が抜けていた。
彼は少し目を泳がせ、事を整理しているようだ。
「 え、待って 野田が俺を? 」
私を指さし、それから自分を指差して確認する。
私は正直に頷いた。
「 嘘だろ…… 」
彼は私から突然目を逸らし、目を開く。
ああ、もう終わったなと思った私はバッと立ち上がった。
「 まあ、返事とかどーでもいいからさ
……言いたかっただけだし。 」
とか言う強がりを言う。
そして背を向け、一歩進んだ瞬間──、
何か強いものに引っ張られた。
何かはすぐに察しがついたから、振り返らなかった。
……いや、振り返れなかった。
「 なんで振り向かないの? 」
私の心理状況を知り尽くしたような質問。
私は動揺し、少し目を泳がす。
「 答えてよ 」
そういう彼に背を向けたまま黙る。
するとその瞬間────、
「 ……きゃっ 」
さっきより強く引っ張られ、温かいものに包まれた。
それが何か、今なら言える。
「 逃げないでよ……、やっと 」
彼の抱きしめる力は次第に強くなっていく。
「 やっと、チャンスが来たのに 」
……え?
彼は抱きしめたまま私の耳元で囁いた。
「 このまま聞いて欲しい
……ずっとずっと野田に言いたかった事があるんだ 」
抱きしめる力はさっきより強くなっている。
「 実は…、俺も野田の事好きなんだ 」
「 っ!? 」
彼に顔を見せないまま目を丸くする。
そしてお互いの想いを告げ終わった瞬間、雪が降り始めた。
だがお互い雪については何も触れなかった。
……言わなくても分かる。
君も今同じ想いだって事。
君も今同じ事考えてるんだって事。
このまま抱きしめられてても……いいよね。
寒いから雪のせいって事で。
このまま抱きしめてても……いいよな。
寒いから雪のせいって事で。
恥かしさは一気に吹き飛び、私達は微笑み合っていた。
温かい者に包まれ、そして包みながら───。
END
早速、aichaさんの小説を読みに来ました
年明けで初めて読んだのが、この「雪の口実」
題名に誘われました
aichaさん…、
完全にパワーアップされているではありませんか!*
『心地よい風を浴びながら目を閉じて深呼吸する。
夜空の涼しい気候は私の肌にヒヤリと通る。
風を浴びながら、髪を靡かせて少し笑みが零れる。
そんな事をしている今、私は大切な人を待っている瞬間。
スゥッと伸ばした睫毛揺れ、そしてまた深呼吸をしてみる──。
彼が来るのを、そっと待ちながら……。』
この文章2回出てきましたね
ナイスアレンジです
過去と現在を行き来しているのが、よく目に見えてきましたよ
この作品、気に入りました*
素晴らしかったです
また、aichaさんの小説見に来ますねヽ(´▽`)/
感動をありがとうございました
こういう恋したいですね~ww
褒めるところいっぱいですよ~(*´꒳`*)
わあああ...野田さんよかったぁ...*
この小説読んでたら自分が告白したときのこと、思い出しました(
言いたかっただけだからってとこが似てます 笑
強がりを言っちゃうとこが←
いっぱい読めて満足です^^