もうひとつの夏へ (1)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/08/18 01:47:51
その日は朝からやけに蝉がうるさかった。今思えばあれが虫の知らせって奴だったかも知れない。
毎晩の暑さにうなされ、今夜もようやくうとうとし掛けた時に、不意に電話が鳴った。
「見たことのない番号だな」
普段なら出たりはしないのだが、なんとなく通話ボタンを押してしまった。
「もしもし」女の声だった。聞き覚えはない。誰だろう?
「もしもし」努めて冷静な声を出す。相手の出方をじっと伺った。
少しの沈黙、しびれを切らしたのか、女は声を上げる。
「起きてるの?恭介さん」
はっとした・・・。そして無数のハテナマーク。相手は僕のことを知っているのか?
「えーと、どちら様?」
情けないくらいの低姿勢で、聞き返してしまう。それは眠さのせいだったと今は信じたい。
「私です、ゆうゆです」
記憶を遡る・・・。ああ高校時代の同級生か、なんでまた?
「ああ、6年ぶりくらいか?珍しいな」
電話の主が判り、ほっとしたのか饒舌に言葉が出てくる。
「恭介さん、落ち着いて聞いてね」「ああ」「佳代が亡くなったわ・・・」
え? そこからの先のことは余り覚えていない。
佳代が死んだ?どうして?佳代ってあの佳代?え?・・・
佳代と、出会ったのは高2の放課後、ビルが赤く染まり始める街だった。
僕が、余程つまらなそうに立っていたのか、彼女が声を掛けてきたのだ。
「よ!同じ学校だね」・・・制服を見れば判る。
「何年生?」そんな、たわいもないことから話は始まった。
話していくと佳代は、「今、ちょっと好きになったかも」 「今かなり好き」などと相槌を打ち、最後には
「彼女いるの?」「いやいないな」「じゃあなってあげるよ」「はぁ?」
こんな強引なやりとりで、なぜか彼女になってしまった。
別段、それほど嫌な感じもしなかったので、そのままなし崩し的につきあうこととなったのだ。
それからはお互いのことを呆れるくらい長い時間語り合った。
その中には彼女の両親が不仲であること。
僕がもしかしたら転校する事なども含まれていた。
そして、運命のあの夏がやってくる・・・。
高三の夏、僕らは決意をする。
佳代の両親の不仲は限界に達していた。いつ離婚になってもおかしくないのだという。
また僕も、父親の仕事の都合で2学期からは、別の高校に通うことが決まっていた。
別れ別れになってしまう、そのことは、2人にとって耐えられるものではなかった。
「2人で暮らそう」
そんな夢みたいなことを、本気でやろうとするくらいには、若かったのだろう。
それから2人で、夏休みの間中バイトをしてお金を貯めた。
3つも4つもバイトを掛け持ちしがむしゃらに働くと、それなりのまとまったお金にはなった。そして31日・・・。二人は駆け落ちをすることにした。待ち合わせは @ニフィティ駅
行く当てもなく、そこから2人は旅立つはずだった・・・。
駅で、待った。何度も時計を眺めた。1時間過ぎ2時間が過ぎた。
しかし佳代は現れなかった。
傷心のまま、僕は、家に戻りそのまま佳代に会うこともないまま転校した。
その後、佳代の話を聞くことのないまま過ごしてきたのだが
偶然にも2年前、再びこの街に戻ってきたのだ。
風の噂で、佳代が2度目の結婚をしたと聞いた。
それほど狭い街ではない。もしかしたらすれ違ってはいたのかもしれない。
けれど、僕が佳代に、佳代が僕に気づくことはなかった。
斎場に着くまでは、ひどいどしゃぶりだったが、着いた途端太陽が顔を見せていた。
佳代の母親に、会釈をする。父親の姿はない。きっと離婚したのだろう。
黒いドレスのゆうゆに会えた。いっぱしの美人になっていた。
「見違えたな」「そう?」
一言二言交わすと、告別式が始まった。
予想に反して式は寂しいものだった。
人が亡くなって華美にするわけにも行かないだろうが
佳代の趣味とは到底かけ離れていたようにおもえた。
(アイツがお経で喜ぶかよ。ロックでも掛けた方が余程喜ぶんじゃないか?)
そんな風に思っていた。
帰り際、またゆうゆに呼び止められた。
「はい、これ」
2つのものを手渡させた。
一つには見覚えがあった。
佳代と初めてデートに行ったときに贈った恐竜のキーホルダー。
あちこち剥げたり、色は経年劣化しているが見覚えがあった。
もう一つは封筒だった。
「なんだこれ?」
いぶかしげに、ゆうゆに尋ねるが、彼女は既に歩き出していた。そして
「大富豪ビルに行きなさい、彼女が灰になる前にね」
そういい残すと、去っていってしまった。
「??大富豪ビル・・・?」
なぜだか彼女の言葉には、抵抗できない力があった、そう絶対遵守の呪いを掛けられたような。
気が付く、足は自然とそこへ向かってしまっていた。
(つづく)
7まで続きます、ゆっくりと読んでみてください~
ではお休みなさい☆
早速読んでくださったみたいですね!ありがとうございます。
続きが気になります^^
懐かしいはずですよね、夏はもう終わったのですから。
1か月しかたってないのに なんだか懐かしく読ませていただきました^^
ビニール紐の威力はすごすぎますねw
是非、ゆっくりと時間のある時にでも読んでください。
ビニール紐の威力は凄いです(*^^)v
少しずつ時間のある時に呼んでいきますねv(*'-^*)-☆ ok!!
たしかに一気に読むと、また違った、味わいがあるかもしれませんね。
どうぞ楽しんでください。
楽しみww
え?お知り合いに、同じ名前の方がいましたか?
4話くらいで終わらせたいと思いますので、今しばらくお付き合いください。
会社のお昼休みに読ませていただきました。
つづき待ってます。
もちろん違いますよw4~5回続くと思いますので、どうぞお付き合いください。
やっぱり何かロマンスを隠し持っていたんですね・・・。
すいません、望んだ形ではなかったとは思います。
ただこれ予想以上にながくなりそうですので、ここに登場させる形となりました。
それで大富豪のところにいたんだねwwwってちがう???
もうず~っと昔大切な人が旅立っていったときのこと思いだいました。
旅立ちの時にはそばにいたし全然ちがうんですけどね~