小国ミルゲリア
- カテゴリ:小説/詩
- 2013/12/03 18:30:44
魔法陣を完成させて「雷」を召喚する。
時は夜、十人の魔道士たちは勝利を確信していた。
それも相手は小国の女魔道士ただ一人。
こちらは三百年の歴史を持つ大帝国バビロンである。
そう、若い魔道士たちは自分たちこそ正義と、奮い立っていた。
焦げた岩だけが姿を残す。
「よし!みんな、小国ミルゲリアには民はわずか一人と聞く。それで国を名乗っていたのもおかしな話だが・・・攻めて見れば簡単な事じゃないか。どうして「誰も攻め落とす事のできぬ国ミルゲリア」などと呼ばれてきたのだろうなぁ」
と、茶髪の青年は首をかしげる。
「ちょっと待てよ」と、オレンジの髪をした青年は茶髪の青年の肩をつかむ。
「オレが聞いた話では妖怪たちの住む国って聞いたぜ。その中に男の人間だけがいるらしい。・・・おい、なあ」
「なんだよ」
「オレたちが倒したのは・・・妖怪たちの中でも「最下級」の弱い相手だったんじゃないのか?たまたま勝てたんじゃないのか?その・・・もしかして今すぐにここから逃げた方がいいんじゃ」
「おいおい・・・冗談だろ?そんな情報どこに根拠があるんだよ。男しか住んでない?妖怪たちの国?妖魔と戦った事はあるけど・・・そんな情報は聞いた事ないぜ。だいだいどうして妖魔と人間が仲良く暮らしているんだよ。それ自体おかしいじゃないか?」
「じゃあ、逆に聞くけど・・・お前の人口一人って情報はどこから仕入れたんだ?」
「ボクのは・・・帝国図書館の345年版、最新の書物に乗っていた人口調査を見てきた。さっきの魔道士は人間だった。
妖怪には見えなかった。思い出してみろ・・・彼女は赤い髪をしていて、赤い目をしていただろ?容姿は美しく、黒いドレスを着ていた。それにボクたちと同じように左手には「魔力リング」を装着していた事が、魔道士たる証じゃないか」
「うそだ!銀の髪をしていたぞ。それに目は金色だった」と、黄色の髪をした青年が叫ぶ。
「オレは・・・青い髪に青い目に見えた」
「そんな・・・どういうことだ?ボクたちは何と戦ったんだ?」
焦げた岩の上に女魔道士と、金髪の男がいる。
十人の青年魔道士は人数が増えている事よりも・・・金髪の男の目が無い事に目を奪われた。
「おい!もう一度魔法陣を描くぞ!グズグズするな!」と、茶髪の青年は叫ぶ。
十人の青年魔道士は慌てて「魔導リング」を装着した手で魔法陣を描いて行く。
「われ、求めるは雷の聖霊ヴァルトークス。わが魔力の契約によりて今ここに姿をあらわせ!」と、言霊と共に魔法陣は完成する。
再び十の雷の魔法は焦げた岩を直撃した。
二度目だったせいか、岩が砕ける。
しかし、そこに見たのは雷を絨毯代わりに立つ女魔道士と金髪の目の無い男だ。
十人の青年は初めて「呪」(しゅ)の発動を見た。
金髪の目の無い男の左手には赤い文様の刻まれた黒い本が開かれたページの言葉たちがうごめく蛇のように動き、一箇所に集まり、真っ黒い、大きな狼へ姿を変えていく。
身の毛のよだつ咆哮と共に牙を剥き、吐く息が空中の水分を凍らせて氷の塊を次々と作って行く。
女魔道士のドレスは茶髪の青年には「赤く」見えた。
髪は金色、目の色も金色・・・。
青年は悟った。
ここは「人間」の入る世界じゃないんだ。
ボクはこの人の下僕となる妖怪に生まれ変われるかな・・・
黒き狼の大きな口に十人は飲み込まれた。
金髪の目の無い男は口を開く。
「つまらぬモノを喰らいましたな、ニュクス様」
「グラシャや。わらわはニルヴァーナを奪った「セシル」と戦いたい」と、ニュクスと呼ばれた女魔道士はつぶやく。
「ニュクス様・・・表と裏。光と影。斬っても斬れぬモノ故に、必ずあなた様の元へ戻ってまいります」
「うむ」と、ニュクスは虹色の髪をかきあげて、黒き大きな狼をドレスに戻し、金髪の男を赤い指輪に戻してから焦げた岩のあった場所へ左手を移動する。
「すまぬ・・・。わらわが未熟ゆえそなたを傷つけた。許せ」
ニュクスの声に、数百、数千の魔法陣が同時に発動する。
砕けた岩は元へ戻り、失われた木々は新しく育ち、実をつけた。
因果律さえも元に戻す無動作による「契」(ギアス)の発動。
「これでよい・・・リルが待っている」と、再び「契」を発動させて、空間を歪ませて、ニュクスは消えた。
ちょっと不安が横切ってしまったので、申請やめておきますね;
すみませんでした。