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ガトー追憶記⑤

【銀の守り笛~かってにスピンオフ】
ガトー追憶記 ⑤/5

モーリス卿引退後に一人で室長とスタッフと雑務をこなしてきた総務執務室も、今やスタッフを8人かかえる部門となりボクは王宮第二質疑協議会(通称、第二議会)への参加を許される事になった。
最も、その中でボクが一番の若輩者なので黙って聞いているだけだけど。
ちなみにジュリアはこの5年の間に特級となり更に薬務室長を背任していた。残念ながら薬務室はその特性から王宮第三質疑協議会の所属となり会議で彼女を見ることはないが、彼女はその通称第三会議でジャッカルという異名を得ているらしい。意味は良くわからないが一緒の会議でなくて良かったと思っている。

暖かい日差しが部屋に差し込む穏やかな午後にペンを机の上に置いて一息をついた。今日は比較的に穏やかで静かな日だと思った瞬間にドアの向こうからドタドタンという大きな音と共に、ほぼノックもせずにボクのいる部屋の扉が勢いよく開いた。
『やぁ、これはこれはガードナー・ハインツ卿殿。邪魔するよ?』
ボクは大きなため息を一つついて答える
『ジュリア薬務室長。何度も言うがドアを開ける時はノックをしてからにしてくれないか』
ジュリアはニヤっと笑い
『ちゃんとしたさ。まあノックと同時にドアは開けたけどね』
ジュリアがこういう風に入室する時は決まってめんどうな事を言いに来る時と決まっている。やれやれと思いながら、紅茶を入れてやるからソファーに座れと促した。

『相変わらず、見たことないソファーを使ってるね』
『そうでもないさ。それは50年前にランドウエル侯爵から王宮へ献上された調度品の一つだけど、すぐさま壊れたらしくそのまま倉庫で眠っていたんだ。それを修理して使っているのさ』
『勝手に使ってるのかい?』
『勝手じゃないさ、ここだって王宮の一部だよ?この調度品は王宮へ献上されたもので王室へではない。よってどこで使用してもお咎めは無いんだよ』
『詭弁にしか聞こえないが、まぁ、君のその手腕を少し貸してくれ』
そらきた、また面倒な事をいいだすに決まっている。といってもボクはジュリアの申し入れを断れない。

ジュリアは懐から紙面を出してこちらに向けた。薬剤師見習いの入学許可証が二通あった。見習いとはいえ王宮に出入りするので許可証の他に推薦状も添えるのが通例であるが、それは無かった。しかも、見習い補充は年に1度きりでこの時期はとっくに募集は打ち切っている。
『ちょっと、よんどころない理由があってね。来年度ではなく今年度の見習いとして通わせたいんだ』
『ジュリア、ルール違反にもほどがあるぞ。仮にも室長である君がこのような事をするのかい』
『そこを何とかしてほしいんじゃないか。ハインツ卿?いや、この場合は同期のガトーと呼んだ方がいいかな?』
ジュリアがこんな無茶を言い出すということは、裏での大きな駆け引きがあったのかもしれない。

『ふぅ、君は第二王子に肩入れしすぎているんじゃないか?ボクらの立場はもっと公平でないとダメなんだぞ』
『ガトー、きれい事ばかりでは何も動かない。それは君も解っているはずだ。だから君に頼むんだ』
ボクは大きく一つため息をついてから二枚の許可証に目を通した。ユルという女の子とカイという男の子の名前が紙上に記されている。ボクは立ち上がり、書類をボクの机にある書類棚に入れながらジュリアに答えた。
『君は彼ら二人が何かしらの布石になると考えているんだね?』
『いや、ここだけの話だが元々の依頼はウチの上部からのお願いごとなんだ』

薬務室の上部ということは王立医療院を指す。我が国において行政、軍事と共に『王立』の冠をもつ部門で独自の覇権をもつ。薬務室は王立医療院に所属するが室長であるジュリアを直接動かせるとしたら一人しかいない。
『なるほど、グラナム様の…。君も君の幼馴染の騎士クン…フィオと言ったっけ?も大変なことだね。とにかく一度書類を受け取った以上は正規の手続きと変わらない様に手配しよう。推薦状は後からでかまわないが、王立院医療院からの一筆もあるとありがたい、それぐらいはジュリアからでも用意ができるだろう?それから肝心の二人は星まつりの前には王都へ向かわせるように。人の配置の関係もあるので、こう言ってはなんだがどさくさに紛れさせるよう』
ボクの説明を長い睫をこちらに向けてうなずきながら聞き終えたジュリアは、よし!と言って立ち上がった。

『手数をかけさせてすまないね、ガトー。でも、私も伝書鳩と同じで詳しい事は聞いていないんだ』
そんなはずはない。内容がわかっているから無理と知りつつも、直接ジュリアがボクに伝えにきたのだ。
『かまわないさ。君とボクの仲じゃないか』
彼女とは目線を合わせずに答えた。ボクの立場は王宮と王宮以外との最初で最後の敷居であり、入口でもある。ここを必要以上に緩める行為は王家を根底から揺るがす事と同意になる。王制で成り立つ我が国において敷居は必要以上に『低く』してはいけない。

部屋を出ていくジュリアの背中にボクは続けて答える
『ボクの中で出来る限りの事での協力はおしまないよ。そうそう、たまにはキミーに会いにウチに来ておくれよ』
ジュリアは立ち止まり、すこしだけ横を向いて
『ありがとう。奥方によろしく』
と、来た時は逆に静かに扉をあけて部屋から退出していった。
ジュリアが出て行った方向を少しの間見送った後、ジュリアのもってきた許可証をもう一度眺めた。
17歳の女の子と14歳の男の子。推薦状もない今では彼らが何のために王都に来るのかもわからない。どんな子たちなのかも。
考えても今はしょうがない、やるべきことだけをしておこう。実際には申請書にしかなっていないジュリアが持ってきた許可証を基に、本物の入学許可証を発行するために机上にある羽ペンに手を伸ばし書類の作成にとりかかった。

アバター
2013/12/03 11:04
本当に・・・・ご自身の本編(師匠)をぜひ!!!

最初の構想は、『不敵に笑うジュリアと、こまり顔で聞くだれか』だったんですね。
ガトーさんには、第二王子の頼みごとも、こまり顔で聞いて頂きたいですw

予想をはるかに超えた文字数になったようで・・・
スピンオフお疲れ様でしたw
アバター
2013/12/03 10:05
とまぁ、終わったんだか始まったんじゃだ良くわからない感じで終了しました。
これ以上書くと本編に影響しかねません。
スピンオフといっても、まったく関係ない人物のお話として書いたので本編を知らなくても大丈夫かなぁって思ってます。

しかし、最初のぼんやりした構想
『不敵に笑うジュリアと、こまり顔で聞くだれか』という事だけを書きたくて書き始めたら12000文字以上になるとは
思わなかったw

てか、自分の本編(ジーナ)書けよ?って感じですよねーw




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