ガトー追憶記④
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/02 10:48:49
【銀の守り笛~かってにスピンオフ】
ガトー追憶記 ④/5
父は続けて話し出す。
『レポートを読むかぎり、かなり詳しく調べてある。そして独自の人脈も構築しているようだ。そこでお前には宮廷薬剤室の準二級薬剤師から、総務執務室付き特務生として仕事と勉学にいそしんで欲しい』
『父さん…』
『言っておくが、父親だからではなく純粋に人事特務の人間としてガトー、お前が適任だと思い推薦したのだ。学生である事での周りからの反対はあったが、3年後には総務執務室の室長としてすべてを取り仕切ってもらう事を条件に承認を得たぞ』
『な、なんですって?いきなり室長って!』
『あと三年ある。というか三年でモーリスが引退だからな。お前ならできると信じているぞ。なんといっても三人の息子の中でお前が一番ハインツ家の血筋を一番濃く受け継いでいるからな』
なぜここでハインツ家の事が出てくるのだろう。ボクは父にそのまま問いた。
『ハインツ家は武家ですよ?ボクみたいなひ弱な人間のどこを見て血が濃いなんて思うんです?』
すると父はニヤリと口角をあげながら答えた。
『ハインツ家が武家なのは後から後付けみたいなものだ。本来のハインツ家の男子は他に影響されることなくわが道を突き進み、その上で回りにもその道を影響させる者なのだ。だからこそ、お前を幼少の頃から枠にはめずに自由にさせてきたのだよ。思った通り、お前はもっと化けることが出来そうだ』
本日、二度目の父からの意外な言葉にボクは目の前がチラチラしたのを覚えている。父に見限られたと思っていたのはボクの勘違いだったのだ。要するにボクは子供だったのだと改めて思い知らされた。しかしボクの貴族嫌いが改善したわけではないのだが。
とにかく、ウィル兄さんが近衛騎士団へ行くのと同時にボクも宮廷薬室を出る事になった。これからは大手を振って宮廷内を隅々まで調べられるのでボクとしては願ったりかなったりの異動であった。
総務執務室を設立した張本人のモーリス卿は、小柄な人のよさそうな温和な人で、ボクにこれといった指示はせずに好きにさせてくれたのは有り難いことであった。
但し、ボクは学生という立場であったので勉学がおろそかになる事には非常に厳しい人だった。仕事も勉学も半分づつであったが、モーリス卿への報告はもっぱら勉学の事が多かった。
日々広大な宮廷内をこまねずみのように歩き回っていたので、薬務室へはほとんど足を運ぶ事はなくなっていた。
廊下で偶然ジュリアにの顔を1年ぶりに見た時に、更に美しさと女性らしさが向上していて思わず足を止めたぐらいだった。
『やあ、ジュリア。久しぶりだね』
『ガトー、君は忙しそうじゃないか』
走ってもいないのに心臓の鼓動が高鳴るのを必死で抑えて昔のように挨拶をするのがこんなに大変だとは思わなかった。
『ああ、毎日ばたばたと忙しいよ。でも、好きな事をやらせてもらえているからね。勉強は相変わらず嫌だけどさ』
『充実しているようでなによりだね。こっちは君がいなくなって人手がへって忙しさが増しているさ』
『ふふ、ウソつくなよ。ジュリアは1級薬剤師でボクは準二級薬剤師だったんだぞ。仕事の質が違いすぎるさ』
『それでも万年人手不足なのは知っているだろう?』
研究職というのは何気に人手がかかり、いつでもぎりぎりで回しているものだ。
『そんなに忙しいと、彼氏の一人も出来ないんじゃないか?言い寄る男は多いだろう?』
そんな軽口を発してしまった後に、ちょっとしまったと思ったがジュリアは得に気にしてる様子もなく答えた。
『そんな君だって、彼女がいるようには見えないけど?』
ジュリア以上の女性に出会ってないからねとは言えずに、苦笑いしながら答えた
『お互いに忙しいね。また時間が出来た時にでも改めてお茶にでも誘うよ』
『期待しないで待っていよう。体にはいいけど苦い薬草を一緒に添えるさ』
そんな会話をしたのに、次にジュリアに会ったのはそのまた1年後であった。ボクは彼女に何も伝えらずにいたまま総務執務室での勤務も3年たち、ボクは20歳になった。
わが部門の方向性として、各王宮に携わる雑一般にかかわる業務を担い王室所有を含む備品一般の管理と修復、王宮付の執事とメイドの管理と窓口業務を取り扱うというものに取りまとめた。
やるべき事をスリム化したにもかかわらず雑務が膨大にある事は確かであった。大変ではあるが充実した日々を過ごしていた。
執事やメイドといった給仕場関連の人材を纏める事で父の、建物や備品の修復管理をすることでウィル兄さんの、王宮全体の雑務をとり纏める事でアレックス兄さんの、少しでも助けになればと思っていた。今まで嫌っていたハインツ家へのボクなりの恩返しのようなつもりであり、20歳という節目に子供のころのくだらないわだかまりを整理できるようになっていた。
ジュリアに対する不思議な気持ちだけは、何も解決していないままであったが。
モーリス卿の送別会は二人で行う予定であったが、ニックとジュリアとキミーという女の子が参加してくれた。バートンは用事があって参加できなかった。ボクの知り会いしか参加しない送別会であったが、モーリス卿は終始ニコニコしていた。
『バートンのヤツ、今日はデートで来られないって言ってたぜ?』
とニックがお酒を片手にこっそり耳打ちしてきた。
あのバートンに?錬金術にかぶれた偏屈王じゃないか。世の中は広いんだな、そういう男でもイイという女性が存在するとは。
するとニックはフンと鼻を鳴らしてボクに言い切った。
『バートンほどじゃないが、ガトー。オマエもそうとう変わり者だぞ』
何言ってるんだ。そんなことはないさとニックに反論しつつ、これから一人で王宮の裏方に属する仕事を嬉々としてこなして行こうとしている自分は、やっぱり少し変わっているのかもしれないなと再認識した。
ちなみに、送別会に参加したキミーはジュリアより年齢が2つ下で同郷の女の子であり、ジュリアを姉のように慕っている子であった。ジュリアに憧れて同じように薬剤師をめざしており今年見習い期間が終わった娘であった。
ボクが薬務室から異動した後に入室した子なのでボクは面識がなく、その時はじめてお互いに挨拶をしたものだ。
ジュリアとは違う魅力的な女の子で、笑顔はジュリアに似ていた。
まさか、その4年後にキミーが・・・キンバリー・ベアックがキンバリー・ハインツ夫人、つまりボクの妻になるとは思いもしなかった。庶民出の彼女が三男とは言え、仮にも子爵家の嫁として認めてもらうのにはそれはもう色々とあったのだが、ここでは割愛しよう。
ただ、次兄であるウィル兄さんが
『俺が許せないのは、お前が俺よりも先にしかもこんなかわいい嫁さんをもらう事だけだな!』
ガハハと笑いながら親戚の前で言ってくれたのが、最終的に決め手になったと思う。
てか、その4年こそ書いて頂きたいw
割愛だなんて…もったいない!!
あいもかわらず、淡々と語られています。
しかも、結婚までしてるしw
ジュリアへの想いはどうしたんでしょうね。
そんな感じで、次回最終回です。