Nicotto Town



ガトー追憶記①

【銀の守り笛~かってにスピンオフ】
ガトー追憶記 ①/5

この王都リーデルにおいて『ハインツ家』という名前は決して影響力が小さい名前ではない…らしい。

ガードナー・ハインツ。これがボクの名前だ。みんなからはガトーと呼ばれている。名前の通り、ケーキのように甘っちょろい考えの子供だった。
ハインツ家は過去に多くの軍人を排出した歴史ある武家であり、何十代前の当主の時にヴィカイントの称号を承った名門と言われている。ボクが考えるに金の力で買ったに違いない。
10歳離れたアレックス兄さんはまさにハインツ家の宝であり文武両道を絵に書いたような人で、他の人から『クレバー・アレックス』なんて呼ばれていた。来年は王宮大学を主席で卒業するのだが王宮の戦略室とかなんとかに入室するらしい。
7つ離れたウィル兄さんは、体力と腕力がめっぽう強くハインツ家の過去の猛者に引けを取らない軍人になるだろうと言われている。

当時、ボクは色白でひ弱で昆虫と植物を観測するのが好きな13歳であった。

ハインツ家にとって、イレギュラーであるボクを父は早くから見限っていた。逆に母は溺愛をしてくれたが、その年頃のボクは母の過剰な愛情にうんざりしていた。
実際、当時のボクは相当ひねくれていたと思うし、貴族である自分の家を嫌っていた。何が子爵だ、何が武門だと。
周りの大人もハインツ家と聞くとちやほやするクセに、武家としての見込みを感じさせないボクをみると、落胆したような表情を見せるのが堪らなく嫌いであった。
そして、自分も貴族の子供であるにもかかわらず、他の貴族の同年代のヤツラを忌み嫌っていた。皆、仮面をつけたような笑顔しかしないからだ。あいつらは人ではなくマネキンのような人形だと思っていた。

宮廷薬剤師見習いの募集を知った時、家の近所の貴族が集まる学校への進学をやめて、薬剤師になる事を父から承諾を得た時は本当にうれしかった。何せ、見習い薬剤師は全員王城内の施設で寮生活を強いられるからボクとしては家から出られるチャンスであったのだ。
当然、母は猛反対したが父がさっさと手続きをしてしまった。厄介払いが出来たと思ったのであろう。とにもかくにも、息苦しいこんな家なんておさらばだ。
意気揚々と寮生活を始めたボクであったが、早速薬剤師になる道のりの困難さを知り自分の選択をすでに後悔していた。
元々植物が好きなので、なんとでもなると思っていたが、それはとんでもない考えであったのだ。

薬と言っても、胃薬や傷薬といった一般的なものだけでなく、医療はもちろん、毒や火薬といった取扱いに細心の注意が必要なもの、眉唾のような錬金術に近い技術や装備、もちろん一般常識等と、する事やる事おぼえる事が山のようにあったのだ。
寮生活を強いられるのは教室までの移動時間すら勿体ないという、有り難いのかそうでないのか解らない配慮からの設備であった。
唯一の救いは、ボクの嫌いな体術や、強制的な走り込みといった肉体を酷使するような授業が無い事ぐらいであろう。最も、そんな事をやっている暇がないくらい精神を酷使していたのが事実だった。

ボクの見習い同期は、上は17歳から下は12歳までの10人ほどいてボクのように貴族出身も数名いたが、半年もすると同期は4人になっていた。貴族の奴らは1か月も居なかったと思う。
気さくなニックは国のはずれの辺境地から来ていて、近所に医者がいないので薬剤師になって村の助けをしたいと言っていた。
変わり者のバートンは錬金術やら黒魔術やら、如何わしい学問にのめりこんでいた。錬金術師になりたいからココに来たらしい。
そして、ボクより年齢が一つ下のくせに、誰よりも薬草に詳しく、だれよりもバイタリティにあふれたジュリアという女の子がいた。

はっきり言って、この半年間で何度も見習いをやめようと思ったが、家に帰りたくないという理由もさることながら、ボクより一つ年齢が下で、しかも女の子相手に負けたくないというちっぽけなプライドが支えていたと思う。
しかし、1年もするとジュリアとの成績の差はあきらかに溝が大きくなりすぎて、もはや埋める事はできないほどであった。ボクの成績がどれもまんべんなく平均値であるのに対し、彼女は全ての教科で満点を取っていた。その頃になると、ちっぽけなプライドはすっかり萎えてしまい、年下ではあるが素直に彼女に対し尊敬の念を抱くようになっていた。

いつだったか、なんでこんなに成績がいいのかと純粋に聞いたことがある。
『別にたいしたことはない。小さい時から近所の幼馴染がケガばかりしてたので、薬草に対して皆より先に知っている事が多いだけさ』
相変わらずのぶっきらぼうなしゃべり方でジュリアは答えた。そうは言っても薬草学以外の教科もほぼ満点な理由にはなっていないと思ったがあえて追及はしなかった。
『私の知っている知識なんて狭いものだ。一般教養や上流階級についての知識についてはガトーに遠く及ばない』
ジュリアはまっすぐな瞳でボクをみていた。
ボクの知っている知識こそたいしたことはないという事をその時は言えなかった。

アバター
2013/11/26 19:05
全5話あるんですね!
楽しみですw

ハインツ…
トマトケチャップ?w
アバター
2013/11/26 15:53
はい
あいもかわらず、他人様の物語のB麺というか勝手にスピンオフを書きました。

スピンオフと言いながら文字数の関係で全5話になります。
小説というより、主人公の追憶記ですので、たんたんと物語が続きます。

元の小説を知らなくても、まったくもって問題ない話となっております
気になる方は、探してみるのも良いと思います。

ま、元ネタはいつもの方ですのですぐわかると思いますw




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