解けた手 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/22 18:19:15
解けた手 『短編小説』
解けた手と手、もう戻ることのない時間。
そのかけがえのない時間の中、君と過ごし笑った時間は...
本当に大切なものだって今頃実感させられてるんだ。
今更すぎるって、君も思ってるでしょ...?
**********
それは、窓ガラスが曇る真冬の12月下旬の事。
毎年のように君と過ごしたクリスマス。
この日も、君とクリスマスを過ごそうといつも通り待ち合わせをした。
最近、噛み合ってないなと実感させられていた僕は、この日挽回しようと試みた。
だが、待ち合わせ場所に君は来ない。
しかし、僕はこの時疑問を感じなかった。いや、むしろ当然かと溜め息を零したくらいだ。
何故かと説明すれば長くなる。月日はそう、今から3ヶ月前に遡る…。
-9月-
9月、まだまだ秋が始まったくらいの時期だ。
彼女の掘北愛海はこの時期になれば決まって言う。
「 クリスマス楽しみだねー! 」
まだまだだと言うのに、彼女の目はクリスマスを真近にした子供のよう。
僕はそれに負けていつも「そうだね」と笑って返してしまう。
傍から見れば平和なカップルなんだろう。だが、そんな二人ではなかった。
僕達は、手と手を無理矢理繋ぎ合っているような状態。
彼女は必死に僕を止めようと、話題を出してくれている。
まだまだクリスマスシーズンじゃないのに、僕にこんな話題を投げてくるのは、
きっと僕と話す話題をいつものように考え、頭を回転させているからだ。
だが、僕は何も考えていない。彼女の質問に相槌を打つだけだ。
もう、別れを覚悟してた自分も居た。
だが彼女は一切別れを告げなかった。
無理して繋いでくれてる彼女の小さな手は、次第に涙で濡れて行った。
そして、10月下旬…。
愛海は僕としっかり向き合い、こう呟いた。
「 私の事…、嫌いなら言って欲しいな。 」
「 ───! 」
その時の愛海の目は今までに見たことないくらい寂しそうだった。
いつも元気で笑ってる大きな瞳は、涙で潤い、雪のように白い肌は涙で濡れている。
だが僕はこの時…、自分でも信じられない言葉を口にした。
「 …うるせぇな。ほっとけよ。 」
「 健…! 」
丁度テスト期間中だったり、親にガミガミ言われてた時期でストレスも溜まっていた。
それがこんな時に爆発してしまったのだ。その時の愛海の顔は今でも焼きついている。
崩れ落ちて行く愛海の体。細い指で覆われる小さな顔。僕はそれを直視できなかった…。
何故、とは言うまでもない。
そして、本格的にクリスマスに近づいた11月下旬…。
愛海はもう限界を迎え、僕に言った。
「 もう、バイバイしない?いい加減。 」
「 …え? 」
初めて告げられた「別れ」…。その時、やっと自覚したんだ。
愛海の大事さ。近くにありすぎて気づけなかった…、彼女の価値。
白い肌に伝う涙は彼女の今までの辛さや寂しさを語っているように見えた。
僕は何も言えない。いや、言っちゃいけないような気がした。
だが、気づけば僕の手は愛海の頬に触れていた。
何も言えない。言えないんだけど、自然に行動に出てしまった…。
愛海は僕の手に靠れかかるように擦り付ける。
だが、そんな平和な時間もすぐに壊れる。
─ピルルルル....
「 ──! 」
「 …えっ 」
これはシンデレラの12時の合図のような物だった─。
愛海の顔色が突然変わり、携帯を見て震えている。
ここまで驚いた愛海を見るのは、初めてじゃないかと思うくらいだ。
彼女は携帯を握り締めたまま、僕に背を向けて一言、言った。
「 さようなら、大好きだったよ。 」
その小さくて、蹲ったような寂しい背中は全て僕が作ってしまったんだ。
僕が彼女を満足させてあげられず、不幸にしたんだ。
一気に波が押し寄せるように、僕の心に自覚という物が押し寄せる。
気づけば僕の両腕の中には小さく縮こまった彼女が居た。
口元に来た耳に囁く。
「 今年のクリスマスも一緒に過ごそう。いつもの場所で待ってる…。 」
だが、彼女は何も返事せず、僕の両腕を優しく払い、
慣れない高いヒールの音を鳴り響かせながら、静かな公園を去っていった。
一人、僕は取り残された。彼女の偉大さをかみ締めながら…。
そして今、クリスマス。
彼女は一瞬でも姿を見せてくれなかった…。
解けた手を見つめ、僕はまたかみ締める。
彼女の偉大さ、大事さ、温もり、優しさ、そして…愛。
もう二度と許される事ない、彼女の小さな掌を握るという事─…。
何も包まないその掌で拳を作り、僕はやっと「後悔」の涙を流す事となった。
大事な物はすぐ近くにあるもの…。
近くにありすぎて気づかない。
だが、それを失った時、きっと流す事になるだろう。
「後悔」という名の涙の大粒を。
*END*
・・・・・・・・・・・・・・
どうでしたでしょうか。
皆さんも、こんな経験はないですか?
大事な物を失ってから気づいてしまう…。
そんな事がないようにと願って書いた小説でございます^^
今回はご観覧ありがとうございました。