ありがとう 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/20 22:40:45
ありがとう 『 短編小説 』
「好きだ」と、叫んでもその声は届かない。
君は気づかず、ずっと私に背を向けている。
「好きだ」が聞えないんだったら、私の泣き声も聞えませんか?
*********
朝...、そろそろ冬も近づいて来たと実感させられる11月下旬。
凍てついた廊下を足音鳴らしながら教材を抱え、歩く。
ボーッと眺める廊下の先や、周りには多彩な生徒がグループを作って話している。
そんな中主人公、高木菜穂は一人で歩く。
別にいじめられてる訳ではないし、仲間外れでもない。
むしろ、親友の武中沙紀には心配され駆け寄られていたぐらいだ。
周りだってそう。「元気ないね」と話しかけてもらっていた。
だが、菜穂はそんな人達に「一人になりたい」と冷たくあしらった。
もちろん、きちんとした理由はあった。
それは、廊下の先に見える光景に関係する。
「 キャハハッ!!翼ってばぁっ 」
「 何だよ~、本当の事だろう? 」
傍から見ればイチャつくカップル。それはコソコソと周りの生徒に噂されるほど。
でも、菜穂には「イチャつくカップル」では済まされない理由があった….。
思わず目を逸らし、ずっと俯いていたくなるような…そんな理由。
実は、入学式にこんな事があった。
入学したてで、あまり友達も居ない仲で教室にポツンと立っている男子を見た。
その男子も自分と同じようにグループに混ざっていない。
いや、違う。あまり群れるのを好んでないような雰囲気の人だ…。
近寄り難い…、第一印象はこれだった。だが、それは嘘のように解けて行った…。
彼の声、優しさ、そして、笑顔。全てに包まれたような気分になる。
話すだけで心臓が飛び出そうになり、あまりちゃんと顔だって見れなくなっている。
初めての感覚を味わった菜穂は、所謂、「初恋」に至ったのだ。
そこから頑張って距離を縮めた。メアドだってこじつけで聞いた。
…だが、その努力は残念な事に届かなかった。
モタモタしすぎたのかもしれない。4月から11月下旬まで掛けてるのだから。
しょうがないのかな、と思う反面、最悪だ、と思う。
菜穂は毎日のように葛藤してるため、あまり友達と居ても話についていけず、合わない。
グループの中一人、窓の外を見てボーッとしてたりする。
皆心配してくれるのだが、菜穂はいつも笑顔で返す。
それで気を遣って仕方がないから、一人にしてと言ったのだ。
だが、一人で居るのも楽ではない。
自分と自分の戦いだけじゃない。彼らを見なきゃいけないから。
思わず菜穂の口からは溜め息が零れた。
その瞬間、菜穂の目の前には驚くべき光景が映る。
「 やぁだ、もう 」
大好きだった新井翼に軽くボディタッチする彼女、今井茜。
美人で、スレンダーで、頭も良くて、運動もできる完璧人間。
皆近寄りがたくて告白しないが、翼は行動に移した。
近寄り難いから、あまり告白されない茜は翼が別に好きじゃないけど付き合った。
そして今に至るのだ。
見てるだけで苛立ちを覚える菜穂はその場を離れる。
本当はあの横に私が立ちたいのに、私が笑って居たいのに。
またそんな気持ちをぶつかり合いながら走り、人気の少ない花壇へと移った。
ここなら誰にも見られなくて済む、と安心感からか涙が溢れる。
なんだかんだ言ってもやっぱり辛い。菜穂は涙が止まらなくなった。
いつだって彼の幸せを願っていた。
星占いだって、自分のより彼の運勢を気にしていた。
なのに、どうして何も思ってない彼女が彼の心を奪えるのだろう。
本当は何も考えてない、努力してない子に幸せが降りかかるのかも...。
菜穂はそんな事を考えてしまっていた。
誰よりも頑張ったって、言える自信はあったから。
でも...、心の中でこんな事だって思ってる。
彼が幸せならそれでいいかもしれない。
叶わなかったけど、それでも彼女の隣で笑えるなら。
でもやっぱり自分が一番想ってる、だから私のほうが幸せにできる...。
そんな事だって思ってしまう。
そして、再び葛藤が再開されるのだ...。
こんな自分が嫌になってきた菜穂の気持ちは、涙となり溢れる。
すると、隣で足音が聞えた。土を踏む音だ。
思わず泣いた顔で振り向くと、そこには一人の男子が立っていた。
「 だ、大丈夫...? 」
「 へ...? 」
同じクラスの山谷裕也だ。とても不安気な顔でこちらを見ている様子。
菜穂の泣き顔を見た彼はとても慌て、そしてハンカチを差し出す。
「 これくらいしかできないけど... 」
謝るかのように呟き、眉を歪める。
そのハンカチの温もりは計り知れなかった。
菜穂は軽くお辞儀をし、ありがとうとお礼を言った。
そんな菜穂を見た裕也は、眉を直さず、隣にちょこんと座った。
少し横目でチラリと裕也を見て、1cm寄った。
「 なんか、あったの...? 」
優しいトーンで語りかける。その声は凍てついた心に染み付く。
菜穂は優しいものに支配されていくような気持ちになった。
この人にならと言わんばかりに口を開く。
「 ま、まあ... 」
クラスメイトだし、というのもある。それに優しい男としても有名な彼である。
菜穂は続けて、裕也に説明をする。
「 失恋しちゃったの...。誰、とは言わないけどさ。 」
「 ....もしかして、新井? 」
どうして分かったの!?と目を丸くし、裕也を見る。
そんな菜穂の丸い目を見て笑い声を上げ、説明した。
「 だって、さっき君の彼らを見る表情...切な気だったし。 」
「 み、見てたんだぁ...。 」
「 うん。 」
少し恥ずかしさが出てきた。俯き、ハンカチで涙を拭う。
そんな菜穂を見て、裕也頭をポンポンと撫でた。
その手の温もりが全身に流れ込む。菜穂は裕也の顔を見上げ、頬に涙を伝わす。
裕也は何も言わなかった。
「元気出せよ」「気持ちは分かる」...なんて綺麗事も言わなかった。
ただ黙って、微笑んで、優しく包み込むように頭を撫で続けた。
どうしてだかわからない。でも菜穂はここで思った。
私、この人と一緒に居たい...と。
菜穂は恩を返すように、頭を撫でてない片手を握り、言った。
「 ありがとうございます。 」
その時も彼は何も言わず微笑んで頷いた。
菜穂の悲しみに満ちた顔は、いつの間にか優しさに溢れ、笑顔が溢れていた。
そして、少ししてから....
********
「 持つよ。 」
「 あ、ありがとう。 」
菜穂と裕也は付き合った。
「 いいなぁ、あのカップル超いい~♡ 」
「 ねー、やばい。 」
二人はあの二人より、よりいいカップルになった。
優しい裕也は菜穂の鞄を持ってくれる。
菜穂は疲れた裕也を癒す力を持っている。
この中、菜穂は思った。
あの失恋はいい人生経験で、あらなきゃいけないことだったんだ。
あの失恋がなかったら裕也とは...、付き合えてなかった。
そうしみじみ感じた菜穂は裕也の手を掴み、呟いた。
「 ありがとう。 」
裕也はまた、何も言わずに照れくさそうに頷いた。
その二人を見ていると、思えた。
「 二人には将来が見えるよねぇ~ 」
「 別れたって聞いたほうが驚くよね。 」
二人の繋ぐ手には赤い糸が見えたのだった。
*END*
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どうも、aichaです(´`*)
もう少し上手く書きたいのですが...。
あまりちゃんと書けませんね....(´`;)
満足して帰っていただけると、嬉しいです^^*
本当にすごく素敵です。
大満足で、私も菜穂の幸せを分けてもらったような気分です。
語幹があって、表現力がすごいですね、ビックリですっ!!
お手本になります。
ハッピーエンドになって良かった^^
素敵です……!裕也くんの優しさにもぐっときました。
「ありがとう」って本当に大事ですね。
コメントありがとうございました*