ストロベリーラブ 【 第78章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/20 20:04:01
第七十八章 『 玲奈 』
「 イッヤァァァァァアッ!!! 」
この悲鳴が聞えたと同時に、香理奈の耳がピクリと動いた。
ニヤッと笑ったその表情は何か企んでいる顔....。
思惑が通った、と言わんばかりの顔であった。
シメシメと笑いながら、悲鳴を聞えない振りして夕飯の仕度を続けた。
その頃、2階の桐崎は顔が真っ青になっていた。
「 悪かったよ。俺も知らなくてさぁ.... 」
「 酷い...!寝てる隙を狙うとか....信じられない!! 」
「 だぁーかぁーらぁー.... 」
言い訳をしても通用するはずもない。
だってその場に寝ていた玲奈は本当に何も知らないから。
何も知らない玲奈はガタガタと震えているだけ。それを見て罪悪感を芽生えさせる桐崎。
そんな二人の状況を知っているのは、香理奈ただ一人。
これは、香理奈の計画の一部であり、そして始まりでもあったのだ。
続けて、玲奈は桐崎を罵る。
「 本当に最低最悪な男...!馬路信じられない.... 」
玲奈の声はいつもより高いトーンで、非常に激怒してるらしい。
ガミガミガミガミと、玲奈の罵声は30分にも及んだ。
いい加減疲れてきたというのもあるが、これほどにもない屈辱的な言葉を浴びせられた。
そんな桐崎は有名人である自分をチヤホヤしない玲奈に少し苛立ちさえ覚えた。
逆に目覚めて有名人が居るってだろうがと、変な考えさえ出てきてしまった。
まだまだ続く玲奈の罵声を我慢できず、バッと立ち上がった桐崎。
突然立ち上がった桐崎を見て、玲奈は目を丸くした。
「 な、何...? 突然。 」
ガタイも大きく、しっかりとした体の桐崎。
おまけに今の彼の表情は少し怒りが混じっている。
眉間にもシワが寄っており、眉毛な斜めになり、目も鋭い。
さすがにこんな男が突然立ち上がり、自分を見下すといくら玲奈でも怖くなる。
さっきまで強気だった玲奈は子羊のように引き下がり、縮こまってしまった。
立ち上がった次に桐崎が移した行動は、玲奈を指差し、
「 俺が誰か知ってるのか!? 」
という発言であった。怖がってたはずの玲奈は呆れて物が言えなくなる。
はぁ、とどこか期待を裏切られたように溜め息を零した玲奈。
そんな玲奈の姿を見て、馬鹿にされたように感じた桐崎はまた声を荒げる。
「 お前、誰だよ!!大体態度デカいんじゃねぇの!? 」
この発言にはさすがの玲奈も黙ってられない。
腕を組み、縮こまってた体はどこへ、というように態度がデカくなり、
正々堂々と自分より高い桐崎を見下すように睨み、向き合った。
「 何よ!!あんたが不法侵入したんでしょーがっ!大体寝込み襲ったのも... 」
「 襲ってねぇっつの!! 」
「 じゃあ何でここに座ってたワケっ!? 」
「 そ、それはだから長谷川が客間で待っとけって... 」
「 ....は? 客間...? 」
『客間』と聞いた瞬間、玲奈の両目が点になった。
そして、突然高らかと笑い始めた。
そんな姿を見た桐崎は完全に頭が『?』で埋め尽くされていた。
「 な、何がおかしいんだよ。 」
「 アハハッ、ごめっ...、ちょ、来て... 」
玲奈は桐崎の手を引き、部屋を出た。
そして、部屋の前で笑いを必死に堪えながら看板を叩く。
「 ちゃーんと見て。ここには客間じゃなくって『玲奈』って書かれてるでしょ? 」
「 ......ハァ? 」
また桐崎の頭には『?』が増えるばかり。だって、看板には『玲奈』ではなく、
完全に『客間』としか書かれていない。玲奈は漢字が読めないのかとさえ疑った。
だが、玲奈は堂々とした顔で看板を指差している。教えるのも可哀想になるほど。
「 客間はあっちよ。 」
指差す先のドアの看板。目の良い桐崎にはハッキリ過ぎるほど見えた。
看板にピンクの可愛い色で『玲奈』と書かれている看板を...。
さっきの怒りが嘘のように消えて行き、桐崎は脱力した。
「 はあああ... 」
「 何? あ、自分の非を認めたくないのねぇ...? 」
それはお前だろという目を玲奈に向けながらも、言葉を飲み込む。
そして、大人しくその廊下で立ったまま玲奈の勝ち誇った言葉を聞きながら、
夕飯の仕度が終わるまで永遠と聞き続けた....。
そして、また30分後....。
ようやく1階から香理奈の声が聞えた。
「 おぉーい、夕飯できたよ~ 」
真っ青な顔で呼ばれた方向へと向かう。
そして、玲奈はまた不思議に思う。
不法侵入のくせになんでこんな堂々としてるんだろう、と。
まあ、姉の前に立てばすぐに八つ裂きにされるかとニヤッと笑み、1階に下りた。
何も知らないのは今のうちだ、と言わんばかりに時は過ぎていく。
テーブルに並べられたのはおいしそうなカレー。
これは玲奈の大好物で、昔から食べさせて貰っていた。
「 おぉ、カレー.... 」
「 起きたか玲奈!! 」
「 ....う、うん。 」
そんな事よりこっちでしょ...、というような目でチラリと桐崎を横目で見る。
だが桐崎のあまりにも堂々とした態度にまた謎めく。いや、おかしいとさえ思う。
我慢できなくなった玲奈はビシッと桐崎を指差し、叫んだ。
「 おかしくない!?なんでこんな普通にしてるの!?こんな男追い出そうよ!! 」
不法侵入の犯罪者なのにも関わらず、平然としてる姉がおかしいと思う。
だが、香理奈も桐崎も玲奈のような感覚なワケがない。
香理奈は桐崎を呼び、桐崎は夕飯に呼ばれ、女の部屋に入れられたから。
逆に桐崎も被害者である、と玲奈はわからない。
だが、香理奈は笑顔で答える。
「 あぁ、お姉ちゃんが呼んだのよっ♡ 」
「 .....イラッ 」
やっと姉として信じ、関係修復できてきていたと言うのに....。
またこれで姉への苛立ちを蘇らせた。
「 お姉ちゃーーーーん....? 」
「 え、そ、そんなに怒っちゃうの...? 」
「 当たり前でしょーがァッ!!! 」
ここから長い姉妹喧嘩が始まる、とは言うまでもないだろう。
続く。