Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(95)

 「…それでね、くるっとまわるとね、スカートがふわって広がってね、…すっごくきれいなの!」
 夕食時、セシリアがやや興奮気味に試着時の様子を学長に語って聞かせる。学長は今日一日、所用で外出していたので。
 「ふうん。…それは本番が楽しみだね。君の母上は、そういう盛装をついに見せてくれなかったからねえ」
 「結構重いんですよ、あれ」
 言葉少なにクリスが応じる。その気持ちはよくわかる。
 舞踏会、って事は、あんなものを身に着けた上に、さらに踊る、って事だ。やっぱり何とかして体調を崩す方法を探そう。
 「よくそう言ってるのを聞くな。まあ、普段着ってわけじゃないから、ここぞとばかりの飾り付けが多いのは、致し方あるまい」
 あやしいものだ。マルグレーテ妃の手持ち衣裳に装飾が一つもない物があるとは、到底思えない。
 「セシリアの服もコートと靴は除いて持って帰ってもらったそうだが、どうしてだね?」
 「どうせ着るのは向こうへ行ってからになるでしょう。それに、裾の長さが気に入らないみたいでした。セシリアも夏からいくらか背が伸びているので」
 「ほお…そうかね。毎日見ていると気付かないものだな」
 「伸びた、って言っても、ほんの…これくらいよ」
 セシリアが親指と人差し指の間を開いてみせる。
 「姿勢が良くなったせい、というのもあると思う。俯いていると肩の位置が下がって実際よりも小さく見えるって。…服を贈ってくれたご婦人が教えてくれた」
 「いずれにせよ、養い子たちの晴れ姿が見られないのは残念だな」
 見られなくて結構。
 「……学長先生は冬至祭に来られないんですか?…確か昨年はお見かけしたような気がするんですが」
 「そりゃ、去年は、君が…入学予定者がいたからね。毎年この時期は入学生の選考に充ててるんだ」
 「今年は、いないんですか?参加する者の中には」
 「それは…まだ判らんな。書類を調べてみない事には」
 いませんように、いませんように、いませんように……
 「…お兄ちゃん、さっきから、顔が怖い。そんな顔してごはん食べるのは、作ってくれた人に悪いよ」
 「…セシリア、それはしょうがない。アレクはさっきから自分の所に話題が飛んでこないかどうかびくびくしてるんだから。食事の味だってちゃんと味わっているかどうかも怪しい」
 解説どうも。
 「アレクに来てた荷物については、触れない方がいいんだろうな。あの方の服装の好みからすると」
 「…理解していただけて幸いです」
 「…まあ、新年のあいさつには伺う事になっているから、その時を楽しみにしておこう」
 …まあ、それくらいは仕方のない事か。…あとは、知ってる連中に出くわさないように祈ろう。

#日記広場:自作小説




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