Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


ホットココア 【 短編小説 】

甘い甘いミルクとほろ苦いココアが混ざり合って、甘いココアになる。
それを温めると、もっともっと優しいく、甘い味になる─....。
それって、ホットココアだけだと思いますか...?

*********

「 …ふ、ふぁあ 」

退屈な授業中、不意に大きな欠伸が零れる。
必死に片手で口を押さえながら、変形した顔を隠す─。
友達に見られたくないから...という理由もあるが、それだけではない。

私の斜め後ろの席に”彼”がいるからこそなのだ....。

こんなだらしない姿を見せてしまっては、私の印象が悪くなってしまう。
それに、変な顔を見せてしまっても、印象が悪くなってしまう。

それだけは避けたい主人公、大野美菜はゴシゴシと目を擦り、必死にノートを写した。
残り20分の授業を机に肘をつきながら、ボーッと受ける。
そんなこんなで、すぐに時間は過ぎていった....。

─キーンコーンカーンコーン♪

「 ふぅ...。なんとか寝ずに頑張ったぞ...。 」

つい零れた言葉。それを聞き逃さなかったのは、
チャイムが鳴ると同時にこっちに来る親友の、森咲加奈。
加奈はニコニコしながら、美菜に言った。

「 今日は寝なかったんだねぇ。偉いな~ 」
「 まあねぇ。 」
「 いっつも寝てるもんね? 美菜。 」
「 最近しんどいからなぁ...ゴホッ 」

美菜の言う通り、最近風邪をこじらせてしまった。
口に手を当てながら、咳き込む。
それを見ながら加奈が前髪を弄りながら呟いた─。

「 うぅん...。ちゃんと体調管理はしなきゃだよ?保健室行く? 」
「 いや、いい。大丈夫...ゴホッ。 」
「 ....絶対大丈夫じゃないじゃーん 」

─キーンコーンカーンコーン♪

「 あ。鳴った。 」
「 んー、じゃあまた来るわぁ~ 」

そう言ってヒラヒラと手を振りながら、自分の席に戻ってく加奈。
それを見ながらゆっくり手を振る美菜。
やはり、少し体がだるい美菜は、机に伏せて抱きしめた。

頭痛、めまいがする状態。今にも倒れそうなくらい体が熱くなってる。
だが、美菜は保健室へ行く事は選ばなかった。

( もう6時間目だし、我慢しよう...。 )

こんな気持ちで美菜は6時間目を過ごした─。

─キーンコーンカーンコーン♪

「 美菜ぁ~、本当に大丈夫? 」
「 平気平気。だってほら、もう下校だしさ。 」

机に閉まっていた教材を鞄にしまいながら言う。
そんな美菜の顔を見ながら、加奈は不安気な表情で尋ねた。

「 ねぇ...、顔赤くない? 」
「 え?そ、そうかな...? 」
「 うん。気のせいかもだけど...赤い感じ。 」
「 ....帰ったら寝るよ。 」
「 薬飲むんだよ? 」
「 家に薬ないからなあ...。 」

そんな会話を交わしながら、話す二人の斜め後ろには彼、戸坂隼人がいる。
こんなに近くに居て聞えないわけもない隼人。
隼人はガタッと椅子を引き、そそくさと教室から出て行ってしまった。

その背中を見ながら、美菜は少し切なくなった。

( ....どこ行くんだろう。彼女...とか?いや、いるのかもわかんないけど... )

そんな事を思いながら、痛い頭をまた悩ます。
はあ、とため息を吐きながら額に手を当てる。
そんな姿を見た加奈は通り際に、「 お大事に 」と呟いて気を遣って席に戻った。

一言だけで少し元気が出た美菜は、少し顔を上げた。
だが、こんな状態の時でも頭は隼人でいっぱいいっぱい。
自分がおかしいのかと思うくらいだ。

「 ....はああ 」

一向に戻ってこない彼を思っていると、またため息が零れる。
これを何度繰り返せばいいのか....、そんな自問を繰り返していた─。

─ガラッ....

「 席につけー。帰るぞ~ 」
「「 はぁーい。 」」

担任が入ってくると同時に戻った隼人。
涼しい顔をしているが、何をしていたのだろう.....。
美菜の疑問は募るばかりだった。


「 ──...って事だ!!じゃあ帰るぞー 」
「 起立、れ~い。さよならー 」

美菜はさっさと帰ろうと鞄を抱え、出ようとした瞬間─

「 大野。 」
「 へっ...? 」

突然呼ばれた名前。聞きなれない呼び声だった。
鼓動を速まらせながら、ゆっくりと振り返る。その場に立っていたのは隼人だ。
ポケットに手をツッコみながら、涼しい顔をして立っている。
美菜は首を小さく傾げながら用件を尋ねた。

「 ....どうしたの? 」
「 あのさ、これよかったら貰って。 」
「 ....これっ 」

ポケットから取り出し、出したのはいつも保健室でみる風邪薬。
大きな掌から掬い上げ、受け取った。

( まさかさっき出て行ったのは...このためだった...り...? )

少し期待を高まらせながら、美菜は笑顔で言った。

「 ありがとうっ!!絶対元気になれるよーっ 」
「 ああ。いいよ。 」

そう言って、素っ気無く帰ってしまった。いつも通りの彼だと美菜は思う。
だが、風邪薬を見ると思う。

( ....いつも通りではないなっ。いい意味で♪ )

満足気な笑顔を浮かべながら、その日薬を飲んで復活した。
もちろん、翌日は彼ともっともっと距離を縮めれたのだった。

いつもはクールで苦い彼だけど、甘いミルクのようなものを持っている。
そんな彼はホットココアのようだった。

*END*





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