あと少し... 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/10/27 15:47:46
あと少し...少しだけ傍に居てほしい...。
そう思い、彼の大きな背中に手を伸ばす─。
でも、そんなの届かない、振り向いてさえもしてくれない。
あと少し、少しだけ傍に居てほしい。
....それだけが伝えられなかった。
************
─キーンコーンカーンコーン♪
「 よっしゃー、授業終わりぃ~っ....! 」
そう叫び、大きく伸びをしたのは主人公、桜庭香苗。
高校生で、やっと学校に馴染めてきたところだ─。
そして、その隣で苦笑いを浮かべているのが親友の、戸崎南だ。
「 香苗ってさぁ、ほんっとうに食意地張ってるよねぇ。 」
「 ま、お弁当の時間となればねえ~♪ 」
本当に嬉しそうに微笑んでいる。こっちまで笑顔になれそうなくらいだ。
だが、その笑顔の裏には、奥深い闇が隠れていた─...。
親友の南だって気づけないような、辛い辛い過去だ。
本当はため息を溢したくてたまらない。
本当は涙を流したくてたまらない。
...だけど、できないのだ。
「 ....... 」
「 ...?どうしたの?悲しそうに携帯なんか見て。 」
「 え?あ、いや。なんでもないよーっ! 」
また作り笑い。これで何度目だろうと自問する香苗。
自分でも分かってるのに、やっぱり心配掛けたくないと思うから作ってしまう笑顔。
南にだけは、不安な顔させなくない。南にだけは泣いてほしくない。
大事な人だからこそ、そう思うのだ。
何度目かわからない作り笑いをしたまま、着信音が鳴らない携帯をポケットに直す。
この行動...何度繰り返しただろう。何度...こうやっただろう。また自問する。
香苗はもう、散々な状態だった─...。
「 ....香苗、まさか。龍一君となんかあったの? 」
「 え...? 」
どうしてわかった、と言わんばかりの顔で南を目を丸くして見た。
すぐに図星だ、とわかった南は大きなため息を溢した。
「 ...なんで相談してくんなかったの? 」
ここで否定したって言い訳が出てこない。冗談だって通用しない空気だ。
香苗は諦め、口を開き始めた─。
「 実は...龍一とっ...別れる...かも。 」
「 ....は?何それ... 」
「 最近噛みあわなくって...すれ違ってる気がするの...。会っても喧嘩ばかりだし... 」
「 ....も、もっと頑張ってみなよ。龍一君だって悪い人じゃ.... 」
「 .....分かってるよ。 」
”分かってる”...そう言った時の香苗の声は震えていた。
その言葉と声を聞いた南はこれ以上、何もいえなくなった─。
ただただ「 そっか...。 」と呟き、沈黙のままおかずを口に運んでいった。
*************
─コンコン....ガチャッ
「 あら、お帰りなさい。香苗。 」
「 ただいまぁ。美沙は? 」
「 ....彼氏の家よ。 」
「 ....またか。 」
香苗は桜庭家の長女で、一人次女の妹がいる。
名前は桜庭美沙と言い、妹は香苗と違ってヤンチャ。親のいう事は聞かない、
姉への態度だって偉そうで、オマケに未成年なのに飲酒や、喫煙をしている。
そんな悪グループとつるんでいる美沙はほぼ家にはいなかった。
いつも母に居場所を聞けば「 彼氏の家 」ばかり。もう散々だった。
「 ....美沙、大丈夫かな。 」
「 知らないわよ。もう。 」
言う事を聞かない美沙の事を、もう諦めている母親─。
もう最近は注意までしなくなった。その姿を見てまたため息を吐く香苗。
そして、黙って部屋に上がっていくのだ。
─ガチャ....
何もない部屋に響くのは、ドアの開く音だけ。
これのせいでまた寂しくなってしまう。憂鬱になってしまう。
机の上に置いたままのウォークマンを手に取り、耳にイヤホンを挿す。
何も考えれないように、大音量で歌を流す。
だが、頭は考えるためにあるもの。考えないなんて不可能な事だ。
「 ....ああぁぁぁあ。もうっ....!!! 」
ついに我慢できず、イヤホンを座っているベッドに叩きつけてしまった─。
机と、参考書、そしてベッドだけが並ぶ殺風景な部屋だから余計考えてしまう。
ゲームで紛らわそうとも思うが、そんな物なんの楽しみにならない。一瞬だけだ。
音楽だって、ダメだった。勉強なんてこんな現状で集中できるはずがない。
....結局、気を落ち着かせてくれるのは香苗の彼氏、皆川龍一だけなのだ。
「 ...龍一、お願い...メールしてよ...。 」
携帯を握り締めながら、願う。
....すると、
─ピルルルルルルッ♪
「 ....ひゃっ! 」
着信音が鳴った。メールではない、電話だ。
恐る恐る電話に出た。
「 もしもし... 」
『 香苗?今いける? 』
「 うん、いける...。 」
『 香苗...ちょっと会わない? 』
「 ....会う。 」
『 じゃ、いつもの場所でね。 』
電話は切れた。いつもの場所というのは、コンビニの駐車場だ。
香苗は慌てて準備を済ませ、駐車場に向かった─。
************
「 はあっ、はあっ...。龍一....! 」
「 お、香苗。 」
もう既に駐車場で待っていた龍一は、石の花壇に腰を下ろしていた。
携帯を片手に待っていたようだ。香苗は駆け足で向かう。
「 ごめん、待った? 」
「 いや。今来たとこだし。 」
「 ...そっか 」
一見普通の龍一だが、やっぱり違う。どこと聞かれれば、わからないが....
やっぱり、いつもとどこか...違うのだ。香苗はそれがわかった。
また不安に駆られる。
「 香苗も座れ。 」
「 あ、うん。 」
言われるがままに座る。そして、いよいよ本題に入った。
「 あのさぁ...、お前も思ってると思うけどさ.... 」
「 う、うん.... 」
「 俺達、もう別れたほうがいいよな? 」
「 .....えっ? 」
ザワザワと嫌な風が香苗の長い髪を揺らす。冷たい風は薄着の香苗を襲う。
そして...薄い心にも風穴が開いた。
「 それって...「 香苗、お前を幸せにできる自信がねぇんだ。 」
「 .......! 」
言葉を被せるように言われた一言。
もうこの言葉を聞いた香苗は、本当の意味で腹をくくった。
「 ...分かった。バイバイ。 」
「 ....ごめん。バイバイ。 」
そう言って、お互い違う道を歩んだ。
やっぱりまだ気がある香苗は振り返ってしまう─。だが、あっちは違う。
香苗は立ち止まり、手を伸ばしてみる。そして、心で呟いた。
─あと少し、少しだけ...傍に居て欲しい。
だが伸ばした手は届くはずもない。手をギュッと握り締め、拳を作った。
頬は涙で濡らし、唇をかみ締めて脱力し、崩れ落ちた。
「 うっ...うぅぅっ... 」
あと少し、少しだけ傍に居て欲しい...。
それだけが伝えられなかった。
* END *
************
~*あとがき*~
Aqua Timezの「 月のカーテン 」をイメージして作りました。
皆さんも一度歌詞カード読んでみるか、聞いてみてくださいねっノノ*
私は、まだ、誰ともお付き合いしたことないのでわからないのですが、
こういう思いは必ずするんですよね・・。