Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


僅かな希望 【 短編小説 】

君の手を握った。すると微かな力で握り返してくれる。

どうしてそんなに頑張るの...?無理するの...?そう尋ねると君はいつも笑う。
言葉を返す力はないけど、顔の表情だけはいつも絶やさず変えてくれていた─...。

今日、この快晴の空の下で君はどんな希望を見せてくれるんだろう...? 

「 ....っ 」
「 え、絢? 」

握っていた手がピクリと動いた。ベッドの横に並ぶ二つのカーテンが僅かに揺れる。
だが、そこからはもう絢の体は動かず、手も動かなくなった...。
その時、主人公、雅也は思った。

─今日はもう無理か。

そして、手を力強く握り、微笑みを見せる。

「 大丈夫、焦るな焦るな。 」

どんどんと力を増しながら言うその言葉はすごく重みがあり、安らぎがあった。
そして、それに優しさを被せるかのように、手の甲にキスを落とした。
だが、彼女の絢は無反応。もう今日は無理という言葉は事実であった─...。

「 ....じゃあ、行くな。 」

そう言って、コートを腕に掛け、病室を後にした。
廊下に出ると、すぐにため息を吐いてしまう雅也。いけないとは思うのだが、
どうしても昔の事を思い出してしまい、このため息は自然をいつも零れてしまうのだ。

元気だった頃の絢は強気で、そしてどこか優しく、美しい少女だった。
雅也に安らぎを与え、困った時はいつだって優しく抱きしめてくれた大きな存在。
どんなつまらない話でも笑って答えてくれるのは、いつだって絢一人だったのだ...。
そんな雅也にとって今の現状は言葉にできないくらい辛くて仕方がなかった。

「 ....あ 」

廊下を一、二歩歩いたくらいで、偶然ばったり会った。
それは絢の母親と妹だった。二人は深く雅也に一礼をし、それを雅也も返す。
そして、少し申し訳なさそうな顔を浮かべながら雅也に近づいてきた。

「 ...また来て頂いて、申し訳ないです。 」
「 い、いえ....。娘さんには恩があるんです... 」
「 そうですか...。では。 」
「 あ、はい。 」

そう言って、絢の母親は病室に入る。だがしかし、その場に妹が残った。

「 沙耶? 来ないの? 」
「 ごめんお母さん。ちょっと雅也さんと話したい。 」
「 ....分かったわ。早くね。 」
「 うん、ありがとう。 」

そう言って、妹の沙耶は雅也と二人で廊下に残った。
ふう、とため息を吐いた後、雅也の目を見ながら言った....。

「 ねぇ、雅也さん。ここじゃ話しづらいから外でもいい? 」
「 え? あ、いいけど... 」
「 助かります。 」

そう言って雅也達は病院を後にし、素朴なカフェへと足を運んで行った。
だが、雅也の中に疑問が生じる。
オシャレで人気者の沙耶がどうしてこんな素朴なカフェを選んだのか....と。
だが、その疑問もすぐに解けることとなった。

「 単刀直入に言います。お姉ちゃんと別れてください。 」
「 え? 」

雅也はなるほど、こういう話をするためか。と理解した─。
だが、その頼みには雅也も簡単に乗る事はできず、首を左右に振った。
しかし、お互いの決意は固い。きっと雅也が「 うん 」と言うまで沙耶も引かない気だ。
それは雅也だって承知している事。とことん最後まで付き合う覚悟はしていた。
おかげでこの言い合いは朝から夕方まで掛かった。
ここでようやく沙耶が引いてくれた。

「 しょうがない。この決着はいつかつけましょう。約束あるし。 」
「 う、うん。何度きても答えは変わらないけどね。 」
「 どうして...? お姉ちゃんあんな体なのに....。 」
「 あんな体であろうと、絢は絢だし。 」
「 .....意味わかんない。じゃ、さよーなら。 」

素っ気無い言葉と共に、鞄と上着だけを持って店を出てしまった。
思わず、雅也は店員のように「 お代お代! 」と叫びかけた。
...が、男だからという事でゴクリと言葉を飲み込み、涙を呑んで、お金はキッチリ払った。



*********

「 絢...今日の様子はどうだ? 」

ニコッと笑いかけた雅也は今日も絢の病室に居た。
ただ手を握ってこうしてやるしかできないが、それでも絢は笑ってくれた。

「 絢...、俺達別れないよな? 」

思わず零れた言葉。絢は何も返してくれはしないと分かっていたが、
止められない想いがどんどん口を開いていった。

「 絢...俺やっぱ辛ぇ...。前みたいになりてぇもん。 」

雅也の中で”昔に戻りたい”は禁句だったのに、今回は口にしてしまった。
だが、これは雅也の本心だった。

「 もう一度....もう一度...絢の声聞きたい... 」

ギュッと握った手に込めた思い。

その瞬間....

「 .....まさ....や.... 」
「 えっ? 」

今確かに、”雅也”と言った絢。もう一度聞こうと耳を澄ますが、もう言わない。
このとき、雅也は心の中で思う。

─今日はもう十分か。

そう思って病室を出た雅也のいつものため息は出なくなっていた。
僅かな希望だが、それは未来への大きな前進と見えたからだった─...。

*END*

アバター
2013/10/20 14:46
ここに失礼しますねb

どんなのでもいいと思いますが、
自分の一番書きたいもの、

自分の気持ちに一番即したものを描くと
いいのではないかと思います。

たぶん、自分の気持ちが一番リアリティが強いのでb
アバター
2013/10/18 21:08
愛が伝わったんですね^^感動的です。
私も、私がどんな状況にあっても愛してくれる人に会いたいです(*^_^*)
アバター
2013/10/18 07:55
う~ん、素晴らしいb



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