ストロベリーラブ 【 59章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/10/14 18:23:39
第五十九章 『 襲われる 』
不安に駆られながらも、必死にペンを執り、残り少ない授業を受けた─。
残り少ない授業だと言うのに、まったく集中できていない苺華。そんな時、
─ヒュッ....
苺華のペンを持っている左手に紙が飛んできた。四つ折りの手紙のようだ。
ばれないように、ばれないようにと手紙を手に取った─。
その相手とは、苺華が思わずやっぱりと呟いてしまう相手だった。
”どうした? なんか元気ないな。”
素っ気無いように見えてどこか優しい短文...。それは一輝からの手紙だった。
苺華はそれに答えるように一輝の席を見て、ニコッと笑う。その笑顔で安心した様子。
この手紙でまた苺華は勇気をもらえた。改めて一輝の存在の大きさを知ったのだった─。
─キーンコーンカーンコーン....
残り少ない授業もとうとう終わりの合図を告げた。起立、礼の挨拶が終わると同時に、
苺華は大急ぎで香理奈を探しに向かった─。教室中の皆、廊下で話す生徒達が、
慌てて走って去っていく苺華に注目した。教室で話す女子グループはコソコソと言った。
「 あの子どうしたんだろうねぇ? 」
「 さぁ....? 」
そんな女子の間に割り込むように、ある男子がグイッと入る。
その男とは、恐らく一番香理奈を心配している人物─。
「 ねぇ、皆。香理奈見なかった....!? 」
「 きゃぁっ、宮木君ッ....! 」
女子に人気が高いイケメンな功は割り込んだだけでもきゃあきゃあ言われる。
普段は気持ちよく受け取る功だが、今回ばかりはそうは行かない様子。
そんな功は女子を焦らすかのように問い詰めた。
「 香理奈はどこッ....!? お願いだから教えてッ!!! 」
少しだけ怒鳴ったような声....。そんな功を見た事もない女子達はうろたえる。
それに答えられないのも無理もない。この女子グループはイケイケ系でつまりギャル。
あまり目立とうともしない、思い切り派手なわけでもない香理奈とは縁のないグループだ。
つまり、当然香理奈の居場所など、仲の良い苺華でさえ知らない事など言えなかった。
だが、功の焦りと怒りは収まることもない。
「 知ってるんだろッ....!? 」
少し声のトーンを低くした怒鳴り声。
そんな中、颯爽と一人の男子がまた功達の間に割り込んだ。
「 落ち着け。怒鳴っても仕方がないぞ。 」
功の肩に優しく手を置き、落ち着けと指示しているのは一輝だった。
そんな一輝の力強い目と、優しさに負けたと言わんばかりに、功は女子達に謝った。
一輝は功の肩をポンポンと叩いたまま言った。
「 話そうか。人前じゃ話しにくい事もあるだろう...? 」
功は一輝の優しさを心の染み込ませながら、「 ありがとう 」と返した。
二人は、あまり人気のない四階の屋上へ上る階段に二段上がり、腰を下ろした。
そして、功は少し話しにくそうにもしながら、口をゆっくりと開き始める─。
「 ....わりぃな。日村にこんな気ぃ遣わせてしまうなんて。 」
「 気にするなよ。友達だろ?それに... 」
「 ん...? 」
「 俺達の彼女同士仲良いだろ?これも何かの縁かもしれねぇぜ。 」
そう言って、一輝はニカッと明るく笑った。功はそれに驚く。
何度も何度も目を擦り、一輝を見直す。....だが、やはり間違いではない。
功には一輝の笑顔が一瞬王子様に見えたのだ。
改めて日村のすごさを分かった所で、お互い本題に入った。
「 ....で、長谷川がいなくなったのか? 」
「 あぁ...。様子はおかしいと思ってたんだが...。 」
少し後悔したように拳を力強く握る功。
大丈夫だと一輝は励ますが、功の後悔と悲しみは慰めでは消えなかった。
そんな時だった...。
「 イヤッ....放してってばッ....!! 」
間違いなく聞えた拒否する女子の声...。それは一輝も聞き逃す事はなかった─。
バッと二人同時に立ち上がり、顔を見合わせる。
「 資料室からじゃなかったッ....!? 」
「 あぁ、そうだな...。ていうか今の声香理奈に似てた... 」
「 ....まさか 」
最悪のケースを予感した二人は、同じ方向に走っていった─。
それは声が聞えた四階の一番端の資料室。普段誰も使わないため、人気がない。
そんな資料室で香理奈が襲われてる可能性があると思うとお互いゾッとした...。
「 ....クソッ!!! 」
功の怒りはこみ上げ、そして、走る足もどんどん速くなって行く。
一輝のほうが速いはずの足は、どんどんと一輝を抜いていった─...。
そして、資料室前に到着。功はなんのためらいもなくドアノブに手を掛けてスライドさせた。
「 オイッ....!何やってんだよッ....!? 」
「 ....宮木く....助け...てッ....ヒッグッ....ウッ.... 」
「 香理奈ッ...! 」
功の予感は見事に的中。香理奈は資料室で襲われていた─。
だが、まだ何もされていない様子。本棚に追い込まれ、腕で囲まれている。
男の手は香理奈のシュッ...とした顎に触れ、唇はあと数cmでくっ付いてしまいそうな距離。
やっぱり襲おうとしてたのか....!
怒りは爆発。功の鋭い視線はその男へと向いた─。
白々しい態度。まるで自分が何もしていなかったかのような表情だ。
だが、奴がいくらなかったことにしようとしても香理奈の濡れた頬は乾かない。
一輝はまず、香理奈を引っ張って無事確保した...。
「 大丈夫、落ち着け。 」
「 ...ひ、日村君。ありがとう...ウッ... 」
泣きじゃくる香理奈。一輝は落ち着かせるため、肩を優しく叩いた。
目の前には香理奈を襲おうとしていた男....。
「 お前、名前何...? 」
鋭い目つきで、功が尋ねる。
すると男は両手を広げ、笑って答えた─。
「 名前ッ...? 蒼井竜馬です。香理奈の....元好きだった人...。 」
「 ハァッ.....!? 」
いやらしい目つきで香理奈を見る。そんな目が功にはどうにも許せず、
思わず蒼井の胸倉を思い切り掴み、本棚に押し当てた。
蒼井は「 ィッ....! 」という言葉と共に、背中を思い切り打ったようだ。
「 てっめぇっ....ふざけんじゃねぇッ! 」
「 宮木君ッ....やめて....!ゴホッ...ゴホッ....!! 」
「 どうしてだよッ!?お前の事ズタズタにしようとしたんだぞッ....!? 」
「 で、でも...暴力はよくない...し。宮木君が悪い立場になっちゃうだけだよッ...! 」
「 でもっ....「 功、今は長谷川の言うとおりにしたほうがいい。 」
功の反論を被せるように言った一輝。そんな一輝の目は鋭く、功以上に冷たかった。
その目を理解したように、唇をかみ締め、胸倉を放す。
だがやはり蒼井はシレッとした顔でスーツのシワを直し、資料室を後にした。
悔しさで言葉も出ない功。どうして守ってやれなかったと後悔が再び襲う.....。
そんな功と香理奈に気を回した一輝は、香理奈に言った。
「 功と一緒に居て。俺は苺華を探してくるから... 」
「 ウッ....ウンッ.... 」
苺華を探すという言葉に違和感を抱きつつも、自分の精神を保てていない香理奈は、
素直に頷きを返し、功の隣へと走っていった。またほっと安心した顔を浮かべる一輝。
だが...、まだ完全に安心しきれていない。あの蒼井が苺華に行ってる可能性も否めない。
一輝は慌てて資料室を飛び出し、苺華を探しに行った。