Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


桜になるから 【 短編小説 】

ヒラヒラヒラ...と、桜の花びらが地に落ちる。

一枚、また一枚と落ちていくその花びらが綺麗に見えて仕方がない。
そんな主人公、桃宮桜子は桜の花びらを手に取り、嬉しそうにお気に入りの小説に挟んだ。
両頬を美しく咲く日本の花の色のようにピンク色に美しく染めていた。

「 桜~? 」

母親の呼び声が聞える。優しく透き通った美しい声色...。
桜子は母のそんな声が大好きで、呼ばれるといつも飛びつきに行く。
突然飛びついた桜子に戸惑う事もなく、慣れたように桜子の頭をよしよしと優しく撫でる。
そんな母の細くて綺麗な手が大好きな桜子は撫でられて嬉しそうだった─。
母は桜子を見ながら、微笑んだ。

「 桜子、また桜を見ていたの? 」
「 うんっ...!!桜子ね、あの桜が大好きッ!! 」
「 フフ、ママも大好きよ。桜子の名前の由来だってあの桜なのよ? 」
「 本当にッ!?すごく嬉しいよママッ!!! 」
「 そう言ってもらえて、ママも幸せよ。 」
「 桜子も幸せッ!!! 」

こんな美しい親子の会話から、早12年が過ぎた頃─。


「 桜~?どこなの? 」

部屋中見渡すと、母はハッと何か閃いたかのように庭の外へ出て行った。
そこには大きく誇らしげに咲くピンク色に染められた桜の木。
その木の下には大きく成長し、17歳になった桜子の姿があった─。
だがあの幼い頃の元気な桜子ではない。赤いタータン柄の車椅子に寂しげに座っている。
そんな桜子の背中を見ながら、ゆっくりと桜の木へと近づいていく。
母の着ているカーディガンが暖かい気候に揺らされる。
それと共に、母は桜子の肩にポン...と手を優しく置いた。
それに気づいた桜子は、ゆっくりと振り返り、母の顔を見ながら微笑んだ。

「 お母さん.... 」

もう昔のように”ママ”と元気には呼べなくなった桜子。
その”お母さん”という呼び声にまだしこりを感じながらも、母は用件を尋ねた。
すると、桜子は桜の木を見上げながら、目を潤ませた。

「 桜の木って...すごい。 」
「 何がすごいの...? 」
「 ....だって、桜の木は死なない。 」
「 ....ッ! 」

その言葉に思わず涙を流してしまった母。その瞬間の桜子の目は寂しげで、
そしてどこか恐怖を覚えた目をしていたから─。母はギュッ...と桜子を抱きしめた。
桜子は温もりを感じながら、母の肩に体重を掛けた。

「 お母さぁん...私...死にたくないよぉ... 」
「 死なないわ...大丈夫よ.... 」
「 嫌ッ...もう嘘は言わないでよっ.... 」
「 桜子ッ.... 」

母の抱き寄せる力はギュッ...と力を増していくばかり。
その度、桜子の涙の量もどんどん増えていった─。
桜子の涙はただの涙ではない。死の覚悟を迫られた少女の涙だった。

桜子の病気が発覚したのは、ちょうど一年前。
医者に「 余命一年です。 」と言われて、一年が経ってしまった。
だからか、桜子はもう部屋に戻らず、ここ一ヶ月ずっと桜の木の下で過ごしている─。
それを知っていても、いない桜子を探してしまう母。まだ現実を受け止めれていないのだ。
父は早く他界し、桜子が十歳くらいの話だった。だがそんな大好きな父の他界にも負けず
桜子は必死に生きてきたのだ。壁をぶち壊すかのようにし、生きてきたのだ。
だが...それから六年後、桜子のガンが発覚したのだ。

「 ....ねぇ、お母さん。 」
「 ん? 」

口火を切った桜子は、突然疑問を投げかけた。

「 空君は...もう来てない...? 」

その時の桜子の声はまた増して寂しくなっている─。
桜子の口から出た名前、”空君”とは青山空の事だ。
同じ年の同級生で、数少ない高校生活を共に過ごし、一番仲良くしてくれた子。
桜子の心の中で一番胸に焼き付いている...。桜子の病気が発覚し、学校を休みがちに
なっても、空だけは毎日毎日、まるで日課のように桜子の家を訪問してくれていたのだ。

だが、ある日の事─....。
いつものように庭で桜を見つめていると、下校してる空を見つけた。
そして、見たのだ。空と違う女子が一緒に帰っているところを。
その時気づいてしまった。桜子の中に隠されていた空への熱い想いが...。
それに気づいてしまった桜子は、これ以上気持ちを増してはまずいと思い訪問を断った。
その日からもう一度も空とは会ってないのだが...。やはり気になるよう。
久々に桜子が空の名前を口にしたのだ。

だが、その問いかけに中々答えない母。
歯がゆい桜子は早く答えてと母に訴えた。すると母は口を開く。

「 ....あの日からでもずっと来てるわよ。 」
「 ....えッ?嘘でしょう? 」
「 本当よ。来ないでと言ってるのだけれど毎日来るわ...。 」
「 そう....なんだ。 」
「 会ってあげたらどうなの...?桜子。もうそろそろ来る時刻よ。 」

そう言って、チラリと時計を見る母。時計の針はもう午後三時を差していた。
桜子は下校の時間かと心の中で呟き、パッと桜の木を見つめなおす。

─空君....久々に会ってみようかな。気持ち薄れてるし。

久しぶりに会うことを決意した桜子は、車椅子に乗ったまま、外に出た。
それはまるで駅で彼氏を待つ彼女のようだった。
いつもは気にしない髪の乱れを必死に手櫛で押さえながら、姿勢を正す。
そして、家の曲がり角から人影が見えた。だが....

「 あはは、空っておもしろいねぇ 」
「 いや、そうでもないよ。 」

あの日あの時見た女の姿。赤茶色の綺麗なストレートの髪が靡いてる。
乱れた髪を直したものの、痛んだ髪はなおらない。女を見て桜子は思う。

─負けた。

ただその屈辱と、痛みだけが自分を襲い、そして気づけば動かしてはいけない
体をいつの間にか必死に動かしていた。後ろから桜子の名前を呼びながら追う
忙しい足音がパタパタと聞える。空が追ってるとすぐに分かった桜子はスピートを速めた
だが、空は陸上部。すぐに追いつかれるに決まっているのだ─。

─パシッ....!

「 桜子ちゃん、逃げないでよッ....! 」
「 イヤッ...、放してッ....!! 」
「 放さないッ!やっと...会ってくれたんだから... 」

その時の声はどこか寂しげで、桜子もこれ以上抵抗はできなかった。
すると、桜子は本心を告げた。

「 私、空君好きだよ。 」
「 えっ...? 」
「 でもダメなの...。私死んじゃうから...もう少しで。 」
「 ...死ぬ? 」
「 治せないんだって....!お医者さんの話盗み聞きしちゃった... 」
「 えっ.... 」
「 だから...もう無理なんだよっ....! 」
「 だったら僕は君の家の桜を桜子ちゃんだと思って毎日会いに行くよ... 」
「 ....へ? 」
「 だったら死んだら終わりだなんて言えなくなるでしょ? 」

そう得意げに笑った空の笑顔は今でも桜子の脳内に焼きついている。
そして、宣告より少し後に息を引き取った。
命日から空は約束どおり毎日桜へ会いに行った。まるで、桜子に会いに行くかのように。
そして、木を撫でながら木陰に小さな箱を置く。

「 ずっと...言いたかったんだ...。 」

そう言って、蓋を開ける。そこにはピンク色に輝いた小さな指輪があった。

「 桜子さん、僕と...永遠に共に居てくれますか...? 」

その刹那、まるでその質問に答えるように、指輪に桜の花びらがヒラリと落ちたのだった。

*END*

アバター
2013/10/14 08:22
めっちゃ良い!
描写かなり上手くなったね^^

泣きそうになったよ・・・切ない・・・

アバター
2013/10/13 23:41
あああ・・・
良い話だね・・・



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