紅蓮狐姉妹のお茶会。【4】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/10/13 21:45:52
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『――でも、あんたを殺せば、みんなを生き返らせることなんて、造作もない――!』
まるで血を吐くように、凄まじい形相で少女は叫んだ。
振りかざされた紅蓮の炎が闇を裂く。陰気な路地裏は戦場と化した。
「……聞き分けの悪い子は嫌いよ」
妖気は諦めたように呟いた。
途端、その姿は渦巻く紅蓮の炎に呑み込まれる。
火の粉を散らして炎が消えた時、そこには女子高生ではなく、ヒトの姿をした九尾の女狐の姿があった。
翳籠はひたすら傍観した。
自分の出る幕は無いらしい。現在にも、そして、〝過去〟にも。
『ああああああああ――――っ!!』
ほとんど絶叫に近い少女の掛け声は、淀んだ空気に罅を入れる。
何の躊躇いもなく真横に振り切られた刀は紅蓮の火の粉を撒いて彼女を真っ二つにした。
そして切り口から噴き出したのは、真っ赤な――〝炎〟。
『?!』
たまらず少女が怯んだその瞬間、妖糾は嗤った。
上半身と下半身が、それぞれ視界を眩ませるほどに白々と照らして燃え上がる。
一旦距離を置こうと少女が飛び退くと、明るすぎた反動で視界が閉ざされ、襲った暗闇は少女にこちらの姿を見失わせた。
そして背後に、気配を感じた。
『――翳籠、力を貸して頂戴』
姉の声。
耳元でしたそれに、振り返る間もなかった。
ハッとしたその刹那、全身に熱い血が滾るのを感じた。
燃え盛る炎のように、優しく包み込むように。
体の奥底から沸き上がるのは、未だかつて感じたことのないような莫大な力。
漲る力が零れてしまわないように、必死に抑え込んで目を閉じた。
『あの子への小細工はこれが最初で最後。やるなら正攻法だけよ』
頭の中に響く姉の声に、動揺しつつも平静を装った。
自分の身体は妖糾の力など受け入れれば簡単に理性を手放して自滅してしまうだろう。
それでもやれと命じられれば従うのみ。理由はあとで訊かせてもらえればいい。
だが、これが彼女の本来の力の半分にも及んでいないことくらい、必要以上に理解していた。
「――はい」
自分に言い聞かせるように返事をして、目を開ける。
たちまち抑えていた力が溢れ出しそうになり、きつく奥歯を噛みしめた。
暗闇の中、美しく渦を巻き舞い散る薄水色の炎。
中から現れた翳籠の姿は、妖糾のそれに代わっていた。
見失った標的を探し闇雲に少女の振う刀の軌跡が、暗闇に溶けた薄水色の炎と混じり合ったその時、
『っ、そこかぁぁぁぁああ!!』
こちらの気配に振り返った少女が叫ぶ。
見開かれた瞳に映る、憎しみ、恨み、捻じ曲がった何かへの執念。
少女の姿はもう、人間とはかけ離れていた。
茶色かった髪は燃ゆる紅蓮に、瞳は真紅に染まり、真っ白な狐の耳と九本の尾を生やしたその姿は、まさしく妖――〝紅蓮狐(ぐれんぎつね)〟。
「「お待たせ」」
口が意志に反し勝手に動いた。
翳籠と妖糾の声は重なり合って、どこか少女を嘲笑っているかのようで。
『死ぃっっ、ねぇええええええええええええええ――!!』
地獄の窯を開けたかの如く響く、怨嗟の声がびりびりと空気を震わせた。
紅蓮の炎を纏う少女は再び翳籠――妖糾へと駆けだした。
少女が間合いに踏み込んだ瞬間を狙って腰を深く沈め、一息に跳躍した。
身体が軽い。
尾を引く薄水色の火の粉が消えないうちに、右手に炎を念じた。
宙返りして街頭を蹴る。
炎は既に少女と同じ実体のない刀を形作り、こちらに向かってきた少女の、紅蓮の刃とぶつかり合う。
激しく飛び散った双方の火の粉は幻想的な景色さえ作り出し、互いに押された紅蓮と水色の狐は一瞬だけ睨みあった。
片方は憎しみに燃えた瞳で、片方は楽しそうに、挑発するように嗤う瞳で。
そして合図もなく二人同時に飛び出す。
互いに身を引きながらすれ違い、擦れあった刀はまたしても大袈裟すぎるほどに火花を散らす。
どちらも一歩も譲らない勝負は白熱するばかり。
だが翳籠はこの状況を楽しんでいた。
初めて手にする自由、力を思う様振るえるという、自由を。
自然に口の端に浮かぶ笑みは歪み、何故か腹の底から笑いが溢れた。
なんだ、自分にも。
案外、こんな妖らしい狂ったところが残っていたんじゃないか。
「「――く、ふふ、っは、はははは……あははははははははは!!」」
鍔迫り合いの隙間に、翳籠は高らかに笑った。
声を上げて笑った。
そしてその感情に呼応するように溢れ出した力に任せ、強引に少女の刀を弾き飛ばし、よろけた身体を思いきり蹴り飛ばした。
腐った木箱に突っ込んだ少女は破片を撒き散らしながらくぐもった悲鳴を上げる。
が、翳籠が追い打ちをかける前に少女は飛翔した。
炎に混じって飛び散ったのは、真っ赤な血液。
だが少女を追って跳んだ屋上に、少女の姿は無かった。
熱された思考の命ずるままに、咄嗟に上を向く。
代わりに雨あられと降ってきたのは、紅蓮の炎の作る幾千もの、矢。
『――お返し』
少女の声が背後で聞こえた。
半分だけ振り返った視界に映ったのは、両の逆手に握った刀を振りかぶる少女の満面の笑み。
「「どうかな」」
翳籠は笑った。
こんな窮地に立たされてなお、高揚していた。
『え?』
斬、と貫く音と、少女の間の抜けた声が重なった。
瞬きをすると、少女と翳籠の位置が逆になっていた。
少女の腹部に突き刺さった〝紅蓮〟の炎が、噴き出した血を蒸発させながら少女の身体を包み込む。
妖糾は、パッと、手を離した。
「「夢の時間は終わりよ」」
落ちていく少女の後を、流星のように紅蓮の矢が追っていく。
だが矢は徐々に速度を落とし、火の粉を撒いて消えていった。
*****
ども!
続き考えてあったとか言って!実は!これ書くのに!
半日かけました。
バカダネ。
はい。
ということで、次でこのお話はお終いです。
今度から他の姉妹たちも出していけたらなーと思っています。
それでは、コメントいただければ幸いです!
また明日。
お久しぶりですー!!
いやいやww最近さぼってたので劣化してますよwwww
な、あ、あげたらなくなっちゃうじゃないですかぁ!!!(悲壮)
ようこそ我が胎内へ!(よくわかってない)
ありがとうございます……!
相変わらずの文才をお持ちで…!興奮します!!!←
少しくらい才能を分けてくれても((((ry
紅蓮狐姉妹の新たなストーリーを読むことができて感謝感激です(*^^*)
本当に深いですよね…!奥があるというか、なんともいえない独特な感じで……
これからも紅蓮狐姉妹の小説たのしみにしています!
コメントありがとう!!
ホント、そういってもらえるだけでね、嬉しいですとても。書いてる甲斐があります。
妖糾姉様ったらお転婆しすぎ♡ どっちかっていうと暴れてたのは翳籠だけどね!!←
(ノД`)・゜・。頑張ります……!!今度こそ続けて見せる!!
ありがと!
思わず鳥肌が立ちますた…!流石妖糾姉様♡
毎回すっごい楽しみにしてます…
ゆえ、もっともっと続いたら嬉しいなと思ったりたり…(小声)
半日の執筆、お疲れ様でしたっ*