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■近代文藝之研究|講話|英國劇と道徳問題(10)

■近代文藝之研究|講話|英國劇と道徳問題 (10)

かくて夫は如何にして此不愉快な生活から脱れ得、如何にして妻君を諭してこれを家庭的のものにしようかと、時々妻君に種々訓誡して見るが寸毫も其益なく、結局女は夫の訓誡に對して、私の結婚は金故の結婚である、自分は快樂の爲めに結婚したのであるとまで放言するに到つた。で夫は妻君の此言に對して、それでは道徳といふものが亡くなつて了ふ〓[#「こと」合略仮名]になるではないかといふと妻は、決して不道徳な行爲はしない、が然し快樂は自分の本領である故にこれを廢する譯にはゆかぬといふ。で此落想からいへば……作者が意識して書いたものか奈何かは別問題として……結果からいへば此の女を以て快樂を代表させ、それで行き方は前のカズン・ケートと異つて我々が快樂一點張りでやつていつたら那邊までいけようかといふことを示して、而して其結果到底人生は快樂一點張では維持が出來ぬ、當然の結果として不道徳に陷る。換言すれば道徳に觸れずして快樂を追求することは出來ないといふことを示して居る。けれどもそれが此劇の最後の解決ではなく、其解決は更にそれより後にある。



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*註1:かくて夫は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:不愉快
「愉」の正字体。「リッシンベン」+「兪」。

*註3:脱れ
「脱」の旧字体。旁が「兌」。

*註4:諭して
「諭」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/yu_satosu.jpg

*註5:家庭的のものにしようかと、
原本には「家庭的のものにしやうかと、」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註6:益なく
「益」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/eki_masu.jpg

*註7:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註8:道徳・不道徳
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg

*註9:亡くなつて了ふ〓
「〓」は「こと」の合略仮名。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gouryaku_koto.jpg

*註10:といふと妻は、
原本には「といふと妻、は、」とあるが最初の読点「、」はトルツメに改めた。

*註11:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註12:意識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註13:前の
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註14:那邊までいけようか
原本には「那邊までいけやうか」とあるが改めた。

*註15:追求
「追」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註16:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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