■近代文藝之研究|講話|新裝飾美術(6)
- カテゴリ:その他
- 2013/09/03 05:35:37
■近代文藝之研究|講話|新裝飾美術 (6)
序でだから一言して置くが、モーリスといふ人は、知らるゝ通り英吉利の繪畫壇に一新派を立てた所のラファエル前派の鏘々たる一人でロゼッチ。バーンジョーンスなどと双び稱せられ、且詩に於てもロゼッチ等と同じく立派な地位を保つた人である。で本來が意匠專門家で、此人の意匠の脈は寧ろゴシック即ち歐羅巴に於る古來の美術の系統中で尤も男性的な剛健な所を特色とした樣式に屬するもので、此の人が新しい裝飾意匠を案出して、大きな會社を建ゝて、壁紙から窓畫器物の模樣などに到るまであらゆる室内裝飾に新しい趣味を開發しやうと力めた結果、英吉利の裝飾美術は大變化を惹起し、近世の英吉利乃至歐羅巴の室内裝飾の主もなる樣式は遂に此モーリス式に成り了つた。であるから先づ今日の所、就中英吉利の室内裝飾などは、モーリス式か然らずんば頗るハイカラ式になつて、アールヌーヴォーといふ趣きである。其外アールヌーヴォーと離れて、日本趣味といふやうなものも入つて來て居ないではないが、而しそれはまだ歐羅巴に於る裝飾的美術界の一派をなすといふ程の地位には達して居ないのである。將來願はくば其地位に達するの日あらんことをといふのが我等の希望である。(明治三十九年談話筆記)
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*註1:序でだから
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:通り
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:繪畫壇
「壇」の俗字体。旁の「旦」部分が「且」。
*註4:立てた所・剛健な所・今日の所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註5:ラファエル前派
原本には「ラファヱル前派」と表記されているが、「英國最近の繪畫に就て (2)」のページを含むその以前のページでは「ラファエル前派」との表記のため、表記を統一した。
*註6:ロゼッチ
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti/1828年~1882年)のこと。イギリスの画家にして詩人。ハント、ミレイとともにラファエル前派(正確には“ラファエロ以前兄弟団=Pre-Raphaelite Brotherhood”)を1848年に結成。
抱月自身による稿では「ロゼチ」の表記だが、この講話の筆記者は「ロゼッチ」としているようだ。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Dante_Gabriel_Rossetti
*註7:バーンジョーンス
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ(Edward Coley Burne-Jones/1833年~1898年)のこと。イギリスのラファエル前派の画家。
抱月自身も「歐洲近代の繪畫を論ず」(五(6))では「バーンジョーンス」の表記だが、講話「繪畫談(6)」の筆記者は「バーン、ジョンス」と表記している。講話筆記者は専任の1人が担当しているわけではなかったようだ。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Edward_Burne-Jones
*註8:裝飾
「飾」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syoku.jpg
*註9:會社
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。
*註10:窓畫
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
*註11:器物
「器」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ki_utsuwa.jpg
*註12:室内
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註13:惹起
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註14:近世
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註15:遂に
「遂」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sui.jpg
*註16:なすといふ程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg
*註17:達して・達する
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註18:希望
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
*註19:筆記
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1