Nicotto Town



初夢の続きは (19)

人の記憶とは一体どういう仕組みになっているのだろうか?

幼い頃の風景……。

校舎、神社、商店街、裏山 

それが世界の全てだった

しかし今では何一つ思い出すことが出来ない

けれどもそれらは消えてなくなったわけではない

息を潜め、分厚いカーテンの向こうからコチラを伺っている

そのカーテンは何かの弾みで

さらに厚くなったり、不意に開いたりたりする

記憶とは本当に不思議なものだ





そう、あの頃の僕らはまだ幼く

今思えば、恋をしていたのだろう

ただその頃は恋がなんなのか知らなかったし

恋をした時どうしたらいいのかもわからなかった

結局松梨との別れの日、僕らは会うことはなかった

そうしてやっと気づいたのかも知れない

恋をしていたのだと





あの夏休みはキッチリ8月31日には終わり

間髪いれず二学期はやってきた

終わらない夏がないように

決して時間は止まらない

あわただしい毎日の中で、

あの夏は徐々に遠い日になっていった。

思えばあれから随分と月日が過ぎたものだ

その間に体はでかくなったが、他はさっぱりだ

未だにあのときの宿題を提出できていないのだからな…

恋をしたらどうすればいいか?





あの日の忘れ物は今も落とし主を待ち続けている







『初夢の続きは』 lastscene 『夢の終わりに』







確かな予感があった。

夕日に染まる神社の鳥居に近づきながら

自分の予感が現実のものになるのがひしひしと感じられた。

(やはりここか)

予感は当っていた。

階段の先、境内へと続く門柱に彼女は居た。

初詣の時と同じように

いやもっと昔、あの夏と同じようにか…。

速度を緩めゆっくりと近づくと、松梨の方から声をかけてきた。

「待たせるわね」

どこかで聞いたようなセリフだ。

何時だったか? そうか初詣の時か。

あの時とまったく同じトーンで

まったく同じ台詞を彼女はなぞった。

「悪い悪い、ちょっと道に迷ってさ」

少し軽快なトーンで返してみた。

初詣の時は何がなんだかわからなかった “待たせる” の意味。

今は、はっきりとその言葉の持つ重みを理解していた。

こちらの返しに満足したのか 

彼女は、ゆっくりと顔を上げた後

門柱に預けていた体重を反動に利用して、体を起こして悟と向き合った。

先ほどまでの雨は、上がっていた。

かすかに波の音が聞こえる。

けれど波の音は、すぐに木々のざわめきにかき消され静寂が訪れた。





「静かでいい場所だな」

「そうね 世界が、時間が、止まっているかのようだわ」

「ああ」

「海の底ってこんな感じなのかもね」

「海の底…。 か」 

子供の頃に感じた息苦しさが不意に蘇ってきた。

息苦しい海の底でじっと一人で待たせてしまった。

そのことにひどく申し訳ない気分になった。

「いつから、ここでこうしてたんだ?」

「さあ?」

本当にわからないという風に彼女は疑問符を口にした。

その言葉にはいくつか含むところがあるのだろう。

もちろん今日の何時からということではなく

約束のあの日から待っていたのだろう

それこそ本当に呆れるほど長い時間を…。

それきり互いに、次に紡ぐべき言葉を失った。

いつの間にかふたりの視線は、

木々の隙間から覗く夕焼けの空に注がれていた。





沈み行く太陽は、まるでタイムリミットのように思える。

早く!早く!と急かされている様で悟には少しおかしく見えた。

そんな夕焼けに背中を押されるように、悟は口を開いた。

「昔、仲がよかった子が居たんだ」

上手く声が出ただろうか? 喉の奥がカラカラだ。

「うん」

松梨は、抑揚のない声で頷いた。

「でもある日、その子は引っ越してしまった。

 その子の事、好きだったんだと思う」

「うん」


「その子がいなくなってから、しばらくは寂しかった。

 もう一度会おうといろんなことを試したけど、結局どうにもならなくてね。

 けれど半年が過ぎて一年が経ち…。

 いつのまにか自分の都合のいいように、記憶をすり替えてた」

「うん」

「再会の約束のことも、二度と思い出さなくなっていたんだ」

「うん」

「ごめん」

下げた頭から仰ぎ見た彼女の顔は、たぶん微笑んでいたように思う。

「いいの」

「だけど」

「いいの それだけでもう十分」

「松梨?」

「だから、もういいの」

その言葉を最後に、ふたりは黙ってしまった。

どういうことなのだろうか?

別に怒っている感じではない。

けれど嬉しい風にも思えない。

なんだか取り付く島を見失ってしまった気分だった。

「あの日の約束なん…」

島に強制上陸すべく悟は口を開くが、松梨に制されてしまった。

「あれは、もうタイムアップです」

「え?」

「もう時間切れです。 だから忘れてください」

「忘れられない」

「きっといつか忘れるから」

「忘れない」

「忘れてたくせに…」

「うっ」

「あははは」

「もう二度と忘れない。 …約束する」

「うん」

空の雲は全て雨となって、大地に落ちた。

過去は全て舞い降りた。

雲ひとつない夜空に月は顔を覗かせると

濡れた石段に、光をばら撒いた。

二人は、光に導かれるように石段を降りた。

繋いだ指先に互いの温度を感じながら。

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2013/09/10 14:43
忘れた頃に現れましたね^^

最終回、楽しみにしています(*^_^*)
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2013/09/08 14:03
こんにちは!
次回最終回なんだね。

忘れるように仕向けられていたけれど、忘れなかったということ
なのかな・・。
ラストがどういう展開になるのか楽しみです!!
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2013/09/01 04:31
恭介さん、こんばんは•θ•ฅ"

今日から9月。今月もまったりとどうぞよろしくお願いします(´▽`)ノ

気づいたら初夢がupされてたのでこんな時間ですが。。ワクワクしながらひょっこり来ちゃいました(´艸`)"

ついに思い出した事を伝えましたね~。。この場面まで読むまで待ってましたよ~^^
…って、まだ少し続きがあるんですよね^^次回が本当の最終回なのかな。。?
とりあえず楽しみ待ってますね。♪

ちなみに。。物語の大事な時期と同じこの時期にupしたのは何かの偶然でしょうか^^?
勝手に何か意味があったのかな~って感じている自分がいます。



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