愛してました 【 短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/26 16:20:06
私は君を心から愛していました。
…この想い、届いてた?
きっと届いてなかったよね、それくらい分かってたよ。
君の笑顔がこっちに向いてない事も、視線が向いてない事も…知ってた。
でも、私は君をブレることなく見てたよ…。
…もう、疲れちゃったけどね。
********
いつも通りの朝…iPhoneのアラームを消し、大きく欠伸をする。
洗いたてのいい匂いがする枕をバネにするように、体を起こす。
クローゼットに手を掛け、水色セーラーの制服を着用する。
かけたばかりのストレートパーマのショートを少し梳く。
そして、その他の身支度をこなし、7時30分になった。
もう、そろそろお決まりのものが来るはずだ。
…ピルルルル
ほらね、やっぱり。
私はiPhoneへ手を伸ばし、メールを確認。
コクリ、と一人で頷き、玄関へ向かった。
「 お母さん行って来るねー 」
台所で仕事をこなす母のほうへ向き、言った。
母の返事はいつもないが、私はしつこく言うことなく、外に出た。
メールの内容通り、家の前にはある人が立っていた──。
「 あっ!!彩夏っ!! 」
私の幼馴染で親友の花村梨花。
ストレートで綺麗な髪、そして整った顔、スラッとした体。
そんな幼馴染と比べ、私、安藤彩夏は何もない平凡女。
先日、やっとストレートパーマをあてれただけだ。
そんな私の髪を見た梨花は、微笑みながら、
「 ストパ当てたんだーっ 」
と、言った。私は頷き、手で梳きながら、
「 そうなんだー!!クセッ毛だったからさぁー 」
と、答えた。
そんな返答に彼女は、「 そっか 」と答えた。
そして、いつも通り学校に向かった──。
********
学校に到着した。
そんな校門の先には、見慣れた背中が…
「 …ねぇ、あれ。雅也じゃない? 」
梨花が指差す先にいたのは、私のもう一人の幼馴染、武田雅也。
あまり目立たないタイプだけど、私は一番知ってる…彼の優しさを。
でも──
「 行こうかっ!! 」
「 えっ、う、うんっ… 」
私達は共に彼のほうへ向かい、梨花はドーンッと背中を押した。
それと同時にビクッと体を震わせた雅也。
「 …うわあ、ビックリしたぁ。お前かよっ 」
冷や汗を流しながら、苦笑いで答える。
そんな雅也の姿を見ながら、嬉しそうにVサインを示しながら
「 へっへーんっ、梨花ちゃんでしたーっ☆ 」
と、答える梨花。
その姿は、きっと全世界の男を魅了するだろうと思った。
可愛い仕草、満点の笑顔、細くて綺麗な指で作られたVサイン…。
すべてが負けている…。
「 …? どうした?彩夏。 」
「 えっ? 」
ボーッとしている私を心配するかのように尋ねる。
私も梨花と同じようにVサインを作り、
「 大丈夫だよっ!! 」
と、無理に笑顔を作って答えた。
無理している事に気づいてもくれず、雅也は微笑み、
「 ならいいんだけど 」
と、答えた。
そして、梨花は雅也の服の袖をギュッと握って、
「 行こかっ!! 」
と、言って教室のほうへ向かっていった。
少し進んだ後、立ち止まっている私ほうへくるりと振り返り、
「 彩夏ーっ? 行かないのっ? 」
と、尋ねた。何も気づいていない、無邪気な笑顔で…。
私はまるでそれを返すかのように、必死に笑顔を作り、ついていった。
実は、私は昔から幼馴染の雅也が好きだ。
きっと誰よりも、誰よりも…一番彼に愛を注いできた。
彼を一番に好きになったのも私って言う自信があるくらい、幼い頃から好きだった。
今でも大好き。心が一切ブレたことさえもない。
ずっと彼をまっすぐ見てきた。
だけど彼は…
「 あははっ、梨花ってばおもしれぇなぁー 」
「 言っとくけど、これマジの話だからねーっ!! 」
彼は、私を見てなどいない。
彼が本当に見せたい笑顔は私には向いていない。…いや、向いたことさえない。
彼が本当に笑顔を見せてるのは私じゃなくて…梨花だ。
そんなの幼い頃から分かっていたこと。
ランドセルを背負い、笑い合っていたあの日から…もうずっと分かってた。
彼が彼女にしか見せない照れくさそうな笑顔も…私は遠くから見てきた。
悲しい目をしながら見ている私に気づいても、微笑むだけで、
「 どうしたの? 」とか「 大丈夫? 」の一言も掛けてくれなかった。
彼は、私の悲しみや想いには気づいた事もなかった。
…それもしょうがないことなのかもしれないけどね。
*********
帰宅後…、私のiPhoneが光った。
いつもはならない着信音。
彼から来たときだけにしかならないメロディーが鳴り響いた。
相手は一瞬で誰だかわかった。
【 雅也 】
iPhone画面に浮かび上がる名前。
すぐに電話に出た。
「 も、もしもし… 」
緊張で、声が少し震えた。
だが、それに気づく事もなく彼は少し怯えたような声で、
『 お前の家の前にいるから来てくれない? 頼むわ 』
「 え 」
その一言だけを残し、電話を切った彼。
どんな用件かはわからないが、会えるならそれでいい。
そんな事を思いながら、すぐに外に出た。
*********
家の前には、寂しく立ち竦む彼の姿が。
「 …雅也 」
「 お、彩夏ー。ちょっと相談乗ってくれぇー 」
嫌な予感がした…。
彼の無邪気でそして、どこか照れくさそうな笑顔…。
胸がザワめく。
「 …何? 」
彼はゆっくり口を開き始めた。
「 …俺、実は梨花が好きなんだよね。 」
平気な顔をして、私に打ち明ける。
そんなのわかってたはずなのに、少し体がよろめく。
だが、彼は続けた。
「 だからさ、ちょっと明日2人で登校できるよう、仕向けてくれない? 」
彼の照れくさそうな笑顔は歪むことなく私を見ている。
ここで…「 嫌だ 」なんていえるの…?
「 嫌だ 」なんていって、終わる恋なのだろうか?
…そんなワケない。
「 いいよ!!明日ね!! 」
私はいつものように彼にVサインを示し、”大丈夫”と返答した。
それは、まるで自分への暗示のようにも思えた。
「 マジ?ありがとー!!じゃっ 」
嬉しそうにガッツポーズをしながら、背を向けて帰っていった。
私は彼の背が微かに見えるくらいになった頃…、涙を流した。
こんなに泣くのは今日だけ。
明日からは強くなるから、今日だけ泣かせて。
そんな事を思いながら──。
私は君を心から愛していました。
…この想い、届いてた?
きっと届いてなかったよね、それくらい分かってたよ。
君の笑顔がこっちに向いてない事も、視線が向いてない事も…知ってた。
でも、私は君をブレることなく見てたよ…。
…もう、疲れちゃったけどね。
※実話ではありません。
こういうのって、ライバルの子が嫌いになっちゃいそうで怖い
…ライバルってのも、自分しか思ってないんだろうなぁ。
相手にやましい気持とかがないのがまた辛いよね…