Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


秋きぬと… 山椒がプルースト的に私を連れ去る


またとても暑い夏だった。
けれども、わたしは夏がきらいじゃない。
すごしにくいし、たおれそうになるけれど、
太陽がいちばん近い季節だと、たとえば思う。
ひざしの、じりじりと肌をさす感触に
太陽のちかさを思うのだ。
入道雲、かなしげなヒグラシの声、
太陽のようなヒマワリの花、
昼にはしぼんでしまう、色とりどりの朝顔の花、
朝晩みずやりをしないと、
へたってしまう鉢植えの植物たち。

きょう、日中は、近所の外回りの仕事をしてた。
汗だくだ、ひざしもきつい。
鎖骨のあたりから玉のような汗がふきだして
いるのが、めずらしかった。

けれども、午後3時頃、太陽のかたむきが
早いと思った。七月よりも。
そして、ときおり、ふく風に、わずかに涼しさをかんじた。


秋きぬと目にはさやかにみえねども風の音にぞおどろかれぬる

そう、この時期になると、いつも古今和歌集のこの歌をおもいだす、
まさに、そんな風を、かんじたのだった。

まいとしのように感じて、そこに想い出たちがかさなって
じゅずつなぎに、わたしをつくりあげているようでもあって。

どこかの家の庭先で、山椒の葉の香りがした。
山椒の葉の匂いをかいたとき、アゲハの幼虫を育てた小学生の頃のことを思い出した。
山椒の葉を、芋虫のえさにしたから。
虫籠のなかにいれてやる。そのうちさなぎになり、アゲハになる。
蝶になったら、にがしてやる。
そんな行為たちを、そして父を思い出す。
庭で植物をそだてていた父の姿。

プルーストの紅茶にひたしたマドレーヌ。

思いがけず、わたしは時間をさかのぼったのだった。





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