【 短編小説 】 それを知った瞬間
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/13 18:21:17
純情じゃないほどの涙の量だった…。
この俺が、こんなにも涙を流した事はあっただろうか?
こんなにも、涙を流させた事はあった。
でも、自分がここまで泣いたことは…今までない。
だが、もう遅いのは分かっている。
******
「 ねぇねぇ拓真ぁ~。昔みたいに遊ぼうよぉ~ 」
とある教室で、俺に近づいてきた巻き髪の女。
女独特の甘ったるい声で俺に張り付く。
コイツ、名前なんだっけ? 何番目の女かさえ忘れちまった。
「 ねぇ、拓真ぁー聞いてるぅ? 」
あー、ウゼェ。なんだこの女は。
ぜんっぜん記憶にねぇーし。
「 あのさぁ、お前誰? 」
呆れきった声と苛立った声を混じらせ、
腕に巻きつく女を見下しながら、言った──。
次に来る女の反応はもう理解できている。
「 なっ、何なのよっ!!この変態男っ!!! 」
…パシッ!!!
こうして、女は俺に一発殴り、涙を溢しながら去っていく──。
女の名前さえ覚えてない俺が、女の去り方だけは覚えている。
「 …ヘッ 」
これで何人目だろう。
そんな事を思いながら鼻で笑い、煙草に火を付けた。
もくもくと教室の天井に煙が上がっていくのをただ見ていた。
放課後の誰もいない教室で俺は一人、煙草を吸っていた。
何人目だか知らない女に引っ叩かれ、鼻で笑う。
俺は何してるんだ。
時々そんな風に思うことはあるが、やめられないこの癖。
美人を見ると、すぐに声を掛けて付き合う。
この行為を続けてるうちに何人目だかわからないようになっちまった。
馬鹿馬鹿しい人生だなァ。
でも、なんだかんだ言って楽しんでるのも事実だった。
「 ふぅー 」
煙草の煙を吐き、また吸う…そんな行動を繰り返している内に──
タタタタタタッ…!!!
「 ん? 」
ものすごい速い足音が聞こえてきた。
その小刻みに聞こえる速い足音は俺のいる教室で止まった。
( あ、ヤベ。来る… )
慌てて煙草の火を消し、捨てた。
そして──
…ガラッ
扉が開かれた。
その瞬間、俺の視界に入ったのは普通の女子だった。
「 ハア…ハア…間に合ったァ… 」
扉に靠れかかりながら、胸を押さえてそう呟く。
そんな姿を見ながら、俺は鼻で笑った。
…だが、その女は一向に俺を見ないし、反抗しない。
いや、むしろ自分の視界には俺が入ってないように扱っている。
こんなの初めてだ…。
「 あー、あったあったぁ 」
女は机の引き出しからノートを取り出し、ニコッと笑った。
安心したように、鞄の中に直し、そのまま教室から出ようとした。
「 お、おい… 」
「 えっ? 」
女は驚いた様子で俺を見ている。
普通だったら、ここで顔を真っ赤にするはずなのに…
俺は少し悔しくなった。
「 お前さあ、反抗しねぇの? 」
「 は? 」
俺、何言ってるんだ。
こんなん聞いたらおかしいだろ。
わかっていても止まらない口──
「 一言あるくねぇ? つか煙草の臭いとかするだろ? 」
「 す、するけどっ… 」
女は困ったように答えた。
その態度はまるで、”だから何?”と言ってるようだった。
ムカッとした。
こんな女の態度初めてだったから…
この女、絶対俺を夢中にさせてやる。
そんな馬鹿な決意をしていた。
「 だからさァ…注意するとかねぇの? 」
机に肘を置き、首を傾げる。
女は深いため息を溢し、両手を腰に置いた。
「 注意される事って分かってるなら、やめたら? 」
驚いた…。
俺にそんな事言う女なんて、初めてだ。
「 へぇ、そんなん言うんだァ? 」
「 それに、本当にあなたが吸ってるかなんてわからないしね。 」
「 ほぉー? 」
シメシメと笑いを浮かべ、女に近づいた。
俺が一歩一歩近づくたびに、後ろにさがっていく女。
「 …な、何なの 」
「 俺が吸ってるかどうか、調べろよ。だったら、注意できるんだろ? 」
「 やめてよっ… 」
ついに俺は壁に追い込み、逃げ道のないように腕で囲った。
動揺する女。それを俺は見下し、不適な笑みを浮かべる。
「 …きゃっ 」
ゆっくり唇を近づけていった…
そして、後数cmという時に──
「 やめてぇっ!!! 」
…パシィッ!!!!
平手打ちをくらった。
いつもみたいなシュチュエーションではなく、キスしようとしたら。
「 …は 」
状況が飲み込めない。
こんな女初めてで、どうすればいいか俺が分からなくなった。
「 ハア、ハア、ハア… 」
女は顔を真っ赤にし、俺を今までされたことのないほどの睨みを利かせている。
「 最っ低…。 」
その一言だけを残し、教室を去っていった。
俺は初めて女の背中に手を伸ばし、”待って”と言いたくなった。
今までの女達もそんな気持ちだったのだろうか…。
適当にあしらってた女達だったが、アイツらからすれば本気だったのか…?
「 クソッ、また名前… 」
いや、今回は覚えてないんじゃない。
本当に…知らないんだ…。
ボーッと窓の外を眺めると、校門の前で、男としゃべっている女が。
男に抱きつき、涙をボロボロ流している。
そういえば、あの女、さっき泣きそうな顔をしていた──
「 …ヘッ、彼氏に泣きついてるのか。 」
悲しく一人でポツリと呟いた。
ここからじゃまったく聞こえないけど、女の口を見れば何て言ってるかわかった。
”怖かったよぉ~!!!”
きっとこんなところだろう。
そんな女を優しく撫でる男。
俺には到底届かないくらい優しいんだろうなぁ、アイツは。
その瞬間、俺は嫉妬さえしなかった。
とにかく、自分を責めまくっただけだった。
本当の恋…それを知るのがもう少し早ければ…
君を手に入れられたのか?
夕日に染められ、伸びてく影をただただ見つめながら
聞こえない声で、俺は言った。
「 もう少し…早く出会いたかった。 」
ポツリと呟き、女の顔が見えなくなるまでずっと見ていた。
その間もずっと女の顔は…彼氏のほうを見て、離れなかった。
「 … 」
俺はそれを知った瞬間…涙が溢れた。
純情じゃないほどの涙の量だった…。
この俺が、こんなにも涙を流した事はあっただろうか?
こんなにも、涙を流させた事はあった。
でも、自分がここまで泣いたことは…今までない。
だが、もう遅いのは分かっている。
-END-
※実話ではありません。