式飼い。【4】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/11 22:11:24
# - 1 / 3
目を開けるとモノクロだった。
ああ、裏側の世界に来たんだ、と理解した。
他人に連れてこられるのは初めてだった。
「おはよう、寝坊助さん」
刀の声色はぞっとするほど優しかった。
ぼうっとしていた意識が、痺れていた頭の芯が急激にクリアになっていく。
今の私に何らかの選択が与えられるのなら、それは逃げるか潔く殺されるかの二択に違いない。
前者はどう見積もっても無理そうなので、とにかく延命を図ることにした。
「……良い朝だね」
「呑気ね」
自分が可愛いが故の防衛策だと言えばいいだろうか。
物理的にも精神的にも手ごわい相手に変わりはないので腰を低めに構えたい。
胸の上に置かれた手は、服越しにわかるほど冷たかった。
「そうかな」
「今から何されるかわかってる?」
ため息交じりに聞こえた声に少し警戒を解いたのがまずかった。
「生きたいと思う意思が弱いから、貴女はいつまで経っても強くなれない」
ずぶり。
そう、音を発した。
意識した途端に息ができなくなる。
ハッキリしていた意識が曇りだす。
わけのわからない悪寒が背筋を凍らせ手足を小刻みに震えさせる。
一瞬にして麻薬のように全身に回った血の気が引くような寒気。
それはある種快感に似ていた気がしたけれど、とてもそういう気分にはなれない。
首をもたげ、自らの胸元を見やる。
刀の手首が、自分の身体に埋まっていた。
いや、刺さっているとても言えばいいのだろうか。
上手く言葉が見つから無い。
とにかくその手はぐしゃぐしゃと胸の中を物理的に掻き雑ぜ、とあるものを見つけて動きを止めた。
氷のように冷たい指先が、それに直に触れる。
「……気持ち悪い。貴女みたいなのもちゃんと生きてるんだって思うと苛々する」
そしてぎりりと、爪を立てた。
「ッぁ゛……?!」
「ねぇ、苦しい?痛い?私がとうに忘れた感覚を貴女が今味わっているんだと思うと羨ましくてたまらない。このまま殺してもいいんだよ、剣」
脈絡のない言葉を理解するための理性が吹っ飛びかけていた。
自分でも情けなくなるほど呼吸が苦しくて、とても言葉を発せそうになかった。
「……ねぇ剣、私の仲間になってよ」
甘い毒のように刀の食い込んだ爪から染み込む何かが、握りつぶされそうな心臓が鼓動を刻むたびに身体中に回る。
鼓動の音と刀の声だけが聴覚を支配した。
視界に霞がかかる。
もうどうでもいいやという脱力感と、妙な解放感があった。
「そんなことしたって、剣は君の仲間になってなんかくれないよ」
が。
その時、何かが――黒い、槍のようなものが、飛んでくるのが見えた。
それは馬乗りになる刀を吹っ飛ばして、いきなり、理性が戻ってきた。
今まで止まっていた呼吸が再開する。
突然流れ込んできた酸素にむせ返ると、その隙間に無理やり入ろうとする息を吸おうとする行為が邪魔に思えて余計に苦しくなる。
ひとしきり涙を流して落ち着くと真横から声がした。
「や、久しぶり」
――あー、誰だっけ、こいつ。
*****
連載がすっっっっっごく遅れました★
まあ、元から気長に書いていく予定だったのでせめて忘れないでいてもらえていれば嬉しいです。
それにしても自分で書いておきながらおぞましい体験ですね。
コメントをもらえるとセルフで飛び上がって喜びます。
ではまた、しばらくしたら。
ああ、裏側の世界に来たんだ、と理解した。
他人に連れてこられるのは初めてだった。
「おはよう、寝坊助さん」
刀の声色はぞっとするほど優しかった。
ぼうっとしていた意識が、痺れていた頭の芯が急激にクリアになっていく。
今の私に何らかの選択が与えられるのなら、それは逃げるか潔く殺されるかの二択に違いない。
前者はどう見積もっても無理そうなので、とにかく延命を図ることにした。
「……良い朝だね」
「呑気ね」
自分が可愛いが故の防衛策だと言えばいいだろうか。
物理的にも精神的にも手ごわい相手に変わりはないので腰を低めに構えたい。
胸の上に置かれた手は、服越しにわかるほど冷たかった。
「そうかな」
「今から何されるかわかってる?」
ため息交じりに聞こえた声に少し警戒を解いたのがまずかった。
「生きたいと思う意思が弱いから、貴女はいつまで経っても強くなれない」
ずぶり。
そう、音を発した。
意識した途端に息ができなくなる。
ハッキリしていた意識が曇りだす。
わけのわからない悪寒が背筋を凍らせ手足を小刻みに震えさせる。
一瞬にして麻薬のように全身に回った血の気が引くような寒気。
それはある種快感に似ていた気がしたけれど、とてもそういう気分にはなれない。
首をもたげ、自らの胸元を見やる。
刀の手首が、自分の身体に埋まっていた。
いや、刺さっているとても言えばいいのだろうか。
上手く言葉が見つから無い。
とにかくその手はぐしゃぐしゃと胸の中を物理的に掻き雑ぜ、とあるものを見つけて動きを止めた。
氷のように冷たい指先が、それに直に触れる。
「……気持ち悪い。貴女みたいなのもちゃんと生きてるんだって思うと苛々する」
そしてぎりりと、爪を立てた。
「ッぁ゛……?!」
「ねぇ、苦しい?痛い?私がとうに忘れた感覚を貴女が今味わっているんだと思うと羨ましくてたまらない。このまま殺してもいいんだよ、剣」
脈絡のない言葉を理解するための理性が吹っ飛びかけていた。
自分でも情けなくなるほど呼吸が苦しくて、とても言葉を発せそうになかった。
「……ねぇ剣、私の仲間になってよ」
甘い毒のように刀の食い込んだ爪から染み込む何かが、握りつぶされそうな心臓が鼓動を刻むたびに身体中に回る。
鼓動の音と刀の声だけが聴覚を支配した。
視界に霞がかかる。
もうどうでもいいやという脱力感と、妙な解放感があった。
「そんなことしたって、剣は君の仲間になってなんかくれないよ」
が。
その時、何かが――黒い、槍のようなものが、飛んでくるのが見えた。
それは馬乗りになる刀を吹っ飛ばして、いきなり、理性が戻ってきた。
今まで止まっていた呼吸が再開する。
突然流れ込んできた酸素にむせ返ると、その隙間に無理やり入ろうとする息を吸おうとする行為が邪魔に思えて余計に苦しくなる。
ひとしきり涙を流して落ち着くと真横から声がした。
「や、久しぶり」
――あー、誰だっけ、こいつ。
*****
連載がすっっっっっごく遅れました★
まあ、元から気長に書いていく予定だったのでせめて忘れないでいてもらえていれば嬉しいです。
それにしても自分で書いておきながらおぞましい体験ですね。
コメントをもらえるとセルフで飛び上がって喜びます。
ではまた、しばらくしたら。