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■近代文藝之研究|講話|繪畫談(6)

■近代文藝之研究|講話|繪畫談 (6)

然れども其結果は全體の畫面が極大まかに一調子の色でもつて描き出されて居る。近くへ寄つて見ては細々した形ちはなく、離れて見ると全局の上に種々の景色が出て居るといふ面白味になつて來て居る。ラファエル前派の畫でも始めは正直に誠實に、自然を寫すといふのが標榜であつて、細かい點に於ては極端にまで寫實を行おうとしたのでありますが、全體の調子に於ては、反對なローマンチックな強い情緒の表現を主にした畫風になつてしまつた。これはラファエル前派の畫家の中でも專らロゼチ及びバーン、ジョンスの畫風から來たもので、これを普通にロゼチ、ツラヂションと呼んで居ります。
それで印象派は啻に今尚ほ繪畫壇の主要な地位を占めて居るばかりでなく、歐羅巴の凡ての畫風に影響を及ぼして、如何なる畫風でも多少印象派の影響を彩色法の上に有つて居ないものはない位であります。之れに反してラファエル前派の方は、印象派よりも更に多く其盛りを過ぎ去つて了つた意味がある。然れども勿論今尚ほ後繼者は、例へばケーレー、ロビンソンとかバイアム、ショーとかいふやうな若手に命脈を續けて居るのであるし、他の畫派に影響を及ぼしたことの大なるは何人も認める所でありませう。且最近數年に於て、此畫派の畫は夫のワッツの畫風などと双んで、再び世の注意を惹くやうになりかゝつた氣味があります。尤もラファエル前派の榮えたのは一千八百五六十年頃であつて、其尤も衰へた頃と思はれる十年許りも前の書物を見ますと、ラファエル前派は今や一つの冗談と認められて、これを名告るのは耻とする風があるとすら言つてある。それが最近の思想界の傾向に伴れて、亦た稍復活し來らんとする氣味なのでせう。(明治三九年談話筆記)



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*註1:然れども其結果は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:全體・全局
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg

*註3:畫面・畫でも・畫風・畫家・繪畫壇・畫派・畫は
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
「壇」の俗字体。旁の「旦」部分が「且」。

*註4:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註5:近く・最近
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:前派・十年許りも前
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註7:寫實を行おうとした
原本には「寫實を行ろうとした」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註8:強い
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。

*註9:情緒
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg

*註10:バーン、ジョンス
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ(Edward Coley Burne-Jones/1833年~1898年)のこと。イギリスのラファエル前派の画家。
なお、「歐洲近代の繪畫を論ず」(五(6))では「バーンジョーンス」との表記になっている。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Edward_Burne-Jones

*註11:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註12:啻に
「啻」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tadani.jpg

*註13:今尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

*註14:主要
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註15:影響
「響」の旧字体、もしくは正字体だが原本画像不鮮明で確定できず。
旧字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_hibiku.jpg
正字体は、
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_seiji.jpg

*註16:多少印象派の影響を
原本には「多少印象派の響影を」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註17:彩色法
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg

*註18:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註19:過ぎ
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註20:後繼者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註21:ケーレー、ロビンソン
フレデリック・ケイリー・ロビンソン(Frederick Cayley Robinson/1862年~1927年)のこと。イギリスの画家。ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ(フランス象徴主義画家)の影響を受けた。『青い鳥』等のイラストも描いた。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Frederick_Cayley_Robinson

*註22:バイアム、ショー
ジョン・バイアム・リストン・ショー(John Byam Liston Shaw/1872年~1919年)のこと。インド生まれのイギリス人画家。絵画のほか挿絵も描き、後年は美術学校を起こし教師となった。なお、「バイアム」は「ビアム」と表記されることもある。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:John_Liston_Byam_Shaw

*註23:認める所・認められて
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註24:ワッツ
ジョージ・フレデリック・ワッツ(George Frederic Watts/1817年~1904年)のこと。イギリスのラファエル前派・象徴主義画家、彫刻家。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/George_Frederic_Watts

(※コメント欄へつづく)

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2013/08/10 17:58
(※註のつづき)

*註25:名告る
「告」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_tsugeru.jpg

*註26:伴れて
「伴」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ban.jpg
 訓みは「ともなは(れて)」。

*註27:氣味なのでせう。
原本には「氣味なのでしやう。」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註28:筆記
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。

*註29:明治三九年
西暦1906年。抱月37歳。イギリス・ドイツ留学から帰国した翌年で、文芸協会設立や『早稲田文学』再刊等、本格的な演劇・評論活動を始動した年。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1



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