接待プレイ(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/01 23:29:31
チャット機能はoffのままだ。最近は多少はネットエチケットも一般的に
なってはいるがいまだに勝った負けたで暴言を吐きまくる輩がいるからだ。
そんなことを考えていたらいつの間にかゲームが始まっていた。
よしっ、お手並み拝見と行きますか。
むむ、弱い・・・。
もしかして初心者か?俺も今日がこのゲームの家庭用は初めてだから
マッチングバランスを取るために初心者が相手になっていてもおかしくはない。
でもこんな古いゲームで今更初心者っているのか?
しかし、相手の動きから一生懸命さがよくわかる。
さっきの変な上段の強パンチはたぶんコマンド入力ミスで起こった暴発だろうな。
俺もこのゲームをやり始めたころはよくやったもんな。
そう考えるとなんか親近感わいてきたぞ、ネカマちゃん。
さて2ラウンド目がはじまった。
対戦は先に2本先取したほうの勝ちとなる。つまりこの試合に勝てば俺の勝ちとなる。
よーし、ちょっとはネカマちゃんに花を持たせてやるか。
2ラウンド目は若干手を抜いて相手の攻撃を食らってあげた。
わざと相手の間合いに入ってはこちらの届かない攻撃を仕掛けて失敗した
フリをする。まあ、接待プレイってやつかな。これはこれで結構な
テクニックが必要なのだ。
2ラウンド目は制限時間いっぱいを使って相手の勝ち。
ちょっとわざとらしかったかな・・・。
3ラウンド目が始まる。
これで1対1のドロー、ネカマちゃんも1勝したから気分いいだろ。次はマジでやるか。
1ラウンド目同様、開幕ダッシュ。相手の頭上めがけてジャンプ中キックを仕掛ける。
ここで当たればしゃがみ小キック連打からの大パンチに繋がる。
見事命中!
さらにいったんその場でジャンプすると相手の攻撃を避けることができる。
その場ジャンプのまま大キック。
しかし、このキックはブロックされた。大攻撃なのでブロックされると一瞬
ひるんでしまう。この隙にコンボを叩き込まれるとかなり痛い。
そこは初心者、中パンチ一発を叩き込まれるだけで済んだ。
俺は体制を整えるために後方ジャンプで間合いを開けようとした。
しかし、いつも暴発していた相手の飛び技がここにきて発動!
着地直前の俺はガードもできず、モロに食らってしまった。
あれ?まさか圧(お)されている!?
このゲームはダメージを食らうごとに画面下にあるゲージが溜まっていき、
満タンになるか、あるいはのこりHPがわずかになった時に超必殺技を
繰り出して大逆転が狙えるのだ。
超必殺技は複雑なコマンド操作が要求される。それだけにこれが
決まるとカッコいいのだ!このゲージは敵の攻撃をブロックしても増える。
見るとあと少しでゲージが満タンになりそうだ。
このままいけば超必殺技でカッコよく仕留められるかもしれない。
飛び技の第2波が飛んできた。
ブロック!
敵がこちらに向かってジャンプする。上段蹴りでうまく迎撃成功!
すかさず下段小キックで起き上がりにかぶせる。
ダメージを受け続けると一定時間ふらふらになり、操作不能となってしまう。
専門用語でピヨるという状態だ。まさにその状況が相手に起きている。
この時に大ダメージを与える攻撃を仕掛けるのが定石だ。
勝ちを意識したこの瞬間、逃すまじ!ここで超必殺技で華麗に勝利を!
・・・と思いきやまだゲージが溜まり切っていない!!
「しまった!」
変な攻撃が当たって相手はピヨりから回復。
ここは超必殺技は捨てて、とにかく勝ちに行こう、大キックジャンプで決める!!
ここでまさかの出来事が起こる!!
画面が一瞬暗くなったかと思うと画面いっぱいに巨大な炎をまとった
竜巻が舞い上がる!
グゥオォォォォーーー!!!!
うそーん!!
これが相手の超必殺技だ。すでに虫の息だったため、いつでも超必殺技を
出せる状態になっていたのだ。
俺のキャラ(ジョーイ)に無数のヒットマークが付きまとう。
これで負け確定か・・・。
画面が元の背景に戻ったが、『YOU LOSE』の文字はまだ出ていない。
よく見るとHPが1ドットほど残っていた。まさに首の皮一枚といった状態だ。
安心している場合ではない、すでに相手はとどめを刺しに頭上から狙ってきていた。
俺はこの勝負が決まったと思い込んでいたのでコントローラから手を離していた。
「まずい!油断した」
急いでコントローラを持ち直した。
YOU WIN!!
・・・あれ?
とっさにコントローラを持った時に小パンチボタンを一緒に握っていたらしい。
しかもここしかないという絶妙な間合いで繰り出していたのだ。
何とも恰好の悪い勝ち方、辛勝とはこういうときのことを表すんだろうな。
相手の『アサミ』は無言のまま(あたりまえだけど)画面から消えていた。
ナイスファイトをありがとう、ネカマちゃん。
ゲームは改めて2回目のCPU戦に突入した。
CPU戦を進めていると突然メールが届いた。最近のゲーム機はオンラインに
つないでいるとメッセージが送ることができるのだ。
あて名は『アサミ』と書いてある。
俺はゲームをCPU戦を一旦ポーズをかけて試合を中断しメールを開くことにした。
ちなみにオンラインの対人戦ではポーズをかけることはできない・・・
あれ?俺オンラインモードでプレイしてたっけ?
まあ、いいか、メールを開く。
だいたい、負けた奴の腹いせの暴言か、逆にフェアプレイをありがとう的な
コメントなんだろう。
「約束守ってくれたんだね、真剣勝負ありがとう」
何だこりゃ。
まさか!!!!????
いや、そんなはずはない。アサミはもう・・・。
でも、約束のことはアサミと俺以外誰も知らないはず。
「練習するから、今度やる時は絶対に真剣勝負する、接待プレイなんかするな」
永遠に今度はないと思っていたが、まさかそんなことあるはずがない。
そうか、誰かのいたずらだな。あるいはたまたま誰かと間違えたんだろう。
メールの返事を書いて送ってやろう。
「お前は誰だ?俺の知っている人か?」っと。
送信ボタンを押した。
しかしすぐにエラーメッセージが戻ってきた。送り先のアドレスが存在しないらしい。
速攻でアカウントを削除したのか?知る手立てが見つからない。
念のため対戦記録を見てみたが、対戦した形跡がない。
それもそのはず、俺がやっているゲームモードはオフラインモードなのだ。
もしかするとまた乱入してくるかもしれない。
期待と不安の混ざった変な気持ちでそのままCPU戦を始めてみた。
ラスボスまで倒しても乱入者はこなかった。
試しにオンラインモードで進めても、『アサミ』と当たることはなかった。
接待プレイなんかせずに真剣勝負しろ、か。
そんなことをしているうちにもうこんな時間か。
アナログ時計の短針は午前2時を指し示していた。
よーし!とっとと寝て明日早く出社して会議資料を作っちまおう。
手なんか抜かずに。
ありがとうアサミ、お盆休みには久々に墓参りに行ってやるよ。
おしまい。
それ、良い!毎年の恒例行事になったらいいな。
だらけた俺君に喝を入れに。
実はこの話、モデルが居たりします。
有るかもですねo(・д´・+)9”