七月自作/お題:図書館 『図書室の神様』
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/31 00:37:06
「図書委員にようこそ」
図書委員になって初めての仕事の日、ペアを組んだ先輩は微笑んで結に手を差し出した。
「あなた、立候補だったんですって? 珍しいわね。
地味でめんどくさい仕事が多いから、殆どの子は先生が出席番号で適当に決めちゃうのに」
よく喋る先輩に結は『はぁ』と曖昧に答える。
図書委員の仕事は確かに面倒が多い。本の貸し出し返却、破損の修理、購入図書の選定、そして返却期間を過ぎても返してくれない生徒への返却要請。本に囲まれた優雅なイメージからはほど遠い。
けれど結は幸せだった。
蔵書数は県下一を誇る私立の女学院の図書室。冊数だけなら市の公営図書館も上回る。
初代理事長の趣味が高じて集められた本は、明治時代の古書から海外の原書まである。
さすがに骨董と呼べる本は貸し出しの棚には置かれず、一般の生徒は閲覧申込書など提出したりと、目に触れるには面倒がある。そんな本に触れる機会に恵まれるのだ。
先に卒業した従妹から話を聞いて以来、この図書室のためだけにこの学校を受験したと言っても過言ではなかった。
慌ただしく過ぎてゆく放課後の図書室の時間は、結にとって至福のひとときでもあった。
閉館時間を過ぎて
「さ、後は返却本の整理をして終わりよ」
先輩と沢山の本を抱えて、破損が無いかをチェックしながら棚に戻してゆく。その合間にも先輩はよく話しかけてきた。
「結構大変な仕事よね。何が一番大変って、力仕事もだけど、返却してくれない生徒に返すよう要請に行くのが一番苦手なのよね、私」
結はやはり、曖昧に返事をしながら黙々と仕事を続ける。
ふと、先輩の手が結の肩に置かれた。
じっと目を見つめられる。
「こんな仕事、好んで立候補してくれたあなたに、特別に教えてあげる。この図書館のとっておきの秘密……」
急に声が勿体ぶったような密やかなトーンになって、結は思わず身構えた。
「ここにはね、神様が居るのよ」
図書委員がどんなに頑張っても、本にトラブルは起こる。
返却しないまま卒業してしまう生徒。
図書室で読んだ本を元の位置に戻さないで適当に放り出して、行方不明にされてしまう本。
何でも、そうした本達を返してくれる神様が居るというのだ。
「そんな時は『本の神様』って三回唱えるのよ。
そうしたらいつの間にか、その本が返ってきているのよ。本当よ」
秘密というからどんなものかと一瞬期待した結は、がっくりと肩を落として「はぁ……」と溜息交じりの返事をした。
一学期が過ぎて夏休みに入っても、図書委員は登校して図書室を開けなければいけない。
「これも図書委員が不人気な理由なのよ」
先輩は相変わらずお喋りだ。
結も相変わらず曖昧な返事をしながら仕事をこなす。
この頃になると、結が仕事に慣れたのを見計らって、先輩は最後の返却本整理を結に任せて部活に行ってしまうようになった。
勿論、図書室が目当てで入学してきた結にとって、それは先輩のお喋りに煩わされることなく本と向き合えるチャンスなのだから悪い事ではない。
本を返しながら結は自分の好きな本、まだ知らなかった本を手に取ることができるのだから。
そんなさなかで、ふと本を整理する手が止まった。
不自然に空いた棚の一隅。そういえばこの数週間、ここに本が戻って来ていない。
未返却本だろうか。
首を捻る結の頭に、ふと先輩の声が流れた。
あまりにもバカらしくてすっかり忘れていた、あの話。
ありえない。そう思いながらもつい、結の唇から言葉が漏れた。
「本の神様、本の神様、本の神様……」
当たり前の事だがそれで本が戻ってくるわけではない。バカな事を口走ったと、口端で笑いながら本棚に背を向ける。
と、上の方からズルズルと音がして、ばさりと何かが落ちてきた。
慌てて振り返るとあの空いた空間に収まっているべきタイトルの本が床に落ちている。思わず棚を見上げると、ぱらぱらと埃を落としながら動くモノがあった。
それは細長い尻尾を揺らして、『ちゅう』とひと鳴きすると駆けて逃げた。
神様の正体見たり……勿論本当にそんな事を信じるわけではないが、この奇妙な偶然に結はしばらく立ち尽くすしかなかった。
やがて年は過ぎ、三年生になった結の元に、同じように物好きな立候補委員が現れる。
そして結は……自分と同じく、この図書室に憧れて入学したという彼女に、つい語ってしまうのだ。
「この図書館には、神様が居るのよ……」
~ 了 ~
読んでくださってありがとう~(´▽`)
たまにはシンプルな話も書くんですよww
子供の希望と親の希望が一致するって難しいですよねぇ
特に中学前後だと自立心も出てくるし、
でも本人がやりたいと思った事をやって満足してくれるのが一番かも~
ほのぼの系で楽しかったです^^
娘の中学を決めるとき、すっごい素敵な図書館のある学校があって、
そこって給食までついてたので強くオススメしたんだけど・・・。
却下されてしまいました。せっかく受かったのに・・・。
図書館を守る報酬に、ちょっと齧るのはアリかも(笑)
読んでくださってありがとうございました~♡
意表をついて
おんちょろちょろ
本をかじらないといいのですが…
読んでくださってありがとう~
いやホントはあんまり深く考えてなくて、すごーく行き当たりばったりに書いたのですよ(^_^;)
なのでシリーズ化なんて!><
でも本当にこんな神様がいたらいいですねぇ
拉致して我が家に連れ込んで、坊に片づけられた本を毎日探してもらえる…
読んでくださってありがとう~(´▽`)
なかなかに有意義な図書室ライフだったのですね!
あたしは小学校ではまだ目覚めていなくて、中学で図書室娘になり、
入った高校の図書室はアベックのいちゃいちゃ場だったのでまた遠ざかりました…w
確かに図書館は外界と違う空間雰囲気を醸し出してます~
やっぱりたくさんの、書き手の想いが作用してるのでしょうか。
ねずみはその使いだったのかも^^
スミマセン実はそこまで深くは考えてませんでした><
タイトルを見た時から、早く読みたくて仕方がなかったの。
何て素敵な神さまなんでしょう^^
私はやりたくてもできなかった図書委員ですが、息子っちが中学の頃にやっていました。
彼は今も本が好きで、こんな神さまがいたらどうすると聞いたら、いろいろ話をしてくれそうです。
すっごく面白かった~
これ、シリーズ化いけますね^^
図書館(室)・・・小・中学校の時は毎日のように本を借り、使用済貸し出しカードを何枚ためられるか、
競争をするために通った場所(上位は張り出しがあったりしたので。笑)
高校でのそれは、クラスに馴染めなかった俺の避難所兼同人作業場(笑)
そして俺の町にもある図書館。
月に1、2度位ふらーっと行って、入口から一番遠い棚の所へ行って、
誰も読んでなさそうな本などめくっていると、まず音が聞こえなくなり、
人の気配も感じなくなり、そしていつの間にか1、2時間は平気で過ぎてますね。
図書館と言うのはどこか、刻の魔法に支配された空間、そんな気がします・・・
ねずみクンは、そんな魔法の世界と現実との狭間に現れた、神様の悪戯、だったのかも^^
ネズミさん、なんてったって魔法使いの弟子になるくらいですから!(某ディ×ニーより)ww
可愛さとズル賢さの同居は必須条件ですにゃー
保険委員、献身的で清らかなイメージだったのですがww
ねずみさん、魔法使いの弟子もするくらいですから、
タダモノではないのですよww
図書委員って、学校の本を自由にできる権限がある!
それだけで十分魅力的な委員でしたね~ww
あたしも司書室にドリップとお湯のセット持ちこんでコーヒー淹れてましたww
紙媒体に関しては、ねずみさんよりGの方が悪魔です~
ねずみさんはあんまり本はかじらないけど、Gは紙もがしがし齧りますから…(ノДT)
坊の通知表をお仏壇に置いておくと、三日でGの餌になるんですよ(ノДT)
それって、外国の絵本じゃなかったかなぁ…
子供が小さい頃にエアコンで涼しい部屋を求めて図書館通いしていた頃に見た覚えがあります。
本屋さんだと売れる傾倒の本を並べるから、
本屋さんではあんまり目にする事のできない本でもちら読みできるのが図書館のいい所ですよね。
勉強のためとか暇つぶしにとか、色んな人が出入りしてるのを見るのも楽しいです。
そういう余裕が味わえるまったりゆったり、いいですね~(´▽`)
図書館員の求人は異常なくらいの倍率で難しいって友達に聞かされたことがあります!
果敢にも挑戦されたのですね><
本は読み終わったらすみやかに返してあげてください~
その子を待ってる人が居ますので…たとえばあたしとかww
あぅーTT 活字が読むの辛くなるの、解ります~
あたしも先々月、遠近両用メガネデビューしました…
でも軽めの遠近両用なので、結局書類書いたりとかは眼鏡外してやってますww
娘ちゃまも、一生懸命お仕事に励んでるのでしょうか。頑張って欲しいものですね^^
読んでくださってありがとうございました♡
図書館員の求人って凄く倍率が高いって聞いた事がありますよ…
司書の試験だけでも難しいのに、就職も難しいんですよねー><
うちの地元図書館は採用試験すらこの数年行われていません(T▽T)ノ
わびすけさんはコメントとかコメントレスくださる時とても丁寧に書かれるので
案外向いてた職種のような気がしました^^
自分の体調がすぐれない時なのに、
こんな小話読めないくらいでゴメンなんて言わないで T△T
うんうん、応募する目標が出来ると、生活にハリが出るし、
ちょっとした辛い事なら「これを書き上げるまでは!」て我慢できるし!
って、そんなのあたしだけかしら~(^_^;)
でも〆切を意識しすぎるようになると逆にストレスにもなっちゃうので、
お互い無理のないように頑張りましょう^^
神通力もなかなか渋いですっ!
保険委員になったから、保健室のベッドがいつでも自由に利用できると思ったが班員に石頭の女がいた><
・・・あれ?だけど、ねずみさんは悪魔にもなるかも・・?どきどきどき
私も高校の時図書委員でしたよ!昼休みは司書室を溜まり場にしてお菓子食べてた…
自作小説倶楽部は、かつての図書委員多そうですねb
ねずみの話で図書室に住んでいるねずみも出てきたのがあったな~
おぼろげにしか覚えてない…><
図書室や図書館て 外の世界と違う時間が流れていて 好きです♡
難しい本の棚の前で 興味を持った題名につられて 手に取って立ち読みしてみたりするのとか(笑)
借りても最後までは 絶対読まないから その場でお別れしちゃうんだけど
自分の好みだと探さない本にも出会える☆
まったり ゆったり イイですよね♪
そろそろ返却に行かないと、本の神様が来ちゃいそう^^;
最近、根気がなくて活字を読めなくなって(老眼がかなり進んでる)
だけど、うかつにも神様の居る図書室にワープしちゃったww
結ちゃんが、娘とダブっちゃって、きっと仕事しながら
こんな対応してるんだよな~なんて思っちゃたり・・
とても、面白かったです♪
でも求人に全然引っ掛かりませんでした(;;)
後で思えは、司書の仕事の半分は対人サービスだから、
私には合わなかったんだろうと納得しています。
小説を書いてるみたいだよね。
凄い!!と本気で思うわ。ちょっと前に1作書きあげてみたのだけれど、
結構気力体力を使ったものです。(--;)ゞとはいえかなり楽しみながら
作ったのだけれどね。
でも・・・・ちょっと応募なんかしてみようかしら・・と企み中www
でもでも・・・・私の頭では書き続けるという事が出来ないのでは??とか
思ってたりしてね、ちょみちゃまの様にドンドン書けるだけの脳みそと想像力が
欲しいなって思ってるわ。
夏休み中は書けそうになくて・・・ていうか二コタには書かないのだけれど、
作ってみる気は本気モードになりつつあります><
当然の事ながら二コタ内で以前私が書いたしょうも無い程度の文章ではないのでご安心を!
かなり気合を入れるつもりよwああ・・・脳みそ頂戴( *´艸`)クスクス
うひひ♡
あたしも中学入ってすぐ図書委員に立候補しました。
とても良い担当先生のおかげでとても充実して過ごせました。
読んでくださってありがとうございました♡
いつも読んでくれてありがとう~
パパりんも図書館好きなのね!
でも、図書館では新刊や人気作は常に予約の争い…
買った方が早くていいじゃん! て、つい買っちゃいます(笑)
そこまでしなくていい気分の本なら文庫化待ちかなぁ
日本の出版システムはドキドキさせられる事が多いけど、
本そのものが高価な諸外国を考えると私達はとても幸せな国に住んでいるのかもしれませんねぇ
読んでくださってありがとうございました♡
なんかいい話だね^^
あたしも図書委員に立候補した覚えがあるよん^^
自分の知らない物語がある悔しさ
これは本好きみんなに共通するジレンマでしょうかねえ。。。