Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


恋してしまった狼 *短編小説*


俺は罪深き狼だ。
人間を食らい、肉を食としている…。

だが、俺はそれを嫌だと思ったことはない。

なぜかというと、肉は本当にうまい物で、食べている時に快感を覚えるのだ。
これは自分で捕った獲物だという優越感にだって浸れる。

こんな生活がずっと続けばいいなと思っていた。

…今日まではな。

チュンチュン…

俺は目を光らせて、獲物を探していた…
そんな森の木陰から、赤い頭巾が見えた──

「 …なんだあれは。 」

疑問に思った俺は、どんどん赤い頭巾に近づいていく。
その目は獲物を狩るときとは違う…何かに興味を持つような目で…

「 っ…!!! 」

赤い頭巾の正体をハッキリと目に入れた俺は、
全身に電気が走った。本当に初めての感覚で驚いた。
胸の当たりがキュゥっと締め付けられて、身動きが取れない。

俺の目に映ったのは、赤い頭巾をかぶり、花畑で花を摘む彼女。
彼女の周りにはキラキラと幾つもの星が輝いていた。

錯覚だろうか…?目をこすってみる。
いや、違う。錯覚なんかでない。

「 あっ、この花可愛い。 」

彼女はピンク色のコスモスという花を手にとり、カゴに入れた。
その一つ一つが愛おしい。

この日から俺は、彼女を見つめる生活が始まった…
何度も願った。人間になりたい…と。
肉を食わないで我慢した日だってあった。

…でも、所詮、狼は狼だった。
俺は肉を食わないなんてできないし、人間にだってなれない。

俺の目に映るのは、美しい赤頭巾だけだ。
俺達が仲良く並ぶ光景なんざ、二度とみれねえんだろうなぁ。

「 …人間になりてぇ。 」

『 …それ、本気で言っていますか? 』

「 え、え?んえ? 」

どこからか知らない場所から聞こえた声。
透き通った美しい声だ。ピアノの音のようだった。

「 だ、誰だ? 」

『 あなたの願いを叶えれるものです。…その願い、本気ですか? 』

「 …俺の、願い? 」

『 本気ですか? 』

女は少し怒ったような声で言う。
その質問の答え意外は受け入れてくれなさそうだな。

「 …はい。 」

『 …では、叶えます。 』

”叶えます”そう言った瞬間、俺の記憶は途絶えた。
視界が真っ暗闇になり、気づけば俺は赤頭巾がいつも来ている花畑に寝ていた。

「 …あれ、ここ 」

「 あれっ…、人がいる…? 」

「 っ!! 」

綺麗に透き通った赤頭巾の声…。
俺は一瞬でわかった。

でも、一瞬疑問に感じた赤頭巾の言葉。

”あれ?人がいる?”

赤頭巾は今俺を『 人 』って言ったのか…?
ってことは…

俺は自分の手に目を向けた。
案の定、指は五本指で、長くなっていた。

「 おお…人間…だ… 」

「 どうしたの? 」

赤頭巾が俺に近づいてくる。
初めての近距離で、ドキドキが止まらない。

「 あ、えと…その… 」

言葉が出ない。
いつも獲物を狩る時の頭脳の回転はどこへいった…?

「 怖がらなくて大丈夫!!私の名前はソフィ。よろしくね。 」

赤頭巾は俺に手を差し出した。
これは、どういう意味なのだろうか…?

「 ね、ね、ほら早く!!手を握るのっ!! 」

そう言って、彼女は俺の手を強引に自分の手に握らせた。
これは…どういうものなんだろう…

「 …これは? 」

尋ねると、赤頭巾は笑顔で答えてくれた。

「 握手って言うの! 」

「 握手… 」

彼女の笑顔と共に、俺はまた心が締め付けられる。
本当に彼女の笑顔は輝いて見える。

「 んー、じゃあ。私行くね!!あ、あなた名前は? 」

「 俺…?俺は…クラッシュだけど 」

「 そっか、じゃあクラッシュまたねー!! 」

彼女は手をぶんぶん振って、帰っていった。
俺は見よう見まねで手を振った。

初めての彼女との会話。
舞い上がらないわけがない…。

「 ~~~//// 」

顔が熱い。
もしかして、燃えてるのか…?

そして、改めて自分の手を見つめる。

「 …すげぇ。 」

確信した。「 本当に人間なったんだ 」と。

そして、俺は思う。

明日も彼女に会いたい…と。
もしかしたら、これが”願い”という奴なのかもしれない。

そして、俺は初めて一族から離れ、一人で眠りについた。
きっと族の奴らは心配してるだろうなぁ。

「 クラッシュがいない!! 」って。

あははっ、想像できるから笑っちまうぜ。

「 …ガー 」

そんな事を考えてるうちに、いつの間にか眠りについていた。

ー朝ー

「 ふわあー…。 」

目を覚ますと、俺に向かって日差しがさしていた。

「 眩しいなぁ~、ったく。 」

そう呟いて、俺は目をこすった。
そして、走ってる羊の群れに目がいった。

「 …お、おいしそう。 」

俺は全速力で走って羊の群れを襲った。
一匹の羊に噛み付き、食いちぎろうとしたその瞬間──

( …あれっ、噛めねえ… )

そう…。羊の肉を引きちぎる事ができなかった。

俺はすぐに我に戻って羊を話した。
羊はほぼ無傷で群れに帰っていった…。

俺が狼だった時は、きっと命を落としていただろうに。

…その前に、俺は驚いた事がある。
人間になれば、羊がおいしそうに見えないと思っていた。
なのに俺は全速力で羊を追いかけ、食おうとした。

狼時代…赤頭巾がおいしそうに見えたことがあった。
もしかして俺…このままだと…赤頭巾を食ってしまうかも…

あの時は羊を食べて、赤頭巾を見ていたから…
あまりおいしそう、食べたい。という願望は強くはなかった。

…でも、今羊も食べられない状態だったら…

「 やべえ!!やべえよ!! 」

そう叫び、俺は咄嗟に近くにある草を手にとって口に運んだ。
だが、すぐに吐き出した。

「 ぺっ!!ぺっ!!んだよこれ!!!! 」

とてもじゃないが、苦くて食えなかった。
草食動物はこんなん食って生きてけてんのか…。

俺は草を見つめ、少し草食動物を羨んだ。
俺も草食動物だったら…なぁ…。

「 クソッ 」

下唇をかみ締め、俺は思った。

なぜ…なぜなんだ…
人間になったのに、なんでこんな目に…

悔しかった。せっかく…赤頭巾と近づけたというのに。
俺は…結局人間にはなりきれないのか…?
俺は…赤頭巾への気持ちさえ忘れて、欲望のために食ってしまうのか?

「 っ… 」

俺が赤頭巾を食べる姿を想像した瞬間、吐き気と共に鳥肌が立った。
寒気がする…自分でも顔が青ざめていくのがわかる…。

「 …俺はっ…俺っ…はぁっ… 」

俺は何がしたかったんだ。
赤頭巾と近づいて、何がしたかったんだ…?
ただ笑い合いたかったんだったら…

もうこれで…十分なんじゃないのか…?
これ以上望むものなど…ないんじゃないのか…?

「 …赤頭巾。 」

だが、赤頭巾の笑顔を思い出すたび、思ってしまう。

抱きしめたい。天から授かったこの両腕で抱きしめたい。
でも、おなかをすかせ、欲望に満ち溢れた俺があの子を抱きしめたら…どうなる?
きっと首から噛み付いて、殺してしまうだろう。

俺は、あの頃と変わらず、木陰から彼女を見ていた。
もう…あの子の笑顔がこっちに向く事もないんだろう…。

そう思った瞬間、彼女がこちらを向いた。

「 あ、クラッシュ!! 」

無邪気すぎる彼女の笑顔…。
揺れる心と共に、欲望が出てくる。

ダメだと言い聞かせても、やはり手が伸びてしまいそうだ…

「 …赤頭巾、ごめん。 」

俺は「 ごめん 」と呟いて、彼女を抱きしめた。

「 え…?クラッシュ? 」

数秒間たって…俺は離して、逃げた。
数秒間は正直欲望との戦いと、彼女への喜びが溢れていた。

もう、十分だ。彼女と会うこともないだろうな。
そう思って、俺は人間の体を授かった場所で、倒れこんだ。

ありがとう、赤頭巾。
お前の笑顔、二度と忘れない。

END




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