最高の特等席 ~読み切り~
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/05 22:55:31
最高の特等席…。
それは、コンサートの最前列でもなく、サッカーの最前列でもない。
…君の隣だ。
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『二股騒動で今、話題の佐藤美紀子さんの記者会見の様子です...』
『私は、ただ二人を愛してしまっただけなんです!逆に被害者ですよっ...』
朝っぱらからだらしない言い訳が聞こえる…。
佐藤美紀子…、二股をかけたって噂されてて、今日がその記者会見だったのか。
「はい、千夏」
「あぁ、ありがと」
丁度いい具合に焼かれたシンプルなトーストに苺ジャムを塗って、かぶりついた。
ていうか、本当に二股ごときで騒ぎすぎだ、このワイドショー。
二股かけたのが芸能人ってだけで、世の中に出たら二股なんてうじゃうじゃいるじゃん。
二股なんて、その人個人の問題なんだからほっとけばいいのに……。
「…千夏?どうしたの?」
「ん?何も無いけど?」
そう答えると、母は不安そうに私の顔をのぞき込む。
そして、ため息つき、牛乳を差し出した。
「あ、どーも」
私は長細い透き通ったコップを手に持って、一気に飲み干した。
そして、勢いよく鞄を担いで、ドアノブに触れた。
「行ってきまーす」
大きく母に叫んだ。
母は私の目をしっかりと見て、微笑んで…
「いってらっしゃい」
と、言った。
そして遅れて、後ろから見える階段のほうから顔を出し…
「お姉ちゃん!いってらっしゃい!」
妹の千奈美がいそいそと言った。
私はクスッと笑い、そして言った──。
「行ってきます」
眩い光が私の目に激しく映る夏の日──。
ミンミンうるさいセミの鳴く声。私は耳にイヤホンをつけながら、セミの声を防ぐ。
爆音で流れる大好きなバンドの歌に、最高の歌詞。
私はなんとなく、この夏の日が大好きだ。
蒸し暑いし、汗かくし、その部分は嫌だけど…
制服の着こなしとか、特に天気とか…ものすごい大好きな季節だ。
「~♪~♪~♪」
体でリズムをとりながら、学校へと足を運ばせた。
-学校到着-
「おはよぉ~、千夏ちゃ~んっ♡」
「………」
「…?千夏ちゃーん?」
「………」
「えいっ!」
「おわっ…!」
突然私の耳からイヤホンが外れた。
「何っ…!?って…麻友か」
「もぉ!何なの!?私の事無視するなんて信じられないっ!」
「はいはい、すんませーん」
「千夏ちゃん適当すぎー!」
他愛無い朝からの日常会話。
この子の名前は菊池麻友。昔からの友達で、言わば幼馴染。
可愛らしい感じの子だが、なぜだか周りの女子から嫌われている。
…まあ、なんとなぁ~く長く付き合ってなかったら分かる部分もあるんだけど…
長く付き合ってる私だからこそ分かる…麻友の良さが。
「──で…、って、千夏ちゃん聞いてる!?」
「ん、んえ?」
「もぉぉぉぉお!また一から話さなきゃいけないのぉ~!?」
「あー、ごめんごめん。いいよ」
「あっ、千夏ちゃん、待って!まだ話は終わってない!逃げるなー!」
私は麻友から走って逃げた。
もちろん、教室の方向に向かって猛ダッシュした。
すると、目の前には大きな背中が───…
「うわああ、ぶつかるっ!」
「えっ?」
ドォォォォォォォンッ......!!!
「ぃったぁ...」
「ぃっててぇ...」
「ああっ.....!」
前を見ると、そこには少し焼けた肌で、小柄な人な…
「ひっ、日並…」
「ぃってぇ…、って、宮城か」
「おわああ、ビックリしたぁー…。ご、ごめんね!ぶつかって…」
「い、いや。べつにいいけど…」
「ごめん、本当に…」
本当に最悪、なんでこんなバッドタイミング…。
それでも君は優しく微笑んで──
「大丈夫だから」
と、言った。
「っ……!////」
その刹那…、彼の優しさを浴びせられ、私は赤面した。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかった……。
「じゃあ…」
「あっ、うん…。私も教室行く」
「うん」
彼の背中を見つめながら、私は教室に向かって歩いていった。
大きく担いだ鞄、少しだけ遊ばせた毛。
…そのどれもが愛しくて、ずっと見つめていたい。
「…ん?」
「あっ、いや、何でもない!」
見つめていたのがバレたらしく、私は目を逸らし、両手を左右に振った。
「…ふぅ~ん?」
「…////」
もちろん、顔は逸らした。
さすがにここまでの赤面は見せれない…。
しかし、いつも長く感じる教室までの道がここまで短く感じる事があるだろうか…?
離れたくない…。もう少しだけ、彼の隣にいたい…。
だが、時は止まるわけもなく…
────ガラッ。
「おはよ~」
「お、日並!おはよぉー!」
彼はすぐに自分の友達のところへ向かった。
…さて、私も麻友のところ行こうかな。
「麻友ー…」
「あっ、千夏ー…、あんたいい加減にぃぃぃい」
「ハハハッ、宮城が怒られてやんのぉー」
「怒られてませんー」
「嘘つけ」
「うるさい」
毎朝のようにからかってくる男子。
「…千夏、イチャイチャしてる場合ではないよ?」
「そ、そんなんじゃないから!!」
「はぁ?アンタと何年付き合ってると思ってんのよ!嘘はいけませんよ!」
「も、もー!麻友は何もわかってない!」
だって私の好きな人はっ………
「…え?なんで日並見てるの?」
「っ!///な、何も無い!////」
「…あぁ、そーゆーことなのね?」
ニヤニヤしながらそう呟く麻友……。
ただただ耳まで真っ赤にして赤面する私。
「いいんじゃない?日並、優しいし」
「…ま、まだわかんないから」
「そんなん言っても無駄。もう顔に書いてるもん。”好き”って」
「ゥ゛……」
さすがに麻友には言い訳もできず、言い返せなかった。
麻友は、ニッコリと笑い、ガッツポーズをして──…
「頑張ってね!」
と、言った。
「う、うん////」
なんだかいつもはこーゆー話しないから、照れくさかった。
麻友はいつもこーゆー話をもちかけてくるけどね…。
───キーンコーンカーンコーン♪
「きりーつ、れーい。」
ようやく今日一日が終わり、私は大きく伸びをした。
「ふわぁ~…。さて、帰ろうかなぁ」
「ちーなーつっ、帰ろ…って、ん?」
後ろから近づいてくる人影…。
「…ひ、日並?」
彼はいつもと違った様子で、私にそっと話しかけた。
「…ちょ、ちょっといいか…な…?」
「…えぇ?」
何かを察したかのように、麻友は私の背中を押して…
「行ってきなよ!」
と、言った。
麻友に言われた通り、私は頷き、日並についていった。
そして、着いた場所は部室の裏側。
日並は頭をかきながら、目を逸らし、呟く。
「…俺今日部活だから…、わざわざここに来てもらったんだけどさ…」
「…う、うん」
唐突な発言だったが、とりあえず首を縦に振った。
そして、続けた──…
「今日は、宮城に言いたいことがあるんだ」
そう言った日並は、頭をかくのをやめ、私の目をしっかりと見て、
いつもと違う雰囲気に包まれた。
……………そして
「…す、好きになりました。付き合ってください」
「えっ……」
ずっとずっと言いたかった言葉、聞きたかった言葉が今…私の耳に入った。
足が崩れ落ち、私の目からは自然と涙が溢れていた。
「え、大丈夫!?」
焦って私に近づく彼…。
私は激しく何度も首を縦に振り、”大丈夫”と伝えた。
そして、ずっとずっと言いたかった言葉を…
「私も好きです」
今、言えた。
「え!?/////」
「……///////」
そこからは、数分間沈黙が続いたが…
決して、嫌な沈黙ではなく、大事な時間だった──。
うまく表現できない私と、少しシャイな彼…
もっともっと彼のことを知りたい…知っていきたい…
ずっとずっと、大好き。
ずっとずっと、隣にいたい。
素敵な時間をありがとう。
素敵な言葉をありがとう。
最高の特等席をありがとう──。
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※実話ではありません。