くじ引き勇者さま。【2】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/05 22:05:14
# - 旅に出てみました
意気込みはともかくとして、村を出てものの30分で命の危機にさらされては呑気に旅を続けようとは思えなくなるもの。
相手はネズミが5倍くらい大きくなった魔物で、やけに凶暴だった。
黄ばんだ汚い牙には毒があったようで左腕が痺れて動かせない緊急事態に陥っている。
幸い2匹しか居なかったのでメスらしき身体の少しだけ小さい方を、家から持ち出した果物ナイフで怯ませると、当然のように反撃してきたオスに盾代わりに出した左腕をがぶりと一噛みだ。
痛みは痺れのせいで感じなかったものの、正直びっくりするくらい血が出て気が遠くなりかけた。
こうなったらと苦し紛れに投げつけたナイフがオスネズミの右目に突き刺さりそのまま二匹は甲高く耳障りな声を上げて逃げていった。
僕の居場所はきっと周りの魔物たちに割れてしまったろう。早く移動しないと大変なことになりそうだ。
「……死ぬのかな」
村を出たときには感じなかった恐怖が、木陰で休んでいると妙に実感として沸いて出てたまらなかった。
別に死んでも良いと思っていた。
こんなロクでもない人生なら、と。
「死ぬって怖いね」
誰に言うわけでもなく、僕は膝を抱えてぽつりと漏らした。
左腕は、動かない。
*
「それでは、始め!」
くじの形式は、本当に単純だった。
始め、というのは村長の何の意味も無いかけ声で、実際には村長が持った村人の人数分に揃えられた紙切れを、横一列に並んだ村人たちが一人ずつ引いていくだけ。
無論村長はくじを引かない。
卑怯だと思えば良い。
誰を恨んだってこのご時世、キリがないからだ。
一つだけある当たりをいかにして見分けるか——そんなこと出来るわけがなく、村人たちはしぶしぶ、しかし内心ヒヤヒヤしながら順々に引いて行った。
引いたくじの先端が白いことに諸手を上げて大喜びする者、嬉し泣きする者、なんでかわからないけれど突然笑い出す者、一体誰が当たりなんだとしきりに周りを気にする者、さまざまだった。
せいぜい50人程度の村人だが、全員集まれば人口密度は高まるものだ。
がやがやとうるさい声の中、僕は一番最後に引いた。
他の誰もが、当たりを引かないままに。
それが当たりと、わかりきっていて。
「おめでとう、選ばれし勇者よ!」
村長は満面の笑みで僕の両肩を叩いた。
紙切れの先端に、申し訳程度に滲ませた赤いインクが、なんだか憎らしかった。
*
ふと気づくと、眠ってしまっていたらしい。
木漏れ日は既にオレンジ色だ。左腕の痺れは相変わらず治っていない。
それでもこんなに長時間魔物に見つからなかったなんて幸運というよりかは強運という感じだ。
頭の芯の居座ろうとする眠気をなんとか振り払って立ち上がると、なけなしの武器は魔物に奪われてしまったことを思い出して絶望的な気分になった。
村まで戻る気力は無い。
このまま歩き続けるスタミナも無い。
せめて、せめて初期装備くらい充実させてほしかった。
薬草を3つだとか、毒消し草だとか。
これじゃああんまりじゃないか。
魔王どころか魔物も倒せやしないなんて。
「……僕、やっぱり死ぬしかないのかな……」
熱くなり始めた目頭から、視界に広がる靄をこすって涙を追い払った。
泣くなみっともない。
……なんて、親にさえ教えてもらえなかったけれど。
とにかく歩こう。
自分を励ますしか無いんだ。一人しか居ないんだから。
「あれ?フレイ、まだこんなトコに居たの?」
と。
そのとき。
「……え」
「あーもうやっぱり泣きそうになってるー。泣くなみっともない」
「……スート、なんで?」
オレンジ色に染まる森、木々の向こう側からふと現れたのは、僕の幼馴染みだった。
*****
ふざけて書いたつもりがなんだか閲覧数(訪問者数)が多かったので調子に乗って続いてみました。
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そういっていただけるだけで嬉しいです……
そろそろ心が折れそうで……