初夢の続きは (18)
- カテゴリ:学校
- 2013/06/16 19:24:41
何度も見た夢……
夢は決まって夏の日から始まる
焼け付くような夏の日
木陰に覆われた神社の石段の上で
二人の子供は約束をする
一人は男の子で、一人は女の子
子供たちは十年経ってから
その約束を果たそうとする
その時、大きくなった男の子は
とても大事な何かを忘れていることに気が付いた
「一体何を忘れてしまったんだろう?」
男の子は一生懸命に考えた
けれどもなかなか思い出すことが出来ない
何度も何度も考えていると
やがて気が付く
それは女の子の顔だった
顔だけじゃない
姿も 声も 名前も…。 そうして約束さえも
何一つ思い出すことが出来ないのだ
男の子は少し怖くなって
急いでもう一度女の子に会おうと考えた
「神社だ、きっとあそこに行けば全て解決する」
そうして男の子は神社に、約束をした石段へ向かった
道中、風が強く吹き
霧が濃く立ち込め
途中で雨なんか降り出して
神社に行くのにすごく時間が掛かってしまう
けれど走っていると次第に雨は上がり
神社に着く頃には、西に大きく傾いた夕日が顔を覗かせていた
その夕日が鳥居の影をめいっぱい伸ばして、足元まで引っ張ってくると
その先には約束どおり待っている女性の姿が見えた
少し俯き門柱に体重を預けたまま、じっと待っている
急に時の流れが早くなったような気がした
夕日は急ぐように山の稜線に触れ
一日が終わりかけてるように感じた
そして少し湿った土からは夏の匂いがした
あの日と同じように……
(私 …って …だよ)
彼女の声はよく聞き取れない。
きれぎれの息遣いが彼女の声を聞き取る邪魔をする。
一体誰の声だろうか?
彼女の声は徐々に遠ざかり、姿は霧のようにおぼろげに消えていく
「名前を…」
精一杯の声を振り絞る
(知っているはずよ 私が誰か 誰よりも早く 知っているはず)
「待ってくれ」
待ってくれ 行かないでくれ
息が苦しい 肺が悲鳴を上げている
追いかけたいのに それが出来ない
きれぎれの息遣いは誰のものでもない
僕自身のものだ
深呼吸ができずに肺が苦しがっている
待ってくれ 置いていかないでくれ
君は… 君は…。
繰返し見た夢
最後に見た夢
そしておそらく
もう二度と見ることは無い夢
ようやく君に辿り着いた
君の名は……
『初夢の続きは』 scene18 『松梨』
いつもと違う道で遠回りして帰ることにした。
考えることはいくらでもあった。
本当は一本道だったはずだ。
けれどもその道は悲しみに続いていた。
だから元の道がわからなくなるように
複雑に繊細に入り組んだ道で覆い隠した。
梅子がしたのは多分そういうことなのだろう。
見渡す限りのアスファルトの海
そこを急ぐように泳ぐ人の波
空は飽くまで青く
雲ひとつない
太陽は頂点より降り
いささか柔和な顔付きになったとはいえ
未だ容赦なく地上の全てを炙りつくしていた。
風はなく、音といえば
行き交う人波の喧騒
ガリッ
小石を蹴った自分の靴音がやけに甲高く聞こえた。
普段とは違う道を行ったからなのか
人波に逆らって進む格好になった
すれ違う人を避けるように端へ端へと寄った。
一番車道沿いまで来たところで
前から来た人影にぶつかりそうになった。
「おっと」
直前で踏みとどまった。
その時、懐かしい匂いがした。
なんだろうこの香り。
しかし感傷に浸る暇なく、前方から声がした。
「俯いてちゃいかんよ、前を見なさい」
人影の主は、品の良さそうなおばあさんだった。
「はあ、どうもすいません」
そう謝って横をすり抜けようとしたのだが
どうしても記憶の底にある香りが気になった。
「あのぉ……」
「あら? 悟ちゃん?」
意外にもおばあさんから名前を呼ばれた。
「え? あ? そうですけど」
「ほれ、まぁちゃんのばあちゃんだよ」
少ししわのある顔が上品に微笑んだ。
(ん? まぁちゃん? まぁちゃんまぁちゃん…)
頭の中でそれに該当する人物を思い出そうとするが
どうにもこのおばあさんの孫であろう人物が、想像できなかった。
わかってなさそうな僕の顔を察してか
「わからんか?ほれ松梨の~」
言われて納得した。
確かに少しだけ松梨の面影があった。
「まぁちゃんとは仲良くしてるかね?」
「ええ、まあ学校では松梨は……。
目を細めながら聞くおばあさんに説明しながら
悟はすこし怖くなった。
今おばあさんに説明していることは間違いではない。
けれどもそれが本当の松梨の姿なのだろうか?
もちろんそれ以外の松梨の部分も知っていた。
でも、そのことは秘密にしておきたかった。
別にそのことをおばあさんに話しても
うんうんと聞き流してくれるとは思う。
けれども優等生である松梨以外の部分は
誰にも言わないほうがいい気がした。
そして悟も言いたくはなかった。
「そうかいそうかい」
おばあさんは時折頷きながら話を聞いていた。
「皆さんに愛されているんだなぁ あの子は
それなのになんで卒業まで待てんのかね」
「え? どういうことです?」
「ぬ? 聞いてないのかい?」
おばあさんから語られたのは
どれも初めて聞くことばかりだった。
離婚調停で、母方の実家であるおばあさんの家で預かっていたこと。
調停が決まり母親と暮らすため、引っ越して行ったこと。
高校受験の直前に母親が亡くなったこと。
本人の強い希望で、父親ではなく再び祖父母と暮らすことになったこと。
そして、今また父親と暮らすという話がまとまったこと。
「知らんかったの?」
おばあさんの問いに、悟は首を振った。
「そっかあ」
ビルの陰だったはずの場所に、急に日が射し込んできた。
あまりの事に混乱しているのが自分でもわかる。
松梨がまた引っ越してしまう。
またどこかへと行ってしまう。
「松梨は?」
その先をなんと聞いてよいかわからずにそう訊ねた。
「ん~どこだろね。 まぁちゃんは日が暮れねえと帰ってこねえから
どこで道草食ってんだか~」
そういっておばあさんは、ケラケラと笑った。
朗らかで力があって、楽しい声をあげながらだった。
けれどなんとなく言っていることと態度の辻褄が合っていない気がした。
心配なのか?面白いのか? 一体どっちなのだろう?
けれどそれはどうでもいいように思えた。
「あ、そういえば…」
おばあさんが何かを思い出したように口を開いた。
「一度だけまぁちゃんに聞いたっけかなあ
そん時は 神社って言ってたけど
子供じゃあるまいし 神社はなかろう?」
どくん と心臓が鳴った。
そしてそのまま心臓を掴まれたような気がした。
知っている。
僕はその神社を知っている。
それだけじゃない
刺すような夏の日差しを
吹き抜ける風を
知っている。
軽快な音楽が、
今日という日が夕方に差し掛かったことを知らせてくれた。
「もうこんな時間か、長話になってしまったな またな」
目を細め、軽く会釈をすると
おばあさんは太陽を背に歩き出した。
その姿を見送ることなく悟は、その場を離れた。
目を凝らすとあの場所には雲が立ち込めていた。
この雲の先に彼女はいる。
行こうかそこまで
強く願って打ち消した。
行くのはその場所じゃない
約束の場所だ。
ほんの少し霧が晴れたような感じがしますが。
思い出すべきなのだろうか…いや、思い出さなければいけないんだよね!!
そんな過去が誰しもあるのかもしれない。知らないうちにどこかに置き忘れてしまったような。
すっごく このあとが気になるし、この前の話の流れも読んでみたくなる物語ですね。
すばらしい。
次回がラストなんだね。楽しみにしてます^^。
ドキドキします^^*
夏の匂い、約束の場所、君の名は……
いいですねぇ~♪
おぉ。。続き^^待ってましたよ~♪
いよいよ、次が本当のラストですかね??ワク(`・ω・´)ワク
えっと。。出来るだけ間が開かないうちのupが望ましいですね(´艸`)"笑
でも、納得いくまで書くのが大事ですので、また次回こっそり待ってますね^^