■近代文藝之研究|講話|獨逸現代の音樂家(1)
- カテゴリ:その他
- 2013/06/10 19:53:41
■近代文藝之研究|講話|獨逸現代の音樂家 (1)
獨逸現代の音樂家
欧羅巴現代の音樂家、音樂指揮者に付て一言して見るに、欧羅巴の音樂といへば尠くとも現今までの形勢では獨逸が矢張り中心である。從つて歐洲の音樂家といつても、自然獨逸の音樂家の事になる譯であるが、無論我々は自から音樂が奏れるでもなければ、其方面に深い素養があるのでもないから、單に一般感美の上より門外評を加ふるのである、音樂も矢張他の藝術と同じく、原理に依り、規則に依り、技巧工夫に依つて、到達し得るものには或る制限があると同時に、其制限を超越すれば其所は到底説明の出來ぬ、いはば生命の源といふやうな點があるに違ひない。これを音樂を奏する者に付て見ると、特に西洋音樂の於いては、前に樂譜を据ゑて置て奏るのであるから、其譜を讀む事と指を動かす事とを學びさへすれば、誰でも其樂譜に書き出してあるだけのメロデーなり、ハーモニーなりの形式は出せる譯であるが、然しながらそれは眞の骨組または型に過ぎないのであつて、其中心となつてこれを活すもの即ち音樂の眞の妙味の方面は此外になくてはならぬ。恰度我々が字を書いても定つた字であれば、其形ちだけは誰でも同じに書き得るが、其字の良否、生死の區別は、到底其字の點の數や劃の數の説明の出來るものではなく、いはば筆者の精神がどれ位其字の中に流れ出て居るかといふ點で、其字の生死が決するのと同じ理窟であらう。
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*註1:獨逸
「逸」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/itsu_nogareru.jpg
*註2:音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg
*註3:指揮者・奏する者・筆者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註4:門外評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
*註5:技巧
「技」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/waza_gi.jpg
*註6:到達
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:其所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註8:説明
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註9:點があるに違ひない
原本には「點があるに違いない」とあるが誤植と思われるので改めた。
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註10:前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註11:樂譜を据ゑて
原本には「樂譜を据へて」とあるが誤植と思わるので改めた。
*註12:過ぎない
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註13:精神
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註14:同じ理窟であらう
原本には「同じ理窟であろう」とあるが誤植と思われるので改めた。
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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1