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■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本(10)

■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本 (10)

其所で老人は其理由を説明して結局兩人を仲直りさせ、眞實の愛は詐りの上には宿らないから、互に眞實の自分を知り合つてこそ、其所に眞實の愛が出來るのである、といふことをそれとなく説き聞かせ、此鏡は自分が持つて歸るが、其代りとして兩人には他の鏡を殘して置くから、それを見合つて眞の愛を知れと。兩人を引寄せて、互に眼と眼を見合はして見よといふ。兩人は互の眼と眼を凝乎と見合せる。女は思はず叫んで、げにも貴方の瞳の中に私の顏が映つてゐるといふ。男も、おう汝の瞳の中にも乃公の顏が映るといふ。老人莞爾として、兩人はそれに由つてお互を知らなければならぬ、それが眞の愛であるといふ。それで幕。
つまり此劇は、眞の自己を見合つて而して其上に愛を立てよといふので、別段大した教訓ではないが、一寸したシムボリズムに古い傳説を飜案したもので、手際に出來たものゝ一つといつて宜しからう。(明治三十九年談話筆記)



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*註1:其所で老人は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註2:説明・説き・傳説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註3:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註4:鏡
「鏡」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kagami_kyou.jpg

*註5:乃公
「公」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_ooyake.jpg
なお、「乃公」(だいこう)とは一人称の人代名詞。男が目下の人に対して、あるいは自分を尊大に言うときに使う。

*註6:教訓
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg

*註7:筆記
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。

*補註:
明治三十九年は西暦1906年、抱月35歳。前年秋に欧州(英独)留学から帰国したばかり。再刊した『早稲田文学』誌上をはじめ、文芸誌、新聞紙上で、文学・演劇・美術・音楽・社会問題等、幅広く健筆をふるい、『文芸協会』発会(2月)、『文芸協会』第一回演芸大会を歌舞伎座で開催(11月)等、演劇実践もスタートさせた年。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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