Nicotto Town



【小説】夜中の音3

早々に、部屋の中の荷物を纏めて、大家がいる表の大福不動産の方へ出向いた。

「大家さん、今日中に部屋を引き払います。手続きしてください!」
「高橋さんどうしたのですか?血相かえて。何か不具合でもありましたか?」
大家はのんきに愛想よく答えた。不具合どころの話じゃない。隣人には言うなと言われたが、怖い体験をしたし、先に聞いていればこんな部屋を借りる事も無かったはずである。文句の一つも言ってやろうと思った。
「いい部屋をご紹介してくれてありがとうございます!でも、幽霊が出るとまでは聞いてませんよ。しかもあの部屋で自殺しただんて!隣の人が親切にも教えてくれましたよ」
いっきにまくし立ててやった。
すると、大家は複雑な顔をしながら答えた。
「高橋さん、もうしわけありません。幽霊の事は謝ります。高橋さんの提示した金額ではあそこの部屋しかご提供できなかったのですよ。実際、幽霊をみないで過ごした方もいますしね」
「幽霊がいる、いないじゃなくて、自殺した部屋の場合はその事を教えてくださいよ」
「いや本当に申し訳ない。しかし一つ気になった事があるのですが?」
「今さらなんです?」
「いま、隣の人とおっしゃいましたが、隣とは102号室の事ですか?」
「えぇ、何か顔色が悪いというか目の周りの隅でまるで狸のような方です」

ボクの言った事を聞いた大家は顔色を変えてぼそりと言った。
「アナタが入居する時に隣は空き部屋だとお伝えしましたよね?」
それを聞いたボクは先ほどの勢いがみるみる萎んでいくのが解った。そういえば、そんな話を大家がしていたことを思いだしたからだ。
「いや、でもついさっきですよ?会話したのは今日が初めてですけど」
大家は顔色を蒼く変えながら話し出した。

確かにボクの言う風貌の男は以前に102号室に住んでいた。
しかし、もうその男がその部屋に住んでいるはずがない。その男は当時101号室に住んでいた女性を首つり自殺に見せかけて殺したのだ。
「殺した?自殺じゃなくて?」
「偽装殺人というやつですな。でも警察の調べですぐバレたのです。そこでその男は逃走したんです」
「それで捕まったと?」
「いえ、男は国道を抜け、山に入り無我夢中で逃げました。何も持たずに逃げたので食糧もなく、木の実や川の水を飲んで飢えをしのぎました。本当は魚を取って食べたかったのですが、痕跡を残すわけにもいかない。1週間ほどした時に雨が降ってきました。雨宿りの為に小さいな洞穴が川向こうに見えます。川は浅いので渡って行こうとしたのですが、雨量が思った以上に多く途中で足を滑らせておぼれてしまったのです。そのまま川に流されて川下で遺体で発見されたのですよ」

「つ…つまり、すでに死んでいる…と?」
「そうです。だからそんな男が102号室に住んでいるはずがないんです」
ボクの頭の中が真っ白になってきた。じゃぁ先ほど会った男はいったい…?

「そういえば、大家さん。やけにその男の逃走場面が具体的ですが、警察はそんなことまで解るものなんですか?」
すると大家はニヤリと笑ってボクを見て答えた。
「だって、その男がこの私ですもの。さきほど大家に言ったらダメだと申し上げたのに」
みるみる大家の顔が先ほどの顔色の悪い男に変わっていく。
何が何だか解らなくなってきた。大家と男の顔がくるくると入れ替わっていく。すると突然、

ピロロロロロロロロー

ボクの携帯電話が鳴りだした。反射的にでると聞きなれた声がする。
「こら!高橋!いったい何をしてるんだ!」
と課長の声が耳に飛び込んできた
「え?何って・・・」
ボクが答えにならない対応をしていると、課長が続けた。
「まったく、家を探すと言ってから3日も連絡をよこさないで。携帯電話はつながらない、会社にも出てこない。どうしたんだ?病気でもしたのか?それならそれで連絡ぐらいよこせ!」

3日?何を言ってるんだ。ボクはこの部屋にもう2週間はすんでいるのに。
気が付くと、ボクは住宅街の中の空き地に一人ぽつんと座り込んでいた。
大家も顔色の悪い男も大福不動産もすんでいたアパートすら何もない。

「どうなってるんだ…?」

電話先の課長に謝り、詳しい事情は明日報告すると答えて電話を切った。携帯電話の画面を見ると、部屋探しをした時から3日後の日付が表示してある。
顔をあげると、空き地の奥の方にボクが住んでいたあたりの所でボクの荷物だけが散乱していた。

とりあえず荷物を纏めてこの場を去ろうと歩き出したら、周りに誰も居ないのに、しゃがれた声が聞こえた。

「だから、逃げろと言ったのに」

アバター
2013/05/19 21:15
あー...
怖い話な気がして読んでなかったのに気になって読んでしまったorz
一人暮らしだから、怖くて眠れません。
ああ、この不調の原因ももしかしたら....キャーーー
アバター
2013/05/16 19:19
すまんw 
途中で読むのをやめたwww
アバター
2013/05/16 15:47
おお〜〜ヽ(^。^)ノ

素晴らしい、

面白かったですわ
アバター
2013/05/16 12:15
いっきに読みました。
面白かったですw

しゃがれた声の主の正体は、いったい?
という謎がポツンと取り残されるのも
それはそれで良い感じですね
アバター
2013/05/16 12:12

現代版 ムジナってところですかねぇ・・・?w




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.