金狼の重圧 『エデン編』…2
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/06 23:25:19
「よ!来たぜ」
「いらっしゃい、待ってたよ」
メトロポリスの5地区で争われてたEMレース。5地区のトップ全員が突然いなくなると言う事件が起こってから、もう4年が経った。
あの時は本当に騒然としていた。誰もがあの尋常じゃない全員の精神が崩壊したと言う噂を信じられないでおり、その当時のギャラリーたちでさえ口を噤む。話すことさえ怖かったのだ。
何であんなことになったのか?5人はあれからどうなったんだ?そう聞きたいのはやまやまなのに誰もそのことには触れない、そして風化していく。風化させた方がいいんだ、風化させよう。
風化させたいが為、誰もあの事件の話はしなくなった。本当は話しをしたかったのかもしれない、風化だなんてさせたくないと思っていなかったのかもしれない。しかし、ただただ誰もあの話しをしなかった。
当時のチームは全部が解散し、メンバーも走り屋を引退した。だから、どうかあの時のことは話さないでくれ、俺たちはもう引退したんだから許してくれ。
それほど衝撃的で重大な事件だった。
もちろん、あれから5人の地区トップが戻ってきたという話も聞かない。
ただ、新しいトップは現れるのだ…無尽蔵の如く…
ここはメトロポリス、ウエスト地区の、とある美容室。
かつてバタフライと言うトップが率いたチームの№2であったユウジは、5地区のトップがいなくなった日からすぐチームを解散させて自身も走り屋を引退した。その後、彼は美容師になるための勉強をし、今は新人美容師としてようやく自分の思い通りのハサミさばきを見せられるようになっていた。
「今日はどうする?」
「そうだな、俳優の尾崎健二みたいにしてくれないか?」
「う~ん、やってみるか」
今、髪を切られようとしているのは、ユウジの古くからの友達であるケン。学生時代にコンビニのバイトをしていて、ユウジたちはよくそのコンビニを利用していた。4年前のウルフ復活の件でユウジに重要な噂を教えたのはこの人物だ。高校を卒業後、実家の花屋を継いでいる。
「顔は尾崎みたいには無理だからな、髪型だけだぞ」
「そんなことな、わかってるよ」
ケンがここに来てユウジに髪を切ってもらうのは2回目だった。2人が会えば当然昔話に花が咲く。軽い同窓会と言う感じだ。
久しぶりに誰々を見ただの、会って話ただの、髪を切っているあいだ話しのタネは尽きなかった。
そんな楽しい話しが続いていたのに…
髪を切り終え、洗髪し、濡れた髪を乾かしている頃にはケンは何故か険しい顔になっていた。鏡越しにユウジの顔を見ながら、何かを言わなければとそわそわしている。
それを察したユウジはたまらず言う。
「ケン、どうした?髪型気にくわないのか?」
「…いや、髪型は気に入ってるよ…ただ…」
「ん?なんだよ?」
「ユウジ…おまえに言わなきゃいけないことがある」
次の言葉はユウジを震撼させた。持っていたドライヤーも重たくなるくらいに衝撃を受けた。
「………ウルフが復活したらしい」
皆普通の生活に戻って・・・、こういう日常の風景は
これから起こり得る波乱を予感させますね。
嵐の前の静けさ、といいますか。