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■近代文藝之研究|講話|英國の尚美主義(2)

■近代文藝之研究|講話|英國の尚美主義 (2)

高襟主義は日本では今の事であるが、英國にては丁度今から二十年乃至三十年許り前、即ち丁度一千八百六十年頃始つて、七十年八十年と二十年許りの間が尚美主義全盛の時代に當つてゐます。面白い事には凡て文藝上、社會上の新しいムゥヴメントの本場は佛蘭西と云ふのが常であるが、此尚美主義の運動の起つた前後には却て平生おとなしい英國に種々の新運動が起つた。何々イズム、阿々ムゥヴメントと盛に新氣運を起さうとしたものである。夫の宗教上のオックスフォード、ムゥヴメントまたは繪畫上のラファエル前派など皆それで、ついで一方には尚美主義の運動が起つたのであります。先づ活氣のあつた時代で、これは前申す如く一千八百六十年頃から八十年頃迄の事柄であつた。
さて此主義が如何にして起つたかと云ふ話に戻りますと――斷つて置きますが、之は英吉利のウヲルター[#「ヲ」は小文字]、ハミルトンと云ふ人の書いた書物を土臺にし、他の書物を參考として調べたのです――此派の運動はノルドオの説によると夫の佛蘭西のボドレア、今から丁度四十年許り前に死んだ詩人が本であつたらしい。此詩人が死ぬと同時に恰も昔アレキサンダア大王の死後諸侯が其領土を爭つて分け取つたやうに、此大詩人の崇拝者が四方から起つて惡るい善いの見境なく其の特色を諸方から模傚した。



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*註1:高襟主義は日本では
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:三十年許り前・前後・前派・前申す・四十年許り前
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註3:全盛
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg

*註4:文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註5:社會
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註6:運動・氣運
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:起つた・起さう
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註8:平生
「平」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei.jpg

*註9:阿々ムゥヴメント
「阿々~」という言い方があるかどうか不勉強のため知らない。「阿々」は「何々」の誤植ではないかとも思われるが、原本のままとした。
また原本には「ムウヴメント」とあるが、原本後述部分には「ムゥヴメント」とあるので誤植と判断し改めた。

*註10:宗教
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg

*註11:繪畫
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg

*註12:尚美
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

*註13:八十年頃迄
「迄」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註14:戻り
「戻」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/modosu.jpg

*註15:ウヲルター[#「ヲ」は小文字]、ハミルトン
ウォルター・ハミルトン(Walter Hamilton/1844年~1899年)のこと。ここに出て来る書物とは『イギリスにおける審美的運動(The aesthetic movement in England)』(1882年・刊)のことで、下記 URL で読むことができる。
http://archive.org/details/aestheticmovemen00hamiuoft

*註16:調べた
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註17:ノルドオの説
「説」の旧字体。旁は「兌」。
マックス・ジーモン・ノルダウ(Max Simon Nordau/1849年~1923年)のこと。ハンガリー出身、ベルリンを経てパリで生涯の大半を送る。シオニズム指導者にして、医師、小説家、哲学者、社会評論家。『パラドツクス』(明治39年)、『現代文明之批判』(明治40年)、『現代の堕落』(大正3年)などの著作が当時日本で翻訳されている。

*註18:ボドレア
シャルル=ピエール・ボードレール(Charles-Pierre Baudelaire/1821~1867年)のこと。フランスの批評家、詩人。『悪の華』『パリの憂鬱』『人工楽園』等。

*註19:諸侯・諸方
「諸」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_moro.jpg

*註20:分け
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註21:崇拝者
「拝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hai_ogamu.jpg
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註22:見境なく
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2013/04/01 20:29
今回むずかしい^^



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