赤ずきん第2話~姫林檎original~
- カテゴリ:自作小説
- 2013/03/11 10:19:56
赤ずきんは銀色の狼を探す為、今よりも狼の生息が多い北の地域に移動しました。
その際に、仲良しのリスさんとウサギさんをお供に連れて行きました。
北の地方にやってきても、昼間は息を潜めているのか、狼と遭遇する事はありませんでしたが、夜になると遠吠えが聞こえたり、近くに潜んでいる事は分かりました。
赤ずきんは廃屋と化した、こきりが使っていたと思しき小屋を借りて住まう事にし、昼間は食材になる木の実を集めたり、火を付ける為の薪を集め、夜になると周辺を散策し、銀色の狼を探しましたが
それらしき情報は得られませんでした。
そんな日々を送っていたある日、いつものように木の実採集を終えて小屋に戻った赤ずきんの前に、一匹の狼が現れました。
あの銀色の狼では無く、茶色と白の毛が混じった狼です。
未だ昼間だと言うのに狼が現れたので、赤ずきんは驚きましたが、銀色の狼の手がかりが欲しかったのですぐさま冷静になり、目の前の狼に声をかけました。
「この辺りに銀色の毛をした狼を見た事がある?」
いつも動物に話しかけるように、目を見て、心から語りかけました。
しかし狼からの返事は得る事は出来ず、恐ろしい形相で赤ずきんを睨みつけたと思うと
一気に姿勢を低くして勢い良く地面を蹴り、飛びあがって赤ずきんに襲いかかってきました。
危険を察知したウサギさんがすぐに駆け寄り、赤ずきんをかばおうとしましたが、草食動物の兎では叶うはずもなく、あっけなく突き飛ばされ地に伏してしまい、
ウサギさんを突き飛ばした狼の勢いは衰える事無く、そのまま赤ずきんに鋭い爪で襲いかかりました。
赤ずきんは恐怖で足が立たず、震えて一歩も動く事が出来ません。
今まで熊や猪と言った獰猛な獣とも仲良くしてきた赤ずきんでしたので、狼と意思疎通が量れないなんて信じられない事で、ショックを隠しきれないのです。
でも普通に考えたらごく当たり前の事でした。
赤ずきんが元居た森の動物たちは、幼いころからの付き合いでしたし、人間の近くで暮らしていたので、とても仲良くなる事が出来たのですが、
ここの森は人の気配も、近くに町なども無かったので、余所からやってきた人間の気配に気が立っていて、襲いかかったのです。
突き飛ばされてしまったウサギさんの安否も気になりますが、目の前の狼から目を離す事が出来ず、ただただ見つめ返し思いを伝えようとすることしか出来ません。
(お願い、どうか分かって。私はあなたたちに危害を加えたりしないわ。ただ、あの銀色の狼さんにもう一度逢いたいだけなの…)
じりじりと近付いてくる狼に願い続けます。
一メートル付近まで近付いて来た時には、もう駄目だと目を瞑って身構えたのですが、ふと横を風が通り過ぎるのを感じて目を開けると、倒れていたウサギさんを口に咥えた狼が去っていくのが見えた所でした。
恐怖に震えて緊張で固まった身体がようやく動くようになったのですが、狼に追いつく筈もなく、
大事なお友達のウサギさんは連れて行かれてしまい、赤ずきんの左腕には深い引っ掻き傷が大きくついてしまいました。
結局銀色の狼の手がかりも手に入れる事も出来ずに…
銀色の狼、一目逢いたいだけなのに…それさえも叶わないの?
暫くはウサギさんを失った悲しみで赤ずきんは小屋に籠り、幾日も泣き続けました。
リスさんもそんな赤ずきんを励まし続けましたが、それでも立ち直ることは出来ずに、
やがて赤ずきんは高熱で床に伏してしまうのでした。
高熱は3日も続き、リス一匹では赤ずきんを元気にするだけの食糧を運ぶ事も出来ず、町から遠く離れているこの森ではお医者様も来ては貰えないし、あまりの高熱に自分の足で行く事も叶わないのです。
1週間が過ぎても熱が下がることは無く、赤ずきんはある事に気が付きます。
狼に受けた傷が熱を持って大きく腫れている事に。
腫れて大きくなった二の腕は、どくどくと心臓と同じように脈打ち、腕を僅かに動かすだけでも傷むようになってしまったのです。
動物特有の菌が繁殖して化膿してしまった腕、深い森の中の粗末な小屋では応急処置を施す事など出来る筈もなく、赤ずきんはただ痛みを堪え、自然に治癒していくのを待ちましたが、
しかし良くなるはず等無く、指先の感覚は無くなり、左の肘から下は冷たくなり動かなくなりました。
不思議な事に身体の他の部分にも変化が現れ、赤ずきんの綺麗なブロンドの髪は濁った水の様な灰色に変わり、自分では見る事は出来なかったが、目の色も半分金の目に変わってしまっていました。
小さな身体で、一生懸命食料や水を運んでいたリスもいつの日か、戻らなくなってしまい、赤ずきんは小屋で一人きり、病と闘っていました。
何日が経った頃でしょうか、意識も朦朧として、もうこの命も終わりなのかもしれないと赤ずきんが思い始めた頃、小屋に何者かが入って来たのです。
霞む目を凝らして確認すると、僅かに注ぎ込んだ月明かりに反射してキラキラと銀色に光り輝く毛を持った、あの銀色の狼だったのです。
ようやく逢い見えたその姿は、夢か現か…幻か…
(最後に逢う事が出来て良かった)
心からそう思った赤ずきんは、籠めていた力を放ち、なんとか繋ぎとめていた意識を手放しました。
沈んでいく意識の中、自分の体が何か暖かいものに包まれて、病のせいで重く鈍くなった身体が軽くなって行くのを感じ、赤ずきんは自然とこれが「最期」なのだと感じとりました。
念願の銀色の狼と再開を果たした、赤ずきん。
しかしこれは最期ではありません。
あの時赤ずきんが銀の狼を救ったのと同じように、銀の狼も赤ずきんを助けに来てくれたのです。
赤ずきんの淡い恋心から膨らんだこの想い、銀色の彼に伝えることは出来るのでしょうか。
次回へ続く……
◇あとがき
結局忙しくなってしまい、続きを書く時間が無く、今になってしまいました。
ようやく続きを書く事が出来て良かったです。
多分予定していた通り次回で最終話になると思うのですが、
前話と比べると、少し残酷で仄暗い感じになってきましたでしょう?
私が純粋にハッピーエンドなお話を好まない捻くれ者なせいで、赤ずきんは可哀想な運命をたどる事になります。
有名な童話も、一見ハッピーエンドに見ますが、「これは本当にハッピーエンドか?」と思わせられる物語もありますよね。
残酷だったり、可笑しな部分があったり、さっぱりしない終わり方だったり…。
改めて童話って面白いなぁと思わされます。
この物語は完全にフィクションで、殆ど私の捏造で書きあげているのですが、ふと狼の習性を少しは知っておくべきだろうと、少し(ほんの少し)調べたのですが、ニホンオオカミとは絶滅種だったのですね。(そんな事も知りませんでした)
このお話に出てくる狼は、ヨーロッパの方の大きな狼をイメージして書きました。
人間の生活が便利になる反面、動物の生活は窮屈なものになっていって、そのせいで絶滅に導いているのかもしれないと思うと、柄にもなく動物にも優しくしなくちゃいけないなと思わせられました。
私自身、動物の事をあんまり可愛がったり出来ない性格なので、赤ずきんのようにたくさんの動物と暮らしたりなんて出来ませんけど、同じ地球に生を受けた者同士、仲良く暮らして行かなければなりませんね。勝手に追い出したり殺したりなんてしちゃいけないんです。しかし弱肉強食とも言えるんですけどね。難しいです。
由貴香織里の「ルードヴィッヒ革命」でしたっけ、それがこんな感じに童話をモチーフに、
ブラック要素も交えながらのお話で面白かったんですよー(*^ω^*)
一応4巻まで出ていてルードヴィッヒ王子が花嫁を探す、という続きものなんですが、
短編として読めるのでもしご近所の古本屋さんにでもあれば立ち読みしてみても良いかもw
ほほぉ…でも人間の匂いを察知して逃げ回ってるだけかもしれないですもんね!
まだまだこの日本のどこかには居そうな気がします!(`・ω・´)
ロマンですねぇ~♪ でももし本当に見つかってしまうと、
人間は捕まえて檻に入れて繁殖させようとするんじゃないかなーって思ったりして…
なのでずっと居るか居ないか、って状態であり続けて欲しい気もします^^;
続きも読みに来てくださって…本当に本当にありがとうございますっっ!(´;ω;`)
私もブラックおとぎ話大好きなんです!なのでそう言って頂けますと、嬉しいです。
調子に乗ってまた違う童話をモチーフにして書いてみたいと思っています^^
由貴香織里さんは名前しか知らなくて、まだ漫画読んだ事無いんですが、読んでみたくなりました!
環境省のレッドリストでは50年目撃情報が無い場合は、「絶滅種」の扱いになるそうなので、ニホンオオカミもその類だそうです。
でも絶滅といっても『絶滅(推定)』みたいな状況で、もしかしたらまたどこかで発見されるかもしれない可能性も無きにしも非ず…
今でも生存していると思って、探している人がたくさんいるみたいで、目撃情報などもあるようですが定かでは無いそうです。
もしかしているかもしれない者を探し続けるなんて…ロマンですよね!
何というか、自然と物語に引き込まれてて、読んでてドキドキハラハラしてしまいました。
こういうブラックなおとぎ話大好きなんですよね、サンホラや由貴香織里の世界観ぽくて…
もし時間があればこれからもこういうお話書いて欲しいなー…なんてw
ニホンオオカミは完全に居なくなったわけじゃないけど、
繁殖で個体数を殖やせるほど数も居ないから絶滅種なんでしたっけ?←私もよく分かってないw