夢飼い。【23】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/02/08 18:50:51
現実は小説より奇なり。
さてどこぞのお偉方が言った言葉だったか僕はちょっと記憶に無い。
倫理の授業は人生観を新たに洗脳されるようで苦手だった。
先生の言葉は実に興味深くて面白かったけどさておき。
現実なんて生きているだけで息苦しい。
嫌なことでいっぱいだし、どうやら僕らの世代の未来はお先真っ暗なようだ。
大人になんかなりたくない。
ピーターパン症候群の青少年が増えても誰も文句は言えまい。言わせない。
そしてそんな現実は僕に思った以上にのしかかるし、
これからどうして行けば良いのかもわからない始末で。
僕は〝傍に居ろ〟と言われたから居る。
言われなかったら、どうするつもりだったろう。
たまに顔を出す程度に収めるか、はたまたもう知らないフリをしたか。
残念ながら僕は僕の望むままに「義務」を科せられ、
初対面の女の子に、何の前触れも無くいきなり「愛しています」と言われたような衝撃と気分に苛まれている。
「好き」より先に「愛」が来て、僕はどうすればいいのやら見当もつかない。
普段学校でツンツンツンツンツンツンツンデレ(?)みたいな無表情が通常装備の冷めた女の子に抱きつかれて
柔和な笑顔で「すきー」と言われたら誰だってそう思うに違いない。きっとそう。
姫の仰せに従い、〝傍に居ろ〟を確固たる使命としてお守りするか、
姫の世話係に真顔で脅された〝傍に居ろ〟に怯えながら従うか。
とにかく僕に選択の余地は無い。
何を信じて乾の傍に居てあげればいいのかさっぱりだけど、
そう、とりあえず傍に居れば良い、はずだ。
たとえ、「嫌い」だと宣言されても。
たとえ、「だれですか」と真顔で言われても。
*
「ゆきなんかだいっきらい」
なんとまあ。
1日お見舞いを休んだだけで開口一番これである。姫は手厳しい。
つんと子供っぽくそっぽを向いた乾を振り向かせるべく、僕は用意していたブツを取り出す。
「ほら乾、昨日出たばっかりの〝星と闇と〟の新刊だよ」
「ほえ?」
途端に目をきらつかせて食いついてくる。
そっか、やっぱり覚えてたか。
虎崎さんの言った通り、好きなことは覚えてるみたいだ。
ちなみに虎崎さんどうやって知ったのかは僕も預かり知れぬところではあるけれど、
よくドラマなんかである検査でもした結果だろうと思うことにしている。
「あげるよ」
「いーのッ?!」
「うん、お見舞い」
貢ぎ物、とでかかったことは黙っておこう。
僕があげるよと言う前からライトノベル掲げてみたり頬ずりしたり
表紙を撫でてみたりと忙しかった乾は、その言葉にますます色めき立った。
そしてお約束の点滴の針がぶっさされた左腕に本を抱き、細い右腕で僕の肩を強引に引き寄せる。
唇に柔らかい感触。
こじあけられる歯と舌と口内に広がるコーヒーゼリーのフレーバー。
一瞬で終わったけど、感謝や喜びや照れや悲しみもろもろをキスで伝えるのは止めて欲しい。
や、嫌ってわけじゃないけど、そう、その。
「あ、ゆき照れてる?」
「うんまあ」
「えへへー」
「…………」
うーん。
嬉しそうに言うのもちょっと止めて欲しい。
今にも虎崎さんが横からひょっこり出てきて、「あら由貴くん、らぶらぶですね」とか言いそうだ。
かと言って「キス」と平然と口に出来るようにはなってしまった。
僕はもう悲しき同級生男子とは違う。と胸を張りたい。
だって、好きと伝え合ったわけじゃない相手に、いきなりキスされたら、ねえ。
「……ねえ、乾」
だから訊いてみる。
「んにゅ?」
「乾はさ、どうしてキスするの?」
「好きだから」
臆面も無く即答されては多少照れながら訊いた僕の立つ瀬が無い。
幾分落ち着きを取り戻しつつ、でもさっきよりも少し照れながら続けた。
「じゃあ、僕のこと好き?」
「嫌い」
あれ、おかしいな。
*****
ほんとに作家デビューできたらいいななんて淡い夢を文章にしてしまいましたごめんなさい。
カオスヘッドが見れてテンションが上がっちまったのでついついうp。
明日、明後日ももしかしたらテスト勉強の狭間に書きます故
けっこー進めるかなーと笑
狙った流れに乗れてるのでクライマックスまでほぼノンストップです。
それでは、ここまでお付き合い頂いた画面の向こうのあなたに精一杯の感謝を。
− 糾蝶 −