初夢の続きは (9)
- カテゴリ:学校
- 2013/01/16 20:39:20
決意を口にした瞬間それは約束となる。
約束には覚悟が付きまとい。
覚悟は消える瞬間までその者を縛り続ける鎖となる。
その鎖をわずらわしいと思う者が居る。
その鎖を奮い立たせる為の材料とする者も居る。
どう転ぶかはその者の意思次第。
覚悟を纏い、少女は少し強くなった。
『初夢の続きは』 scene9 『前兆』
曇りがちで雨まで降った昨日までとは一転。
今日の空は雲ひとつなく、どこまでも青く高かった。
悟は季節を感じながら一人通学路を歩いていた。
彼を包む空気は、暖かな日差しと涼しい風とが混ざった爽やかなものだった。
歩道の片側に植えられている名前も知らない街路樹。
制服の列が織り成す耳慣れたちょっと騒がしいBGM。
毎朝繰り返す決まった光景は、今日が特別な日ではないことを教えてくれた。
「ふぁ~あ」
悟は、あくびを堪えようともせず大きく口を開けた。
結局、徹夜をしてしまった。
何故だか寝付けなかったのだ。
優のことも気になったが、やはり松梨の放った一言が忘れられなかった。
「…夢からは、いつか覚めるものだよ」
松梨が別段、特別な表情をしていたわけではない。
いつも通り、さらっと言っただけだった。
しかし悟は、そのセリフに何かひっかかりを感じた。
そして彼女がそう言った瞬間の、玄関の中の空気の微妙な変化も感じ取っていた。
だが彼には自分にそう感じさせるものの正体はわからないでいた。
どこか懐かしいような、それでいてどこか突き放されたような…。
窓の外を見つめながら、一晩中そんなことを考えていた。
闇夜が生まれたての青になり、それがやがて確かな朝に変わるまで…。
そんなことを思い出していると、後ろから声を掛けられた。
「先輩~悟先輩! おはようございます」
振り返ると、優と松梨が並んで登校してきた。
「おはよう」
そう言う松梨には視線を合わせ辛かった。
優にも昨日の告白のことがあってか顔を向けづらく
やむなく悟は明後日の方向を向きながら
ぶっきらぼうに、おはようと言うしかなかった。
「せ・ん・ぱ・い!どうしたんですか?」
そんな悟に気が付いたのか、優は悟の前へ出て行く手を塞いだ。
こうなると悟も降参せざるを得ず。
「優ちゃん、もう平気なの?」
とかわすしかなかった。
「ええ、お蔭様ですっかり元通りですよ~」
優はそう言うと、華奢な腕でガッツポーズを作って見せた。
「先輩にも、松梨先輩にも本当にご迷惑をかけました」
優はぺこりと頭を下げた。
その様子が、なんだか小動物みたいで少し笑ってしまった。
しかし当の優には何のことだか判らなかったらしく、体のあちこちを見回している。
「いや、おかしいトコは、別にないから」
そういうと、優は安心して微笑んだ。
「それじゃあ、お先です」
と、言い残して小走りに去っていった。
「ほんと、元気になってよかったな」
「そうね」
いつも通り、抑揚のない声で松梨は答えた。
それでも、ほんの少し安堵感は伝わった。
悟は昨日の別れ際の事を聞いてみたかったのだが、
どうしても切り出す勇気が沸いてこなかった。
2人は特に言葉を交わすでもなく、無言で歩き昇降口で別れた。
朝から淡々と授業は、進んでいった。
だが4時限目、手ごわい相手が現れた。
徹夜明けに古文とは運が悪い…。
悟は、そう思っていた。
なぜなら悟にとって、古文が最も睡眠導入剤としての効果が高いからだ。
悟は睡魔と戦いながら懸命に意識を保とうとする。
しかし眠ってはいけないという気持ちとは裏腹に、
瞼は徐々に下がり視界はどんどん狭まっていく。
古文の女性教師の言葉は、子守唄のように彼を心地よい睡眠へと誘った。
(徹夜だったんだし、しかたないよな)
回らない頭は、そう都合よく自己弁護を始めた。
するとすぐに、悟の意識は夢の世界へと旅立った。
遥か遠くから、たくさんの人の喧騒が聞こえる。
机に伏して自分の腕を枕代わりにして寝ていた悟は、その姿勢のまま目を開けた。
(ん? 授業は終わったのか?)
状況がよく飲み込めない悟は、寝ぼけた視線で周囲を見回す。
するとクラスメイトのほとんどは窓際へ集まり思い思いの声を上げていた。
「ねぇねぇ なんかすごいよね~」
「知らぬは当人ばかり、って奴?」
(くすくす)
何人かはこちらをチラチラ見ながらそんな声をあげていた。
なんの事だかさっぱりわからない…。
仕方なく、一人机に噛付いて居た暦村に声を掛けてみた。
「なぁレッキー、あれ何?」
「知らん、興味ない …そして俺をレッキーと呼ぶな」
およそ予想通りの答えが返ってきた。
他に話が出来そうな奴を探し、教室中に視線を彷徨わせる。
だが、みんな外の光景に目を奪われていて話せそうな雰囲気ではなかった。
一体何が起こっているのだろう? 芸能人でも来たか?
だが芸能人を見るために、この人垣を分けて進む気にもなれなかった。
(さて、どうしたものかな)
机に突っ伏したままの姿勢で考えていると、よく知った名前が耳に飛び込んできた。
「ひゅ~梅子やるぅ~」
誰が発したのかはわからない。
無論この中の誰かなのは間違いないだろうが…。
だがそんなことは問題ではなかった。
「梅子?」
どうも騒ぎの主は梅子らしい。
同じ名前の別人ってこともあるだろうけど…。
いや! そんなハイカラな名前アイツしかいないだろ!
人波をかき分け、窓際から中庭を見下ろした。
確かに梅子だ、誰かと言い争いをしているようだった。
「何やってるんだよアイツは」
悟は階段を蹴って降りた。
-
- みん♪
- 2013/01/16 22:07
- 次が楽しみです(*^_^*)
-
- 違反申告